今日はこの話題です。

昨年12月30日、政府与党は2015年度の税制改正大綱を発表した。その全文はこちらにあるけれど、マスコミ各社がその骨子について報道している。ロイターの報道から引用すると次のとおり。
<法人税>と、外形標準課税強化などが入っているものの、法人実効税率の引き下げやエコカー減税延長、贈与税の非課税限度枠拡大や軽減税率導入検討など、減税ないしは減税措置の延長といった内容が並んでいる。
・16年度までの2年間で法人実効税率の3.29%引き下げを目指す。減税幅は15年度に2.51%、16年度は0.78%
・赤字企業にも資本金や給与総額に応じて課税する大企業向け外形標準課税を強化
・企業の受取配当金への課税を強化。保険業のみ軽減措置を導入
・大企業の欠損金の繰越控除を縮小
・研究開発減税を縮小
<自動車関連>
・軽自動車税で燃費性能の良い車種を優遇する制度を、15年度中に新規に取得したものに限って導入
・自動車取得税と重量税のエコカー減税は燃費性能基準を見直したうえで2年間延長。燃費基準はこれまでの15年度基準から20年度基準に引き上げる
<贈与関連>
・住宅購入資金の非課税措置を19年6月末まで延長。贈与税の非課税限度枠は最大で3000万円に拡大
・結婚・子育て資金は15年4月から19年3月までに贈与された資金に限って1人当たり1000万円まで非課税
<NISA>
・投資枠を現行の年100万円から120万円に拡大
・投資枠80万円の子ども版NISAを創設
<たばこ税>
・「わかば」など6銘柄の優遇措置を19年3月末までに段階的に廃止
<軽減税率>
・17年度からの導入を目指し、対象品目などについて早急に具体的な検討を進める
また、ロイターの報道では、消費税延期についての記載はないけれど、政府の大綱では次のように記載されている。
四 消費課税と、10%への増税を2017年4月1日に延期し、景気条項を削除するとしている。これは安倍総理が語った内容どおり。
1 消費税率(国・地方)の 10%への引上げ時期の変更等
(国 税)
(1)社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律について、次の措置を講ずる。
① 消費税率(国・地方)の 10%への引上げの施行日を平成29年4月1日とする。
② 消費税率(国・地方)の 10%への引上げに係る適用税率の経過措置について、請負工事等に係る適用税率の経過措置の指定日を平成28年10月1日とする等の改正を行う。
③ 附則第18条第3項を削除する。
④ その他所要の措置を講ずる。
(2)消費税率(国・地方)の 10%への引上げの施行日を平成29年4月1日とすることにあわせ、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法の期限を平成30年9月30日とする等、関連する法令について、所要の措置を講ずる。
(地方税)
(1)社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律について、次の措置を講ずる。
① 消費税率(国・地方)の 10%への引上げ等の施行日を平成29年4月1日とする。
② 平成29年度における地方消費税額について、その19分の10(本則 22分の10)を社会保障財源化分以外とし、その19 分の9(本則 22分の12)を社会保障財源化分とする経過措置を講ずる。
③ 附則第19条第3項を削除する。
④ その他所要の措置を講ずる。
このように、減税または増税延期がメインとなっている2015年度の税制改正だけれど、これは、安倍総理の意向が強く働いた結果で、党の税制調査会が押し切られたのだという。
何でも、今回の税制改正では、現在35%前後の法人実効税率の下げ幅が焦点となったらしく、官邸は2015年度に2.5%以上の引き下げを求めたのに対し、税調や財務省は先行減税となることを嫌い2%前後とするよう主張し対立した。だけど、官邸は頑として譲らず、安倍総理は甘利経済財政担当相を通じて2.51%の下げ幅で押し切った。
この結果に税調の野田毅会長は「私が非力なせいかもしれない。…経済回復にどう道筋を付けるかが税制上も最大の課題だ。」と語り白旗を上げた。
?消費税延期を巡っては、財務省が強い影響力を持つ自民党税制調査会を足掛かりとして安倍総理と対立していた。元大蔵官僚でもある野田毅氏は、安倍総理の消費税率10%引き上げ延期について「断固として予定通りやらなければいけないことは党派を超えて共有している」などと述べたり、今回の解散についても「国民から理解されるような大義が提示されないと、とんでもないしっぺ返しを受けることもあり得る」と批判していた。
これに対して官邸は、野田氏が衆院の「73歳定年」という党内規に抵触するため、比例代表から立候補できないことを理由に公認を見送るよう党執行部に働きかけた。野田氏は、この脅しに屈して安倍総理批判を止めた経緯がある。
まぁ、これで選挙で大敗していたら、それ見たことかと声高に批判したところだろうけれど、結果は大勝。これでは文句の言いようがない。他の税調幹部も「首相が選挙で勝った以上、何も言えない」と漏らしているそうだけれど、これをみると、如何に選挙で勝つことが大きなことかが分かる。
それに、選挙で野党などが散々に批判した「アベノミクスは失敗だ論」にしても、実際はその正反対の結果となっている。
昨年12月29日、帝国データバンクの調査で、国内上場企業の倒産件数は2014年はゼロになる見通しであることが明らかになった。これは1990年以来24年振りのことで、中小企業を含む全体の倒産件数も2014年1月~11月で前年の同じ時期と比べて約1割減の8500件となった。
1990年といえば、バブル景気終盤で、日経平均は1月4日に38951円の高値を付け、1990年末でも23000円くらいあった。今の18000円と比べても全然高い。
今回の倒産ゼロ件については、アベノミクスによる株高で、保有株式の上昇による資金繰りの改善や銀行の貸し出し姿勢が好転したことが理由だと言われているけれど、今の18000円台という水準で、倒産ゼロ件になったということは、それだけ企業の財務体質が改善したか、産業構造が今の水準に適合するよう転換したのだろう。非正規労働云々の問題を脇におけば、当時より日本経済が強くなっているのだといえる。
また、税収も上がっている。
財務省が昨年11月に発表した2014年4~9月期の税収は、14兆8710億円と前年比9.7%の増加。無論、消費増税の影響が含まれているのだけれど、消費税を除いたベースでも11兆4985億円と6.1%増えている。当初予算に対しては約1兆円の上振れと見られるほどの税収増。
その大きな要因は所得税の増加で賃金上昇や企業配当の増加が影響していると見られている。更に法人税収も昨年11月時点で23.1%増の8858億円となっている。
因みに2013年度の税収はどうだったかというと、これも上振れしていて、当初予算(2013年1月)の43.1兆円に対して3兆円以上上振れになる46兆9529億円。
このときも、所得税の上振れがあったのだけれど、法人税も大きく上振れしていて、2013年1月時の見積もりでは8.7兆円だったのが10兆4937億円と1.5兆円も増加。3兆円の上振れの半分は法人税が占めたということ。
今年も同じように推移すると仮定すれば、2014年度の税収増の相当部分は法人税が占めることになると予想される。法人税がここまで延びているのなら、2015年度の税制改正で2.51%の法人減税をしても、十分吸収できると思われる。少なくとも、予算を2013年度ベースで組むことができれば殆ど問題ないだろう。
税収を増やして、上場企業の倒産が無くし、消費増税延期を掲げて選挙に勝利。安倍総理はアベノミクスでこれだけのことをやっている。自民党議員や官僚達も、これで安倍総理のいうことを聞かないわけにはいかないだろう。
それでも今は、軽減税率を巡って、官邸と財務省の対立が始まったという。財務省、自民党税調、経済界は「対象品目の絞りこみが大変」「複数税率だと経理が複雑」などをを理由として軽減税率に反対の意向を示している。
何でも、伝えられているところによると、安倍総理は、消費増税じたいに消極的で、軽減税率についてもどちらでもよく、ただ、世論調査では自民党支持者の8割が軽減税率導入に賛成していることから、軽減税率導入に傾いているだけらしい。
全国紙の幹部は「新聞各社も新聞に軽減税率が適用してもらえることを期待して、軽減税率導入に前向き。軽減税率を導入して新聞社を味方につけたいところだろう」と見ているようだけれど、或は安倍総理は、それを利用して、財務省を牽制する手を打ってくるかもしれない。
例えば、新聞各社に対して、財務省が打ってくるであろう軽減税率反対キャンペーンの片棒を担ぐことを止め、逆に財務省を批判するのなら、新聞に対する軽減税率を考えないでもない、なんて囁いたとしたら、新聞やマスコミはどうするだろうか。
もしも、新聞各社が軽減税率欲しさに財務省を批判するようになれば、いわばマスコミ対財務省という構図を作り出すことになるわけで、官邸その分、財務省の力を削ぐことができる。
実際どうなるかは分からないけれど、軽減税率を巡るマスコミ報道と財務省側の動きには注目しておいていいかもしれない。
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