西川農水省辞任にみる安倍政権のダメージコントロール能力の高さ

 
諸般の事情により、今日は超々簡単に…。

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2月23日、西川農林水産大臣が、みずからの政党支部が国の補助金を受けた企業などから献金を受けていた問題などで、これ以上、国会審議に影響が出ることは避けたいなどとして辞表を提出し受理された。

これは、去年10月、西川大臣の政党支部が大臣の親族が経営する企業に事務用品代などの名目で支出していたことが分かり、その時は「通常の商取引で、批判を受ける話ではない」と特に問題視していなかったのだけれど、今月13日に、国の補助金を支給された栃木県の木材加工会社から300万円の献金を受けていたことが明らかになり、更に17日には、別の補助金を支給された砂糖の業界団体の代表が社長を務める会社から100万円の献金を受けていたことが分かり、問題視されていた。

政治資金規正法では、会社などは国の補助金の支給の決定から1年間は、政治献金をすることが禁じられているのだけれど、栃木県の木材加工会社は2012年5月に国から補助金を受け、その年の9月に西川大臣に献金していた。

西川大臣は、「違法性は認識をしておらず、知らないままで政治献金を受けた」として、献金を返金している。

また、製糖業界の方は、精糖工業会が2013年3月に農水省から13億円の補助金を得ていて、同じ年の7月に精糖工業会館が西川大臣に献金をしていた。ただ、こちらの方は、補助金を受けたのは「精糖工業会」で、献金を受けたのは「精糖工業会館」と別法人で違法性はないと大臣は答弁していたのだけれど、それぞれの法人の住所と役員名簿が同じであったことから、野党は会社を迂回させた脱法的な献金だ、と批判していた。

政治資金規正法ではグループ会社を同一とみなす規定はないため、今回のように別法人からの献金のケースに違法性はなかったのだけれど、西川大臣は「農林水産大臣という立場から道義的なことを考えて返金した」と述べ、こちらも返金している。

この問題を国会で"カッコよく"追及したのが、民主党の玉木雄一郎議員だったのだけれど、そこはそれ民主党。この種の追及をして、ただで済むはずもなかった。

2月21日、玉木議員の関連団体「たまき雄一郎後援会」が平成22年に、政治資金パーティーの対価として、支援者の男性が社長を務める香川県内の食品会社グループ計8社から、計280万円の支払いを受けていたことが明らかになった。

政治資金規正法では「政治資金パーティーの主催者は1つのパーティーで同一の者から150万円を超える支払いを受けてはいけない」、「何人も1つのパーティーで150万円を超える支払いをしてはいけない」となっているのだけれど、一つの会社から280万円の献金を受けると、政治資金規正法に抵触する為、別法人であるグループ会社の名義を使って、280万円を100万円以下に分割して、迂回献金したのではないか、と批判の声が上がっていた。

玉木議員は産経新聞の取材に「8社は所在地も事業実態も異なっている。『同一の者』には当たらず違法性は全くない。パーティーでは対価に見合ったサービスを提供しており利益も出ていない」と言い訳しているけれど、そこはやはり民主党らしく、素晴らしい速攻で、自らにブーメランをヒットさせた。

民主党のブーメランは彼らのお家芸として、追及を受けた西川大臣は、辞表を提出後、「私がいくら説明しても分からない人は分からないということで、農林水産大臣の辞表を出してきた。安倍総理大臣からは『農業関係の仕事を大変よくやってくれた。引き続きできればやってほしい』ということだったが、私はもう自分で決めたので、政府から外れるということを申し上げてきた。安倍総理大臣も了承してくれた。…全部説明できたし、法律に触れることはないということは安倍総理大臣も分かってくれた。これから農政改革をやるときに内閣に迷惑を掛けてはいけないということで、みずから辞表を出した」とスッパリと辞任。

安倍総理は、西川氏の辞任表明に対して、一旦は慰留したのだけれど、だらだらと先延ばしすることなく、結局はこちらもスッパリと辞表を受理。後任に林芳正前農林水産大臣をあてたのだけれど、余りにも急な決定の為、陛下の認証式が、いつもの皇居・松の間でなく御所で行うという異例の形になった程。

だから、今回の西川氏の辞任は、一応本人からの辞意表明という形にはなっているけれど、さっと後任に林氏を指名する辺り、意外と早い段階で見切りをつけていた可能性もある。

実際、ここ最近の予算委員会での基本的質疑のかなり話題が西川大臣の献金問題に集中していたのだけれど、西川大臣の担当記者によると、これまでぶら下がり取材には殆ど必ず応じていた西川大臣が20日と23日の予算委員会で野党の追及を受けた後は「一切、しゃべりません」、「言うことはありません」と記者のインタビューには応じず厳しい表情だったというから、もしかしたら、この段階で、何等かの形で辞任への動きが水面下であったのかもしれない。

今回の安倍政権は、去年の小渕優子氏、松島みどり氏の女性閣僚2人の辞任もそうだったけれど、実に素早い対応をして、政権にダメージが及ばないようにする"ダメージコントロール"に長けている印象がある。

自民党内からは「違法性がないのに辞任すれば、辞任のハードルが下がってしまう」という懸念の声も上がっているようだけれど、安倍総理の瑕疵が全くなければ、ずっと大臣をやらせる、逆にほんの僅かな曇りや傷でもあれば、ただちに辞めさせるというやり方は、今のところ、政権基盤を固める方向に働いているように感じている。

なぜなら、それは、総理側から人事権を発動させているから。これまで何度か紹介したことがあるけれど、佐藤元総理は「内閣改造をするほど総理の権力は下がり、解散するほど上がる」と述べている。

党内から入閣したい人達からの圧力を受けて内閣改造が行われるのであれば、確かに総理の権力は失われていくだろうけれど、その逆に、総理が解散を決断し、その後の選挙で勝利することが出来れば、総理の権力、求心力はぐっと高まる。

その意味では、安倍総理の大臣辞任への対応は、この佐藤元総理の言葉に倣っているような印象を受ける。要するに、辞任を逆に求心力を高める力へと変えているのではないかということ。

党内の突き上げによって、大臣を交代させるのではなく、ほんのちょっとの追及を受けただけで、さっと辞任させる。これは、見方によっては、該当大臣限定の"解散"だといえなくもない。

だけど、その"限定解散"によって内閣支持率が維持され、その内閣支持率もそれなりに高ければ、次の選挙でも勝てる見込みが高くなるから、党内の求心力もそのまま維持されるだろう。

ゆえに、今の安倍政権の速すぎる程速い"ダメージコントロール"は、いまのところ、解散をしたのと似たような効果を発揮しているのではないかと思う。

これを安倍総理が意識してやっているのか、はたまた、健康問題で辞任した過去の経験を活かしてのことなのかは分からないけれど、大臣辞任という自体になっているにも関わらず、先の選挙の勝利とも相俟って、意外と政権安定の後押しになっているのかもしれない。

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