昨日のエントリーのコメント欄でopera様から、AIIB構想は中国の『資金調達詐欺』ではないか、との指摘をいただきましたので、これについて少し考えてみたいと思います。

昨年あたりから矢鱈と中国の不動産バブル崩壊が取り沙汰されるようになってきました。今年初め、中国指数研究院は、「昨年12月の全国100都市の不動産平均価格が前月より下がった」と不動産価格の下落を発表しましたし、中国社会科学院も昨年末の「住宅白書」で、「投資ブームの退潮、市場の萎縮、在庫の増加」などを挙げ「15年の住宅市場は全体的に衰退するだろう」と予測しています。
中国のGDPの構成をみると、他の先進国と比較して、個人消費の割合が35%程度と非常に少ないのですね。日本は6割ありますし、アメリカは7割いってますね。
その一方、「総固定資本形成」のGDPに占める割合が突出して多い。総固定資本形成とは、住宅投資、設備投資、公共投資など民間や政府が行う設備投資の事です。これは当然ながらインフラ整備を必要とする新興国のほうが高めになる傾向があるのですけれども、日本やアメリカ、欧州各国などは2割そこそこ、インドやインドネシアといった新興国でも3割程度です。ところが中国ではこれが5割にもなる。
要するに、中国のGDPの半分は"投資"で占められているということですね。
では、その投資が内需を拡大する方向に投資されているのかというと、中国の富裕層が消費ではなく、不動産投機に走っているというのは以前からも指摘されていることですし、地方政府も不動産開発に血道を挙げ、人のいない高層オフィスビルやマンションを乱立させています。一説によると、中国のマンション等の空き室は、1億戸に上るとも言われているようです。これでは不動産価格が下がるのも当然ですね。これは同時に中国の不動産に投資された資金が逃げ出し始めていることを意味します。
2014年末時点での中国の外貨準備高は、3兆8430億ドル(約461兆円)にも及ぶのですけれども、実はその半年前の2014年6月から比べると1500億ドル(約18兆円)も減っているのですね。これは、不動産市況や景気減速を背景に資本逃避されている影響だと言われていますけれども、中国当局は、外貨準備高を減らさないよう躍起になっています。
何故なら、外貨準備が減ると、国内経済へのデフレ圧力となってしまうからです。
中国はこれまでずっと人民元に対して固定相場制をとってきましたけれども、これは流入する外貨を全部人民銀行が買い上げ、その外貨の流入量に応じて人民元を発行する形で行っています。
要するに、外貨と人民元の流通量をイコールにすることで、為替を固定させているということですね。実にシンプルなやり方です。
けれども、このやり方だと、外貨準備高が増えているうちは、人民元も合わせて増やしていけるのですけれども、逆に外貨準備高が減ると人民元も減らさなくてはならなくなります。通貨流通量を減らすと、即デフレに繋がるということは、既に日本のバブル崩壊で証明済みですね。中国は当然それを知っているものと思われます。
実は、中国の外貨準備高は、バブルが囁かれだした、2011年頃から伸びなくなっています。無論、バブルを警戒して、外貨流入の動きが鈍ったのが原因なのですけれども、中国当局は、その年の秋から、外貨準備高の増加以上に人民元を発行し始めました。
これは当然、外貨準備高の裏付けなしのものですから、人民元に対する信用不安を増す方向に圧力がかかるのですけれども、当局は人民元発行のペースをドルの発行増加分と合わせることで、それを躱そうと試みました。
つまり、ドルの供給そのものが増えているのだから、人民元も同じペースで増やしても問題ないという理屈ですね。確かに、これまでの人民元の為替を見る限り、このやり方でなんとか誤魔化せているように見えなくもありません。
けれども、手持ちの外貨準備高が減り始めたとなると、ドルと同じペースで人民元を増やしているだけだと頑張っても、元に対する信用不安が起きてもおかしくありません。なぜなら外貨準備が減るということは、増えたドルが中国には流れていないということを意味するからです。要するにドルと同じペースで人民元を増刷する根拠が崩れるということですね。
ですから、それを食い止めるには、外貨をかき集めて見せるのが一番手っ取り早い。そのために、今、米国債で持っている外貨準備を"見せ金"にしてAIIBを立ち上げ、外貨を集めるという手段に出た、というシナリオは、成立するように思われます。
その意味では、確かにopera様の指摘する『資金調達詐欺』説は、近々でみれば、当たっているかもしれませんね。
この記事へのコメント
opera
他方、AIIBが銀行のビジネスモデルとして成功するには、資金調達のために独自の機関債を発行して運用できるかにあると言われますが、中国が支配する銀行ではよほど組織運営の適正化・透明化を図らない限り、中国の国内銀行と同程度の評価(格付け)しかなく、低利率での資金調達は困難で、出資金を元手にした信用創造機能はほとんど期待できない可能性があります。
となると、AIIBは(事実上米国債を担保にした)中国の出資金を貸し付けるだけの「基金」的なものにならざるを得ず、中国の旨味もほとんどありません(これが最近中国が日本に秋波を送ってきている理由でしょう)。
アメリカは前者の成功を危惧し、イギリスは後者を前提に、より多くの出資金を中国から引き出すために“名義貸し”をしたのかもしれません。
この騙し合いに、対抗する手段(ADB)を既に確保し、JICAを通じて数々の運用実績がある日本が積極的に関与する必要があるでしょうか。
それにしても、「韓国は愚か」ですねw
ミモロン
以下、当方の考えですが;
「(華夷秩序において夷にあたる)地方投資ではシャドーバンクが一般的」という噂のある中国が音頭を取るだけに、「世界中(=中国が夷と見る国々)でシャドーバンク・ビジネス?!」という何とも言えないイメージが湧いてまいります(汗)
「借金取立て」という方面から見ると、日本には「他国に軍を派遣して借金を取り立てる」という選択肢がありません。中国の軍事的行動の積極性を見る限りでは、アメリカの軍事力という後ろ盾が無いままでは、やはり多くの人が言うように、日本にはAIIBの冒険は難しそうです。日本がAIIBに参加するとしたら、多分、アメリカとセットという形ですね…
イギリスが何故に先進国としてのトップを切ってAIIBへの参加を表明したのかについては、地政学的な内容からの説明が、若干ネットに見られますが…
その他にも、歴史的に、イギリスは元々アメリカを植民地にしていた宗主国ですから、借金取立て局面でのアメリカ軍事力への隠然たる影響力に関して、自信があるのかも…という事が考えられます。NATO関係で見れば、ヨーロッパ諸国がイギリスの行動に続くのも、或る程度は説明が付くかも知れないと思っています。