

1.ひろゆき×金融庁の対談動画
8月24日、金融庁は投資初心者向けに金融リテラシーや資産形成の重要性について解説する「金融庁ちょっと教えてシリーズ」で、「2ちゃんねる」の開設者で元管理人のひろゆき氏との対談動画を掲載しました。
ひろゆき氏は少額投資非課税制度(NISA)について「基本的には友達に聞かれた場合は“とりあえず全額NISAに突っ込め”と言ってます。金融資産というと株や投資信託や証券など基本的にどれを買っても得するか損するかはあるんですけど、でもNISAの枠で買っておくて税金を払わなくてよくなるので、税率分だけちょっとだけ得するじゃないですか。“ひとまずNISAの枠を全部使い切るまではNISAの中でやっておけば”とアドバイスしてます」と述べました。
この発言について、ひろゆき氏は別の番組で「投資ってNISA以外にもFXや仮想通貨とか色々あるんですけど、その辺ってある程度は知識があって手を出したら勝てるかもしれない。でも基本的にはかなり勉強しないとなかなかキツイと思います……2000年代にインデックスファンドを買っておけば、日本株式でもアメリカ株式でも全部プラスになってるんですよね。10年間だとリーマンショックや3・11の災害で株価下がってというのはあります。基本的には20年間だと全部プラスになるので、インデックスファンドに長期間ぶち込むのが一番安全だし、損しない形じゃないかなと思います」と述べています。発言自体はごく普通のものだとは思います。
ところが、このコラボ動画が炎上しています。
ひろゆき氏は過去に2ちゃんねる上の悪質な書き込みを削除せず放置したなどとして、民事訴訟で巨額の賠償金の支払いを命じられたにも関わらず、債務を踏み倒したからです。
ネットでは「債務を踏み倒した人を起用するのか」などと、ひろゆき氏を起用した金融庁の姿勢に疑問の声が上がっているのですけれども、26日、金融庁は産経新聞の取材に「民事訴訟の詳細は承知していない。批判は受け止め、今後の広報のあり方について考える」と回答。ひろゆき氏を採用したのは若者層に知名度と人気があることが理由で、出演料は支払っていないと説明するにとどめています。
また、鈴木俊一金融担当相もこの日の会見で「報告を受けておらず、お答えできない」とだけ言及を避けました。
2.ほぼ全ては時効になってるんです
この金融庁の態度にSNSでは「民事訴訟の詳細は承知していない。批判は受け止め、今後の広報のあり方について考える、と銀行が反社行との関係の言い訳をしたらどうか。報告を受けておらず、お答えできない、と銀行役員が反社とのつきあいについて検査官に回答したらどうか。想像力がなさすぎる」とか「お前らがやってる検査だの監査だの反社チェックだのどう落とし前つけんねん。お前んとこの検査官が来る時は座る方向までシミレーションすんのやぞ。なんや、ひろゆきと動画作っちゃいました★とか。舐めとんのか?お前ら全国の金融関係激怒やぞ」など、業界関係者と思しき人からの怒りのツイートが炸裂しています。
なんでも、ひろゆき氏と対談した金融庁の高田英樹総合政策課長は、パリ在住時代にひろゆき氏と友人になったそうで、去年まで財務省の主計官だった人物です。
今回の出演をオファーしたのは、ひろゆき氏の人気と友人関係であることからかもしれません。あるいは、岸田総理の資産所得倍増プラン、「貯蓄から投資へ」を推進しろとケツを叩かれているのかもしれません。
ひろゆき氏は、2017年5月に放送されたAbemaTV「エゴサーチTV」に出演した際に「2ちゃんねる」の書き込み削除をめぐり、多くの裁判を経験したことを告白。賠償請求額については「30億円くらいいったと思う」と発言しています。
この件について、視聴者から問われた、ひろゆき氏は「あれは悪いと全く思ってなくて、法が悪いと思ってたんですよ……今の日本だとプロバイダ責任法ってのがあって。ツイッターでもフェイスブックでもいいんですけど、何かしらの名誉棄損的行為が起きましたと。そのとき、サイトの管理者がそのことを知らなかったら、一切責任はないんですね。僕が『2ちゃんねる』やってたときは、その法案が無かったんですよ。なので、誰かが『死ね』って書き込んで、そのことを訴えられたら、僕が100%負けてたんですよ」と説明。そして、「さすがにまずいってことで法律が変わって、管理者が知らない場合は問題なくて、知ってから対応すれば、責任は取られないってことになったんですよ……それまでは、お金払ってくださいっていう判決が出てたんですけど、お金を払わないといけないという法律もなかったんですよ。“どんな変な法律でも従うべきである”のだとしたら、僕がお金を払わないのもアリなんですよね」と、自身が賠償金を払わなかった理由について語りました。
ひろゆき氏は「裁判が2000年から2005年くらいにあって。時効が10年なので、ほぼ全ては時効になってるんです。“ひろゆきは日本に住めない”っていう話があるんですけど、僕は2015年くらいまでは日本にいたので。全部時効になってからフランスに行ったので、何の問題もないんですよね」と、今は既に時効が成立していると主張しています。
お金を払わないといけないという法律もないから無視した、法律が悪いからしょうがない、というのは屁理屈に聞こえてしまいますけれども、要するに、ひろゆき氏は、裁判に負けても支払いを無視し、時効を待てばよいとしていた訳です。
3.改正民事執行法
とはいえ、いつまでも、そうは問屋がおろしません。
2020年4月1日に、財産開示手続きの法律が改正されました。
債権者が勝訴判決を得て、いざ強制執行をしようとしても、債務者がどのような財産を持っているかわからなければ、強制執行できません。なぜなら、強制執行するためには、債務者のどのような財産を差し押さえるか、債権者側で特定する必要があるからです。
つまり、ひろゆき氏の財産がどこにいくらあるか分からなければ、取り立てできなかったわけです。
2020年の改正民事執行法では、この部分にメスが入りました。
旧法206条1項では、「債務者(開示義務者)が、正当な理由なく、期日に出頭せず、または宣誓を拒んだ場合や、宣誓した開示義務者が、正当な理由なく陳述を拒み又は虚偽の陳述をした場合には、30万円以下の過料」となっていました。
これが、改正法213条1項5号及び6号では、そのような手続違反者への罰則として、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」と、懲役刑が加えられました。つまり、刑事罰となったのですね。
2019年、ひろゆき氏は、『ガジェット通信』というニュースサイトを運営する企業「未来検索ブラジル」の役員でした。
2019年に開催されたニコニコ動画のイベント「ニコニコ超会議」のトークセッションに登場したひろゆき氏は、酩酊状態で、同社の元社長である深水英一郎氏が会社の資金を横領したと発言したのですね。
深水氏は、これに異を唱え、訴訟に発展。結局、ひろゆき氏は敗訴し、2021年10月に、60万円の損害賠償金を支払っています。
4.権力に尻尾を振って、テレビに出たいのだろう
このように、これまで、ひろゆき氏は賠償金を踏み倒してきた訳ですけれども、件の裁判では支払った訳です。
その理由について、原告の深水氏は次のように述べています。
昨年法律が変わって、賠償金払わないと刑事罰になったんです。なので、これまでは賠償金を払わずに逃げられてたんですが、そうはいかなくなりました。ひろゆきはこの法律改正を知っていて、刑事罰を受けるのを避けたかったんだと思います。
私も、賠償金の支払いがなければアクションせざるを得ないかなと考えて準備を進めていました。
そしてひろゆきも、私が財産開示請求や差し押さえまでやってくるかもしれないと予想して、支払ったんだと思います。
つまり、民事執行法が改正されて刑事罰になったから、刑務所に入るのを回避したかったのだ、というのですね。
それも当然あると思いますけれども、それとは別に、ひろゆき氏が自身を「まともなキャラ」としてマーケティングするようになったからだという見方もあります。
そう指摘しているのが、NHK党の立花党首です。
立花党首は、自身のチャンネルで、ひろゆき氏について「権力に尻尾を振って、テレビに出たいのだろう」と述べ、今のひろゆき氏は「お金を払う人」になっていると指摘しています。
なんでも、件の裁判の原告である深水氏に弁護士を紹介したのは、立花党首だったそうなのですね。
件の裁判から立花党首が一枚噛んでいたとは、筆者も知りませんでした。
今、立花党首は、ひろゆき氏がこれまで賠償を踏み倒してきたことを問題視し、それを回収しようと動き出しています。
果たして、本当に回収できるかどうか分かりませんけれども、立花党首は筋を通した行動をしています。どうなるか、要注目です。
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