上求菩提の先にあるもの(文化の普及について 最終回)

色々な国々で、その国独自の文化や伝統があるけれど、各々を文化の性能の3つの軸で比較すると、その深さも、広さも、賞味期限もその国ごとに全部違う。 だから、お互いの国の文化をそのままぶつけあったところで、表面的に触れるだけでは、深い相互理解にまで至る事は難しい。 そこを理解してゆく助けになるのは、他者への尊重。その場で善悪をつけてただ一つに断じないこと。 そして、その文…

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文化の性能(文化の普及について その10)

文化が高いとか低いとかは良く言われることだけれど、単純な高低だけでは文化の価値や程度を推し量る尺度としては不十分。何故かというと高低の方向性が明確ではないから。 人はともすれば、自分自身の価値観を基準にしてあれは良いとか、これは程度が低いとか言ってしまいがちなものなのだけれど、当の相手から見れば、自分だって程度が低いと見られているかもしれない。 以前「知の性能」のエント…

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落語にみる伝統と創作(文化の普及について その9)

  「・・もひとつそれから我々の噺はぁ、もぉ古すぎましてね。え~段々段々この頃世の中が変わってきて分らん事が多なりましたんです。なんでもないことが分らんのです。蚊帳なんてものは昔はもぉ誰でも知ってたんですけど、今でもご存じでっしゃろけど、蚊帳なか入って寝たという若い御方はあんま無いと思いますわ。わたしらもぉ昔はぁ~蚊一杯おりました。蚊も蝿もね。でぇ、わ~んと音がしてた。蚊帳入るときそのねぇ、団…

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素読と訓点(文化の普及について その8)

  漢字にルビを振ったり、歴史的仮名遣いに現代仮名遣いのルビを振る手法を応用すれば、文法構造さえ同じであれば、極端な話、古文であっても現代語のように読むことが可能になる。 たとえば、古文の本文に現代文の口語訳をルビとして振ってやれば、書き言葉には手を加えることなく、話し言葉を媒介にして、その内容を理解することができる。 もっと極端なことを言えば、外国語であっても、母国語の…

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「軽井沢シンドローム」が甦らせたもの(文化の普及について その7)

  「選んだのは耕平(だんな)であって薫(おねえ)さんじゃない・・・・・・選ばれた薫(もの)が選ばれなかった紀子(もの)に対して気を遣う必要はないんじゃない。選ばれなかった紀子(もの)に対して気を遣うのは選んだ耕平(もの)のするコトよ」 「理屈だよ それは・・・」 もう20年以上も前になるのだけれど、漫画家のたがみよしひさ氏の代表的作品に「軽井沢シンドローム」というのがある…

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歴史的仮名遣いの伝統保持機能(文化の普及について その6)

   『しかし、世間一般が考へてゐるのとは反對に、漢字問題よりは假名遣問題の方が重大である。なぜなら、第一に、漢字制限や音訓整理の方は始めから無理があり、現にその制限は破られつつあるからである。第二に、假名遣の表音化は國語の語義、語法、文法の根幹を破壞するからである。最後の「陪審員に訴ふ」は國字改惡運動の政治的小細工を暴露する爲に書いたもので、評論集に收めるには聊か品の無いものであるが、さうい…

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氾濫する外来語(文化の普及について その5)

  国語国字論争で森有礼の国語公用化論は、散々な非難を浴び、そして戦後の当用漢字および現代仮名遣いへの変更を経たものの、結局、日本は日本語を捨てることはなかった。 だけど、今の日本語の現状は、ある意味において外国語に対する「上求菩提 下化衆生」を行なっていると言える。 今の日本語でカタカナ表記の外来語がない文章なんて探すほうが難しい。アイスコーヒーやテレビを「冷し南米産豆…

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国語国字論争(文化の普及について その4)

  『一國の文化の發達は、必ずその國語に依らねばなりませぬ。さもないと、長年の敎育を受けられない多數の者は、たゞ外國語を學ぶために年月を費やして、大切な知識を得るまでに進むことが出來ませぬ。さうなると、その國には少數の學者社會と多數の無學者社會とが出來て、相互ににらみあひになつて交際がふさがり、同情が缺けるやうになるから、その國の開化を進めることが望まれなくなります。』 土屋道雄『國語問…

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簡略化の誘惑(文化の普及について その3)

  宗教なんかの布教活動で、多くの衆生に広げようと思えば、教えを簡単にすれば広がるけれど、あまりに簡単にしすぎると肝心の精神が失われてゆく。文化も同じ。 確かに、物事を簡単に簡単にしていけばいくほど、誰にでも理解できるようになってゆくから、多くの人への普及を考えると、どんどん簡略化していきたくなる。だけど簡略化すればするほど、本来の意味が失われ、中身がなくなって形骸化してゆく。 「…

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文化の多神教(文化の普及について その2)

  中国で「繁体字」と呼ばれる旧字体の復活をめぐる議論が起きているそうだ。現在の「簡体字」は中国の伝統文化の継承を妨げるから、繁体字に戻すべきだというのがその理由らしい。 漢字の簡略化は古くから俗字として行われていたのだけど、清朝末期から正字として使う運動が起こってきたとされている。 簡略化の方法は、字形の一部を残したり、元々の字の特徴や輪郭だけ残したり、偏や旁を置換えたり…

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善悪の裁定と文化の堆積(文化の普及について その1)

  日本のみならず、海外でもネットブログが盛んだけれど、中華系の日本語メディアであるレコードチャイナとかサーチナとかでは、いくつかの中国ブログサイト記事を翻訳して紹介している。 その中のひとつ、中国の「新浪博客」というブログで、中国で生まれた多くの文化が日本に渡り、発祥地であるはずの中国がそれらの文化本来の「精神」を失っている現状に対して、警鐘を鳴らす文章を掲載したらしい。 …

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国際戦略コラム主宰津田慶治氏懇話会参加報告

  4/18に赤坂で行われた、国際戦略コラム主宰津田慶治氏懇話会に参加してきました。 会場に向かう途中、少し道に迷い、工事現場の年配の守衛さんに道を尋ねる。赤坂オフィスハイツと言っても、知らなかったらしく、住所はドコですかと聞き返される。 赤坂4丁目13番5号と伝えると、こっちですな、と今来た道を指差される。少し戻ると見逃していた道があり、そこを入ると、赤坂オフィスハイツの…

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北朝鮮ミサイルをめぐる駆け引き

北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した際、ロシアの情報収集機が日米両国のミサイル防衛(MD)システムの運用を偵察していたことが分かった。 ミサイル発射の前日の4月4日に、ガメラレーダーが飛翔体を探知したと誤報騒ぎがあったけれど、軍学者の兵頭二十八氏によると、なんでもガメラレーダーはシナの奥地まで探知できるほど凄い性能らしい。 4月4日に誤探知騒ぎは、本当にロシアの人工衛星…

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成績連動給与(役人の仕事についての雑考 最終回)

「消費税率を3%から5%に上げた1997年度。「計9兆円の増収を見込んで、結果は前年度比で4兆円減だった。差し引き13兆円も読み間違えた。予想屋としては最悪。あれから学習しないのは愚かだ」。 昨年の自民党総裁選で勝利した直後の記者会見での麻生総理のコメント。 節約をしたり、無駄を省いて貯金をためるやり方は、支出を極力抑えて黒字に持ってゆくやり方だけど、もうひとつ重要な要…

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埋蔵金と貯金(役人の仕事についての雑考 その2)

  少し前、国会で霞ヶ関の埋蔵金なるものが取り沙汰されたことがあった。 埋蔵金とは所謂特別会計のことを指し、毎年発表される一般会計とは別の扱いになる予算。特別会計は全部で28あるとも言われていて、そのうち、道路公団(道路整備特別会計)、グリーンピア(年金特別会計)、KSD事件(労働保険特別会計)などで巨額の無駄使いが発覚している。 特別会計の総額は莫大で、予算規模は約175…

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目標の明確化(役人の仕事についての雑考 その1)

  役人の仕事についての雑考を全3回シリーズでエントリーする。 「くだらねえ完全主義だ。骨身にしみて反省させる」 東京都下水道局が新調した職員の作業服用のワッペンに、波線が描かれているのは「内規違反」だとして、約3400万円をかけて作り直していたことに対する、石原東京都知事のコメント。 下水道局側は、「基準に違反するものを使い続けるわけにはいかなかった」と答え、都の担…

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スマートグリッドと広域ユビキタスネットワーク

  オバマ政権が推し進めようとしている、「グリーン・ニューディール」政策。その中で注目されている技術のひとつとして、「スマート・グリッド」というものがある。 これは、米ゼネラル・エレクトリック社とGoogle社とで共同事業している技術のことで、電力網をIT(情報技術)と融合して電力の供給・利用の効率を格段に高めるしくみのこと。 簡単にいえば、各家庭に使用電力を逐一監視するメ…

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■運命について考える

  今日は過去エントリーの再掲をさせていただきます。 1.運命のエリア 運命について考えてみたい。運命、宿命についてWeb辞書で引いてみると、こう定義されている。 #NAME? 1.超自然的な力に支配されて、人の上に訪れるめぐりあわせ。天命によって定められた人の運。「すべて―のしからしめるところ」「これも―とあきらめる」 2.今後の成り行き。将来。「主人公…

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未来開拓戦略(麻生政権の経済対策について 後編)

  麻生総理は4月9日、都内の日本記者クラブで「新たな成長に向けて」 と題した講演を行い、その中で日本の「未来開拓戦略」を提示した。 本ブログでも何度か、麻生総理に日本の未来像を示すべき、希望の光を掲げるべきだと述べていたけれど漸く出てきた。 諮問会議が終わったこのタイミングで、経済対策とあわせて出したということのようだ。もしかしたら民主党の自滅に伴って国会運営に余裕が出て…

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麻生総理の追加経済対策 (麻生政権の経済対策について 前編)

  麻生政権の経済対策について考えてみたい。全2回シリーズでエントリーする。 麻生総理は4月10日の夕方、記者会見で事業規模56兆8000億円、財政出動15兆4000億円と過去最大の追加経済対策を発表した。 対策の概要は大きく次の3つ (1)景気の底割れ回避     ・・・雇用調整助成金の拡充、中小企業向けの貸付保証枠の拡大など (2)雇用や社会保障、子育て支援・・…

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覚悟のススメ

日本政府は北朝鮮のミサイル発射をめぐって、国連安保理決議1718(制裁)違反として、更なる拘束決議案採択を目指していたけれど、中露の反対もあって、拘束力のない議長声明になりそうな情勢。 採択をめぐっての各国の反応については、産経新聞記者である阿比留氏のブログで紹介されているけれど、これをみる限りバラバラ。それぞれの国でそれぞれの立場と思惑があるから当たり前といえば当たり前。 …

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近づく総選挙(内閣支持率と政局について 補追1)

  4月7日のエントリー記事に丸まる子様からコメントをいただいたので、補追としてエントリーしてみたい。 麻生首相は4月6日の夜、自民党東京都連のパーティーで「近々行われるであろう衆院総選挙」と述べたそうだ。 確かに支持率が回復傾向にある今が衆院解散のいいタイミングかもしれない。もちろん民主党が西松事件で弱っているのを見越してのことだろう。 3月30日の、次期首相にふさ…

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政策論争をしてこなかったツケ(内閣支持率と政局について 後編)

ここにきて、麻生内閣支持率が回復してきた理由は、敵失である西松建設献金問題も多少はあるかもしれない。 だけど、本当の意味で支持率を回復させるには、与党が経済対策において間違えないことに勝るものはない。なんだかんだ言っても、正しい経済対策をやって、実際に景気を回復させることが一番。 去年は定額給付金だけクローズアップされて、散々マスコミから叩かれていたけれど、定額給付金以…

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内閣支持率回復(内閣支持率と政局について 前編)

内閣支持率と政局について触れてみたい。全2回シリーズでエントリーする。 麻生内閣の支持率が回復傾向を見せている。4月6日までの各種世論調査では支持率が20%を超え、河村官房長官も大いなる激励と受け止めると発言した。 反対に大きく自民党をリードしていた衆院選の投票先は、自民党が民主党を逆転し、政党支持率も自民党が民主党を上回った。 特に注目したいのが、西松建設の違法…

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北朝鮮ミサイル発射

   北朝鮮が4月5日の午前に弾道ミサイルを発射したようだ。 ミサイルは、東北地方から太平洋へ通過した模様で、日本領土内への被害は今のところ確認されておらず、破壊措置には到らなかった。 これから、発射したものが、衛星だったのか、弾道ミサイルだったのかの検証が行われるだろうけれど、それ以上に国内の関心が非常に高かったのが目に付いた。 4月4日のミサイル発射誤報もあったけ…

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公私混濁からの脱却 (報道と選択について 最終回)

林思雲氏が述べている「避諱」を表しているとされる論語の「子路第十三」のやりとりをもう少し詳細に見ていくとあることに気づく。公(おおやけ)と私(わたくし)の問題がそれ。 葉公と孔子のやりとりは、親と子という肉親の間柄での話。公私でいえば、極めて「私」に近い領分での例。 このやりとりは、親子のような極めて私に近い関係の中で、どこまで厳格に公のルールを適用すべきかどうかの問題…

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既成事実化とネット工作(報道と選択について その3)

  避諱も度を過ぎれば当然反発を受ける。避諱の内容が国家の利益を損なう内容であれば尚更そう。 避諱はどこまでいっても嘘とゴマカシに過ぎないから、真実を突きつけられるととても困る。だから避諱を貫き通そうと思えば、真実を知る相手を黙らせるか、避諱した嘘を嘘のまま認めさせるしかない。 相手がどうしてもこちらの言うことを聞かなければ、避諱を主張するだけ主張しておいて、相手の反論を一…

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『避諱』という概念(報道と選択について その2)

  葉公(しょうこう)、孔子に語りて曰わく、『吾(わ)が党に直躬(ちょくきゅう)なる者あり。其の父、羊を攘(ぬす)みて。子これを証す。』 孔子曰わく、『吾が党の直(なお)き者は是れに異なり。父は子の為めに隠し、子は父の為に隠す。直きこと其の内に在り。』 葉県(しょうけん)の長官が孔子に、「私の村にはとても正直な人物がいて、父親が他人の羊を盗んだ時にそれを告発しました」と言った。 …

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WBC後遺症(報道と選択について その1)

  報道とその選択について考えてみたい。全4回シリーズでエントリーする。 侍ジャパン戦士にWBC後遺症が襲い掛かっているという。 イチローは3月30日の試合で眩暈を覚えて途中交代。 阪神の岩田稔投手は凱旋帰国後、左肩痛に襲われ、ヤクルトの青木は、筋肉痛と発熱でオープン戦を2試合連続欠場。そして岩隈は調整登板なし、ぶっつけで開幕を迎えるという。 ことほど左様に国際…

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高まる国防意識

  北朝鮮のミサイル発射に対する対応が慌しい。 今回のミサイル発射に対する政府の動きは、なにやら計画・計算された動きのように見えなくも無い。 いきなり発射されてから事後報告的に報道しかされていなかったこれまでから考えると隔世の感がある。 いままでと違って今回は事前通告だから、通告されて何もアクションしないのは拙いとしての動きかもしれないけれど、それを逆手にとった動きにみえ…

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