国民を幸福にしない民主党という存在

 
今日はこの話題を極簡単に…

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もう既に色んなところで取り上げられているけれど、3月3日の参院予算委員会での、民主党の枝野氏の質問が物議を醸している。

この日は、外交・安全保障をテーマにした集中審議が行われた。昨年夏に集団的自衛権の行使容認の閣議決定がされたけれど、そこで日本が自衛権を発動するために、「新3要件」と呼ばれる条件を付けている。それは次のとおり。

・我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
・これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
・必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

これを受けて、自民、公明の両党は、安全保障関連法案を巡る与党協議で、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海はその時々の状況に応じ、個別的自衛権か集団的自衛権の発動、もしくは国際協力活動で対応すると確認している。

政府は自衛隊法改正案に集団的自衛権を行使可能にする条項を盛り込む方針でいるのだけれど、掃海部隊の派遣については、政府が「機雷を放置すれば国民が極めて深刻な被害を受ける」と判断し、事前か事後の国会決議も条件とする仕組みを検討するようだ。

この日の集中審議で、枝野氏はこれを取り上げ、ホルムズ海峡の封鎖で石油供給が滞ることは「経済的に大変な問題だが、日本に武力攻撃があった場合とは次元が違う」とし「国民の多くが餓死する状況でなければ、武力攻撃を受けたのと同様の被害とはいえない。封鎖されても、餓死しない手段があれば当たらないのではないか」と質問した。

これに対して、安倍総理は「石油が突然遮断されると相当なパニックになる。法的な対応を可能にしておくことが政治の責任だ。…多くの人が餓死しなければ要件に当たらないとは考えていない」と真っ向否定したのだけれど、この枝野氏の「国民の多くが餓死しないと集団的自衛権は行使できない」という質問には、批判が集中している。

まぁ、それはそうだろう。この質問からは、国民の生命と財産を守るという意識が微塵も感じられない。枝野氏は「たしかに原油が止まれば、今と同じような快適な生活は全くできなくなりますよ。…でも国民の皆さんがダイレクトに命を失っていくという状況ではない」などと質問していたけれど、"ただちに問題なければ"何でもいいのか。

一般の常識からはちょっと信じられない発言なのだけれど、どうやら、枝野氏のこの質問は、昭和29年(1954年)4月5日の国会答弁を確認した上でのものだったようだ。



この答弁は、当時、国務大臣だった木村篤太郎氏が、他国が食料や生産物資の輸送路を断ち、日本を危殆に陥れる手段を講じた場合は「外部からの武力攻撃に該当する」としたものなのだけれど、政府がホルムズ海峡での機雷掃海は状況に応じ、個別的自衛権か集団的自衛権の発動するとしたのも、実はこれをもとにしている。

くだんの答弁から該当部分を、次に引用する。
○大久保委員 ≪前略≫ そこで私が御質問いたしたいのは、この海上封鎖についてでございます。日本は地形的に申しまして、大兵力を日本において駆使する自由を相手国は持つておらぬと考えるのであります。日本が大陸を持ち、あるいは南洋群島を持つておつて、大陸及び南洋において非常に部の厚い日本の戦略態勢を持つておつたときは別でありますが、現在における日本列島の地位は、西太平洋に浮んだ孤船にしかすぎない、十分間飛べば日本海から太平洋に突き抜ける、こういつた国柄である。

周囲を海に取巻かれて戦略的に非常に弱い地勢を日本は持つておる。しかも先ほど外務大臣が言われましたように食糧問題であります。これは私も先般の外務委員会でも御質問いたしましたが、戦時、平時を通じて一番大切なことは、日本の民生をどうして維持するか。民生を維持するためには食糧の供給をしなければならない。これは海上の補給路を絶たれたならば絶対に日本に対する食糧は入つて来ない。われわれの三度の飯も食えない。これは大東亜戦争の最後の終末が雄弁に物語つておる。

そこで日本は食糧を絶対条件とする民生の上におきましても、海上を封鎖されましたならばひとたまりもなく参つてしまう。また日本の戦力を維持するアルミニウムにいたしましても、普通鋼鋼材にいたしましても、鋼鉄にいたしましても、あるいはガソリンにしましても、重油にしましても、これはすべて船舶によつて日本に補給されて初めて産業が維持される。この海上封鎖が日本に加えられましたならば、日本にとつてはきわめて重大な侵害になつて来る。しかも日本は立ちどころに民生並びに産業及び戦力が壊滅する。私はこの点がソ連がとると考えられる一番安易な手段ではないか。

原子爆弾を日本に持つて来て、人道上非常に恐るべき、にくまるべき戦略を使い、日本人から多年のうらみを買う。こういう戦略をとるよりも、最も早く日本を参らせるのには、自分たちが一兵も血ぬらずして、日本を参らせるのは、実にこの海上封鎖ではないか。これを大臣はいかにお考えになりますか。これが日本に対する侵略の一番大きな眼目であるとお考えになるかどうか、この点をはつきりお尋ねいたしたいと考えるのであります。

○木村国務大臣 ただいま御質問の要旨は、海上封鎖がいわゆる七十六条の外部からの武力攻撃に該当するかどうか、端的に言えば、そういう御質問であろうと考えております。

そこで今お話のごとく、この周囲海に包まれておる日本を武力をもつて海上封鎖をし、日本の国民の糧道を断ち、あるいは生産物資を断つ、そうして日本を危殆に陥らしめるというような手段を講ずるならば、それはまさに外部からの武力攻撃に該当するものと私は考えております。

と申すのは、一国が独立国家として、国民の生命財産を保護して行かなければならないことは当然であります。その生命線を奪うような封鎖をする。これは申すまでもなく、直接武器を持つて日本へ侵入して来たと同様な効果を現わすのであります。もちろんかような場合には七十六条の外部からの武力行為に該当するものと私は考えております。
流石、戦後間もない時期の質疑だけあって、質問も答弁もリアル。兵站の重要性をしっかりと押さえた上での議論になっているように思う。

確かに木村国務大臣は、この答弁で、海上封鎖して日本を危機に陥れる手段に出たときは「外部からの武力攻撃に該当する」と答えている。だけど、それは、相手が日本を危機に陥れようという明確な意図を持って、そうの為の手段を取った段階で適用されるべきもので、決して、危機に陥ってから腰を上げるような性質のものではない。

なぜなら、国家には国民の生命と財産を守る義務があるから。奪われてから動いたところで何の意味もない。当時の木村国務大臣だって、「一国が独立国家として、国民の生命財産を保護して行かなければならないことは当然」とちゃんと答弁している。

同じ答弁から、安倍総理は海上封鎖には集団的自衛権が適用される(戦時)とし、方や枝野氏は適用できないと全く正反対の結論を出す。

これはもう、価値観の違いという以前に、現実をちゃんと知っていて、そのような状況では何が起こるのかということを、どこまで想像できるのかという"認識力"の違いに格段の差があるというべきだろう。

枝野氏は「国民の多くが餓死する状況でなければ、武力攻撃を受けたのと同様の被害とはいえない。封鎖されても、餓死しない手段があれば当たらないのではないか」と質問しているけれど、それをいうのなら、今の日本において、海上封鎖された状態でも"餓死しない手段"に何があるのかを具体的に示さなければいけない。

枝野氏は、餓死しない手段として、外交努力が云々といっていたけれど、ホルムズ海上が封鎖されるような状況で何故、日本だけが危機で、他国が無事だと思えてしまうのか。中東原油の元栓ともいえるホルムズ海峡が締まれば、世界中に影響が出ることはいうまでもない。そんな状況でどうして他国が自分を差し置いて日本を助けてくれるといえるのか。

対案無しの反対は、説得力を持たない。武力攻撃相当の餓死がないと要件は満たさない、などといくら叫んだところで、批判のための批判にしか聞こえない。

そういえば、民主党は3月1日に都内で2015年度の定期党大会を開いて、衆院選の総括をしているけれど、そこでは「民主党のメッセージは具体的対案に乏しい批判ばかりと受け取られた」と報告している。枝野氏の質問は正にこれを体現している。

答弁の表面的な字面だけを追って、こうなる筈だ、と息巻いたところで、その答えが地に足をつけていなければ、決して国民の支持は得られない。

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