なんでも官邸団の戦略の階層

 
今日は、世論調査繋がりで、この話題をごく簡単に…

1月6~7日に掛けて行われた、共同通信の全国電話世論調査によると、ISISに対する日本政府の国際的な連携について「非軍事分野に限定」との回答が57.9%と6割近くを占め、「軍事作戦の後方支援」が16.6%、「軍事作戦への資金協力」が11.2%、「軍事作戦への直接参加」は2.8%となった。

また、邦人人質事件に対する安倍政権の対応を「評価する」と「ある程度評価する」を合わせて60.8%とこちらも6割。内閣支持率も54.2%とほぼ横這い。

後藤さんと湯川さんが殺害されたのは安倍総理のせいだ、と騒ぐ人々を他所に、ISISによる人質殺害事件は、安倍政権への打撃にはなっていない。

確か、人質事件後、安倍総理の退陣を求める謎の一団が官邸前に集まって抗議の声をあげたことがあったけれど、一般の多くは「抗議するのなら、テロリストに対してすべきだろう」と至極当たり前の反応だった。

ネットの一部では、彼等のことを、なんでもかんでも安倍総理のせいにする「なんでも官邸団」と揶揄しているそうだけれど、こっちの"カンテイダン"は、いい仕事をしてないようだ。この分だと遠からず、辺野古移設だの、オスプレイだので反対している人達も「出張官邸団in沖縄」と呼ばれる日が近いかもしれない。

まぁ、彼等「なんでも官邸団」の意見は脇に置くとしても、共同の世論調査が正しいとするならば、世論は人質事件に対する政府の対応を評価しつつも、軍事協力はしないスタンスを望んでいる。

安倍総理は、1月25日、NHKの日曜討論で、今回の人質殺害事件を受けて、海外で邦人が危害に遭ったとき、自衛隊が救出できるための法整備をする旨の発言を行っていたけれど、これは、共同通信が示した世論から、半歩くらい踏み出して、もう少し邦人救出できるための力を持ちたいという意思を示唆したものといえる。

政府は、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案を、今通常国会で提出する予でいるけれど、その閣議決定で、武器使用を伴う在外邦人の救出について次のように規定している。
 (2)国際的な平和協力活動に伴う武器使用

 ア 我が国は、これまで必要な法整備を行い、過去20年以上にわたり、国際的な平和協力活動を実施してきた。その中で、いわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」については、これを「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には、憲法第9条が禁ずる「武力の行使」に該当するおそれがあることから、国際的な平和協力活動に従事する自衛官の武器使用権限はいわゆる自己保存型と武器等防護に限定してきた。

 イ 我が国としては、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、国際社会の平和と安定のために一層取り組んでいく必要があり、そのために、国際連合平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活動に十分かつ積極的に参加できることが重要である。また、自国領域内に所在する外国人の保護は、国際法上、当該領域国の義務であるが、多くの日本人が海外で活躍し、テロなどの緊急事態に巻き込まれる可能性がある中で、当該領域国の受入れ同意がある場合には、武器使用を伴う在外邦人の救出についても対応できるようにする必要がある。

 ウ 以上を踏まえ、我が国として、「国家又は国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場しないことを確保した上で、国際連合平和維持活動などの「武力の行使」を伴わない国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用及び「任務遂行のための武器使用」のほか、領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動ができるよう、以下の考え方を基本として、法整備を進めることとする。

 (ア)国際連合平和維持活動等については、PKO参加5原則の枠組みの下で、「当該活動が行われる地域の属する国の同意」及び「紛争当事者の当該活動が行われることについての同意」が必要とされており、受入れ同意をしている紛争当事者以外の「国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場することは基本的にないと考えられる。このことは、過去20年以上にわたる我が国の国際連合平和維持活動等の経験からも裏付けられる。近年の国際連合平和維持活動において重要な任務と位置付けられている住民保護などの治安の維持を任務とする場合を含め、任務の遂行に際して、自己保存及び武器等防護を超える武器使用が見込まれる場合には、特に、その活動の性格上、紛争当事者の受入れ同意が安定的に維持されていることが必要である。

 (イ)自衛隊の部隊が、領域国政府の同意に基づき、当該領域国における邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動を行う場合には、領域国政府の同意が及ぶ範囲、すなわち、その領域において権力が維持されている範囲で活動することは当然であり、これは、その範囲においては「国家に準ずる組織」は存在していないということを意味する。

 (ウ)受入れ同意が安定的に維持されているかや領域国政府の同意が及ぶ範囲等については、国家安全保障会議における審議等に基づき、内閣として判断する。

 (エ)なお、これらの活動における武器使用については、警察比例の原則に類似した厳格な比例原則が働くという内在的制約がある。
安倍総理は、2月2日の参院予算委員会で、「シリアの同意はおそらくあり得ない。仮にシリアの同意がとれたとして、ISILが国家に準ずる組織であれば、自衛隊は派遣できない。…実際に法的要件を整えても、オペレーションができるのかという基本的な大問題もある」と述べ、ISISによる日本人人質事件で自衛隊が邦人救出に当たることはできないとの見方を示している。

あれだけマスコミが騒いだ集団的自衛権の行使を容認する法整備をしたとしても、邦人救出するにはまだまだ足りないという現実。

サヨクな方々の、安倍総理のやることなすことに「なんでも官邸団」になって反対ばかりしていないで、本当に国民の命を護るためにはどうしなければならないかを真剣に考えたほうがいい。

報道ステーションで、「日本人は今、"I am not ABE"のプラカードを掲げるべきだ」と述べ、物議を醸した元経済官僚の古賀茂明氏は、拘束直後の段階で要求されていたとされる10億、20億といった身代金は官房機密費で払える筈で、身代金を払って解決させる選択肢もあった、と述べているけれど、これはテロリストの要求を飲んで、命を救え、という主張だといっていい。

一方、産経新聞は2月7日の社説で、「『日本にとっての悪夢の始まりだ』と脅すならず者集団を放っておけば、第二、第三の後藤さんが明日にも出てこよう。…命の危険にさらされた日本人を救えないような憲法なんて、もういらない。」と、現行憲法の世界観に無理があると述べている。

まぁ、一見対立しているかにみえる両者の意見だけれど、これまで筆者が何度か紹介している「戦略の7階層」理論で考えると、前者は、テロリストの要求にどう応えるか、といった仕事の仕方や会戦の勝ち方を考える「作戦」階層レベルであるのに対して、後者は、ISISの要求に屈すれば、より被害が大きくなるだけだから、断じてテロには屈しないという方針があり、その上で具体的な方法を考えるべきだ、という「政策」「大戦略」レベルの主張だろうと思う。

元々、戦略の階層レベルが違うのだから、話が噛みあう筈もない。

蛇足だけれど、この「戦略の階層理論」を「なんでも官邸団」の人達にも応用するならば、彼らの「世界観」階層は"安倍憎し"であり、そこから"安倍のやることはなんでも反対"という「政策」階層の戦略が常に導かれている、といったら言い過ぎか。

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