アメリカとキューバの国交正常化交渉開始について

 
今日はこの話題です。

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12月17日、アメリカのオバマ大統領は、「50年以上にわたる政策の最も重大な転換を行い、これまで失敗してきた時代遅れの手法を終わらせる。…新たな章の始まりだ。関与を通じてキューバ国民を支援し、われわれの価値を促進できると確信している」と述べ、キューバに対する政策を抜本的に転換する方針を表明した。

オバマ大統領はキューバのカストロ国家評議会議長と電話で会談したことを明らかにし、キューバ人の工作員3人を解放する一方、キューバで投獄されていたアメリカ人ら2人が釈放されたことを発表。アメリカ政府は、キューバとの間で国交正常化交渉を直ちに開始するほか、キューバの首都ハバナにアメリカ大使館を設置する方針を固め、キューバへの渡航や送金を緩和するとともに、原則として禁止してきたアメリカ製品の輸出を建築資材や携帯電話など一部について認めるとしている。

オバマ大統領が指摘するように、アメリカとキューバの関係悪化は50年以上昔に遡る。

当時のキューバは、第二次世界大戦後の1952年に軍事クーデターによって樹立したフルヘンシオ・バティスタ政権の支配下にあったのだけれど、バティスタは、親米政策をとり、アメリカからの援助をうけつつ独裁体制の強化を図っていた。だけど、キューバ国内では、共産主義の影響を受けた学生組織や左翼組織による反バティスタ運動が行われていた。

1959年、カストロとチェ・ゲバラ率いる革命軍は、首都ハバナを制圧して革命政府を樹立。いわゆるキューバ革命が起こるのだけれど、元々キューバ革命は社会主義革命を目指したものではなかった。首相になったカストロは、当初、アメリカとの友好関係を保持すると宣言。革命成功後直ぐにアメリカを訪問して、革命政権の承認を求めた。

だけど、当時のアイゼンハワー大統領はカストロ首相の革命政権を「社会主義的」「容共的」と警戒し、カストロ首相との会談を拒否し、代わりにリチャード・ニクソン副大統領がカストロ首相との短時間の会見を行うに留まった。因みに、カストロ首相と会談したリチャード・ニクソン副大統領はカストロのカリスマ性に感心し、アイゼンハワー大統領に「この男とはしっかりと付き合ってゆく必要がある」と進言したという逸話が残されている。

結局、アイゼンハワー大統領は、キューバに多くの利権を持っていたアメリカの大企業やマフィアからの圧力もあって、カストロ政権の承認を拒否したのだけれど、このアメリカの態度に反発したカストロ首相は、国内にあった大企業農園やカジノホテルなどのアメリカ企業資産の接収と国営化を開始すると共に、ソ連に接近することになる。

アイゼンハワー政権は対抗策としてキューバの最大の産業である砂糖の輸入停止措置を取る形で禁輸措置に踏み切り、1961年にキューバとの国交を断絶した。

今回のオバマ大統領のキューバとの国交正常化交渉開始宣言は、それ以来のことなのだけれど、アメリカ政府高官によると、オバマ大統領は、去年の春の段階で、キューバ政府と本格的に対話に乗り出すことを決めたそうだ。

去年6月には、カナダで初となる両政府高官同士の直接協議を開始。そして、今年10月、ローマ法王の仲介で、両国代表団の対話が実現。11月には国交正常化交渉を開始することで合意したという。

これについて、中南米研究を専門とするジョンズ・ホプキンス大学のリオダン・ロエット教授は「オバマ大統領は残る任期が2年となり、これ以上失うものはないという感覚がある。キューバとの国交正常化には少数のアメリカ人しか反対していないことも後押ししている」とオバマ大統領が任期中に外交政策で成果を残すために決断したという見方を示している。

ただ、アメリカ議会では、キューバ系の議員や野党・共和党の幹部など一部の議員から反発の声があがっている。ジェブ・ブッシュ・元フロリダ州知事が「悲惨な人権侵害国家の独裁者に報酬を与えた」と批判し、キューバ移民の息子であるマルコ・ルビオ上院議員お「北朝鮮やイラン、ベネズエラなどの独裁者を優位に立たせるだけだ」と述べ、キューバ大使が指名されても上院は承認せず、また大使館設置予算も認めない意向を示している。

こうしたことから、前述のロエット教授は、まずは、大使館の開設やテロ支援国家の指定解除など、大統領の権限でできることを中心に関係の正常化を進めていくだろうと指摘している。

また、キューバはキューバで、低迷する経済の回復の為に制裁の解除を望んでいると伝えられているのだけれど、ここ最近の原油安で、ロシアとベネズエラから格安で原油を提供されていたキューバ経済が破綻しかねないとの危機感と、更に、原油安と株安から経済的ダメージを受けているロシアが、キューバの後ろ盾として機能しなくなるかもしれないとの読みがあるとも言われている。

要するに、ロシアが潰れたときのために、アメリカと少し縁りを戻しておこうという"保険的"な動きだということ。

だけど、保険とはいえ、キューバのアメリカ接近は、これまで長年キューバとの関係を深めていたロシアや、近年急速に関係を強化してきた中国にとって、アメリカの「裏庭」に打ち込んでいた楔を抜かれることをも意味してる。

今回の国交正常化交渉について、中国は表向き歓迎の意思を表明しているけれど、ある共産党関係者は「裏切られた思いがある」と漏らしたという。だから、中国も内心面白くないと感じているものと思われる。

だけど、現在、キューバの国民1人あたりのGDPが300ドル程度。もしも国交正常化によって、アメリカ資本がキューバに殺到すれば、急激なインフレが発生すると予想される。だから、そうそう簡単に事が運ぶとは限らない。

今後の動向には注意する必要があるだろう。

この記事へのコメント

  • almanos

    カストロがいる限り、そう簡単に議会が認めないと思いますが。カストロ自身も「アメリカの軛」に祖国をというのはよしとしないでしょうね。ですからダラダラとゆっくり国交とか回復という線に成ると思います。或いはカストロ含めキューバは親日国です。日本を間に挟んでという形なら「アメリカには腹に一物あるけど日本にはない」という事で経済は日本経由でゆっくりという戦もあり得るかも。
    2014年12月19日 06:14

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