更に昨日の続きです。

1.イスラム国の思惑を外した日本の対応
1月25日、イスラム国に拘束された後藤さんの画像がインターネットで配信されたことを受け、日本政府は首相官邸で関係閣僚会議を開き、後藤さんの即時解放を求める方針を確認した。
安倍総理は会議の席上で「係各国との連携を強化し、国内外で日本人の安全に万全を期すようお願いする」と指示を出した。
ただ、その後の声明で、安倍総理は、このようなテロ行為は言語道断で許し難い暴挙だ。強い憤りを覚える、とした上で「(湯川さんの)ご家族のご心痛は察するに余りあり、言葉もありません。…あらためて後藤健二さんに危害を加えないよう、そして直ちに解放するよう強く要求する」と語っているところをみると、湯川さんの生存は殆ど絶望的であるという情報を得ているのではないかとも思わせる。
安倍総理は「日本政府としては引き続きテロに屈することなく、国際社会とともに世界の平和と安定に積極的に貢献していく。今後も邦人の解放に向けて政府をあげて取り組んでいく」とこれまで通りの立場を堅持すると述べているけれど、一方、イスラム国は、件の動画で身代金要求から、後藤さん解放の条件として、ヨルダンで収監されている女性死刑囚、サジダ・エルリシャーウィの釈放を要求した。
リシャウィ死刑囚は、イスラム国の前身である「イラクの聖戦アルカーイダ組織」を率いたザルカウィ容疑者の側近の親族とされ、イスラム国にとって象徴的な意味を持つ女性ジハーディストと目されている。
リシャウィ死刑囚は2005年、夫のフセイン・シャマリ容疑者とともにアンマン市内のホテルで自爆テロを図ったのだけれど、爆弾が爆発せず失敗。シャマリ容疑者はその場で自爆した。リシャウィ死刑囚は2006年に、ヨルダンの裁判所で絞首刑を言い渡され、現在収監中となっている。
イスラム国は、昨年12月にシリア北部でイスラム国の捕虜となったヨルダン人操縦士の解放と引きかえに、リシャウィ死刑囚の釈放を求めていたとも言われれている。
彼女は、ヨルダンにとっても危険人物であると同時に、ヨルダン人捕虜と人質交換できうる貴重な"カード"でもある。だから、それを日本の後藤さんの為に、スッと使ってくれるとは限らない。
これについてジャーナリストの江川紹子氏が「2億ドルの身代金からヨルダンの死刑囚との交換になったことで、ハードルが下がったように受け止めている人が少なくないようだけど、果たしてどうなのだろう。仮に、ヨルダン人の人質を救うために、麻原彰晃こと松本智津夫の身柄を釈放して欲しいとヨルダン国王に頼まれたらどうする?と考えてみると…」とツイートしているけれど、その通り。ヨルダン国民にしてみれば、とんでもないと、拒否するのが普通だと思われる。
ただ、イスラム国が要求を人質交換に切り替え、日本から身代金を取ることを諦めたこともまた事実としてある。
これは、イスラム国が当初の殺害予告ビデオで「おまえたちには、この日本人らの命を救うのに2億ドル支払うという賢明な判断をするよう政府に迫る時間が72時間ある」とした脅しが日本人に通用しなかったということ。
ネットでは、「イスラム国人質事件の経過をわかり易くまとめてみた結果…」なんてのが出回ったりしているけれど、ちょっと拾ってみると次のとおり。
【今回のISIS誘拐事件まとめ】とまぁ、確かに分かり易いといえば分かり易い。特に興味深いのは、イスラム国の脅しに対して、日本政府以外、誰もイスラム国に返事をしていないこと。
ISIS 「二億ドル払わないと三日後に殺す」
日本政府「テロには屈しない」
日本世論「自己責任」
Twitter 「クソコラグランプリ開催www」
山本太郎と売国左翼たち「テロリスト様が怒ってる!身代金を払って、安倍は退陣しろ!!」
後藤母 「原発反対www大切なのは地球www」
日本の世論は自己責任だと、拘束された二人に返事をし、ツイッターは殺害予告動画にコラで返信。サヨクな人々は、安倍総理を責め立て、後藤さんの母は原発反対。誰もイスラム国を向いて話してない。
これでは脅しも何もあったものじゃない。流石のイスラム国も肩透かしを食らったようで、殺害予告ビデオから72時間経過した後、イスラム国系のウェブに「日本国民は何もしなかった…拘束された2人に対する慈悲がない」と書き込んでいる。イスラム国にして「慈悲がない」と言わせるとは相当なもの。
2.クソコラで反撃する日本
特に、これら日本のイスラム国に対する反応の中で、ツイッターでの"クソコラ祭り"、いわゆるイスラム国の殺害予告動画の人物の顔を入れ替えたり、アニメ絵を張り付けたりなど、コラージュ加工して返信したことについて、国内で人の命が掛かっているのに不謹慎だという批判の声も上がっていたのだけれど、意外にも海外で、それを肯定的に受け止めているものもある。
例えば、2010年にスタートし、インターネットコミュニティを中心に月間1100万ユニークビジターを数えるアメリカの「DailyDotcom」は、1月23日付の「Japan's silly response to ISIS propaganda did what the U.S. government couldn't」と題した記事で、イスラム国のネットでのプロパガンダに対し、イスラム国を嘲笑い、取るに足らないものとして描写したコラージュ画像を彼らに送り付けるという戦いを展開したと紹介し、それは、彼らが自らが正義かつ獰猛であると見せつけることで、テロリストを世界の指導者が強く警戒しているという構図をつくり、それによって、新たな参加者を募るという目論見を破壊したとし、それはアメリカ政府ですら失敗したものであったにも関わらず、効果的にやってのけた、と指摘している。
そして、「テロリストが参加者を増やすことで力を増していることを考慮すれば、日本人がイスラム国に対する完璧な武器を用いて、世界にそのメッセージを発したことが新たな参加者を妨げる唯一の方法となるだろう。」と評価している。
また、アメリカ・日本・オーストラリア・イギリスなど主要なゲーム市場国に編集者を置いているテレビゲームを扱うブログ「Kotaku.com(小オタク.ドットコム)」は、21日の「Japanese Twitter Users Stand Up to ISIS with...a Photoshop Meme」という記事で、"クソコラ"について、人命を軽んじ、軽率ではないかとした上で、「恐怖を通じて人々をコントロールしようというテロリストの手法に対し、ユーモアで対抗しているのではかなろうか。…はっきりしていることは、日本のツイッター利用者が日本政府に対し身代金を支払うように圧力をかけろというテロリストの要求に対して、それを拒否しているということである」とも述べている。
更には、NBCもこの話題を取り上げ「Japanese Twitter Users Mock ISIS With Internet Meme」という記事で「日本のツイッターユーザーは、全国的なコラージュ風刺画像バトルで、イスラム国を嘲笑うことで、彼等の国の人質の危機に挑んでいる」と述べ、その"クソコラ"が、わずか1~2日の間に6万回以上もツイッターで言及されていると紹介している。
アメリカメディアが、こうした見方ができるのも、或いは、「テロとの戦い」を現実に行っている当事国であり、国民にもその意識があるからなのかもしれない。
また、この何某かの"悪意"に対して、全く別の意味を与えるという"パロディ"で返す"クソコラ祭り"についていえば、かつての"日本鬼子"運動を思い起こさせるものがある。
"日本鬼子"運動とは、2010年に起きた、尖閣沖衝突事件を契機に、湧きあがってきた中国国内の反日運動や反日感情を、「日本鬼子(ひのもと おにこ)」という萌えキャラを作って世間に広めることで、打倒日本鬼子!」などの文字にまったく別の意味を与えてしまおうという試みのこと。
これについては、「萌えの文化 普通の生活」や「パロディと合気道」などで取りあげたから、繰り返さないけれど、ある程度は、"負の感情"を減殺する効果があったと思うし、"クソコラ"が大量繁殖したことで、ネットで「ISIS」を検索しても、画面で"クソコラ"で埋まってしまい、「DailyDotcom」が指摘したように、イスラム国のプロパガンダを破壊した面はあったと思われる。
ただ、事態が人質の殺害、というところにまでいくと、流石にパロっているだけ、という訳にはいかなくなる。
まぁ、何処とは言わないけれど、今回の人質事件によって日本が軍国主義に戻るのではないかと警戒する国が日本の北とか西とかにある。勿論、筆者はそんなことにはならないと思っているし、世界の多くは日本が軍国主義になるとは思っていない。
3.イスラム国は日本人にとって"穢れ"となった
ドイツの画像掲示板「Krautchan」の国際板に、国をカントリーボールと呼ばれるボールで擬人化して、国際的な政治や経済、歴史、文化、外交などを風刺する「ポーランドボール・コミック」と呼ばれる漫画があるのだけれど、そこに今回の人質事件についてアップされ少し話題になっているという。
その漫画はこちらに引用されているのだけれど、日本が再び軍国化するのでは、と驚き警戒するのが、"彼の国々"だけで、当の日本は、炬燵で萌え萌えしている、とまぁ、なんとも日本を良く分かっているな、と感じさせる漫画ではある。
だけど、あからさまな軍国主義にはならなくても、平和ボケから覚めるというか、湯川さん殺害画像をアップしたことで、筆者は、日本の空気が決定的に変わったのではないかと思う。
それは、日本人がイスラム国を冷酷な眼差しで見るようになった、ということ。これは、上手く表現できないのだけれど、日本人がイスラム国を敵視する、というのではなく、"排除"する物と見做したという感覚。
あるいは、日本人は、イスラム国を"敵"ではなく、"穢れ"と見做すようになったとでもいえばいいだろうか。
日本人にとって"穢れ"は忌むべきもの。それは、祓い清めるか封じ込めるもの。目に見える世界から一切合財消し去ってしまうべきもの。日本人にとって、今回の人質事件で、イスラム国はそういう存在に位置づけられたのではないかと感じている。
"穢れ"は、日本に塵一つとしてその存在が許されない。だから、万が一(まんがいつ)、日本に"イスラム国成分"が存在しているとしたら、それらを徹底的に排除する方向に進んでいく。
つまり、日本は、決して報復でイスラム国を空爆するなんてことはしないけれど、国内から"イスラム国"という"穢れ"を祓い清めにいく。具体的には国内のテロリストを完全排除する動きが出てくると思う。
日本から"クソコラ"で反撃していたとき、イスラム国は「日本人よ、ずいぶん楽観的だな。5800キロ離れていると言ったから安全なところにいると思っているのだろう。我々は世界中のいたるところに兵士をもっている」と返信したと伝えられているけれど、実際問題として、イスラム国が日本でテロを起こそうとしても、日本人或は日本人に近い顔立ちの戦闘員がいないと実行は難しい。髭モジャで濃い顔の中東人は、日本社会の中では目立ちすぎる。
となると問題は、日本人でイスラム国の戦闘員になろうとするような人が、どれだけいるのかということになる。
確か去年、日本からも「イスラム国」へ行こうとした北大生が「私戦予備及び陰謀」の疑いで警視庁の事情聴取を受け騒ぎになったことがあるけれど、彼のような人が日本に溢れているとは思えない。寧ろ、北朝鮮の工作員とか、そっちのテロの方が可能性があるのではないか。
いずれにせよ、そうした工作員は公安がマークしているだろうし、今回の人質事件が、イスラム国の主張に同調する人々の存在を炙り出したという面もあるから、ある意味、日本にテロを仕掛けるマーク対象が明確になったともいえる。
政府は、国内の"反日危険勢力"を一層することを志向し、国民もそれを支持する流れになるのではないかと思う。
日本のテロとの戦いは、国内の反日の排除という形となって現れる。その時、イスラム国は、穢れに対して無慈悲な日本人、という存在を知ることになる。
この記事へのコメント
泣き虫ウンモ
同じ近寄りたくない感覚でも、後者のほうが距離は遠いかなぁ。
まぁ、中東との距離を遠くさせる行為ばかりですね。
近くさせて、大きくさせるのは誰でしょうか?ということですね。
白なまず