この話題は一旦、昨日で終わる積りだったのですけれども、最後にもう一つだけエントリーさせていただきます。

リッパート駐韓アメリカ大使襲撃事件の余波が韓国を揺るがしています。逮捕された金基宗容疑者は北朝鮮に近い関係を持っていたことから、韓国当局は「北朝鮮追従勢力」がいる組織的犯行の疑いがあるとしているのに対して、革新系野党などは「個人的事件を利用し政府批判勢力を弾圧しようとしている」と反発しています。
朝鮮日報は、金容疑者は過去に韓国国会図書館の講堂や議員会館の会議室で「ウリマダン統一文化研究所」の学術大会や「西海岸での南北の和解・協力に向けて」という討論会を行い、国会の政論館で数回にわたって記者会見を行ったことがあると伝えています。
ただ、韓国国会の施設は国会議員の申請のみによってしか利用することができないため、実際は韓国の野党議員がその便宜を図っていたようで、それに関係した議員は「仕方がなかった」、「私とは関係ないことだ」と必死に弁明しています。アメリカ大使を襲ったテロリストと関係があるとなったら、政治生命が終わってしまいますから。
事件後、右往左往していた韓国世論もここに来て、アメリカに事大する方向に舵を切り始めた感があります。
韓国の保守系メディアは「韓米同盟の堅固な底力を見せなければならない」、「事件を韓米同盟を強化する契機にできるかどうかに、両国関係の未来がかかっている」などとアメリカとの同盟強化を訴え始めましたし、リッパード大使に向けた韓国国民からの見舞いのメッセージが続々と届いているようです。
中央日報はこうした動きを"リッパート現象"と名付け、リッパード大使の人柄や、ソウルで生まれた長男のミドルネームを韓国風の「セジュン」にしたエピソードや、事件後に「私は大丈夫。米韓同盟を進めるためできる限り早く復帰する」と英語で書き込んだのに続き、ハングルで「カッチ・カプシダ(共に進みましょう)」と書いたことなどを取り上げ、大使を、韓米同盟弱体化の懸念を消し去り、両国関係を強化する「スーパースター」だと持ち上げています。
まぁ、リッパード大使を、思いっきり持ち上げるのは結構なのですけれども、それと外交とはまた別の話です。なぜなら、大使は派遣元の国の代表であり、相手国の国益のためだけに働く存在ではないからです。勿論、お互いの言い分が同じ方向を向いていて、WIN-WINの関係になるのがベストですけれども、そういつもいつもそうなるとは限りません。お互いに意見の食い違いがあるが故に、交渉して調整することが必要になるわけです。
そして、相手国と良好な関係であればあるほど、交渉がスムーズに運ぶことが普通ですから、大使は相手国とそういう関係になるように心を配ります。従って、特に、相手国が民主国家である場合には、相手国の国民に出来るかぎり好感を持ってもらえるように振舞うのは当然だとも言えます。その意味では、一歩間違えば殺されていたかもしれない目にあったにも関わらず、韓国国民に向けて「共に進みましょう」といったリッパード大使は、大使としての役目を忠実に果たしているともいえるわけです。
けれども、相手が国民ではなく政治家だと、少し話が違ってきます。無論、良好な関係を結べることに越したことはありませんけれども、それ以前に、相手国の政治家は、本国の代表として、国益を掛けて交渉する相手なのですね。
ですから、大使は、本国の考えを率直に相手国の政治家に伝えるミッションを持っています。そこでは、本国の指示を無視することなど絶対できませんし、安易な妥協とて御法度です。つまり、本音はこっちで表明されるということですね。
3月8日、見舞いに訪れた与党、セヌリ党の金武星代表に対して、リッパード大使は、今回の事件について「自分だけでなくアメリカへの攻撃だ。…(事件を)克服して米韓同盟を一層強固にする努力を続けなければならない」と述べたそうですけれども、こちらにアメリカの本音があります。要するに、アメリカは、同盟を強固にするための"具体的な行動"を要求するということですね。
現在、アメリカは韓国に対して、高々度ミサイル防御システム(THAAD)の配備など、北東アジアの安定化に寄与するよう求めています。その中には、当然、日本との関係改善も含まれている筈です。先のシャーマン発言を顧みるならば、その努力はより韓国側に求められるとみるべきでしょうね。
リッパード大使は、韓国国民に向けて「共に進みましょう」と呼びかけて、好感を持って迎えられているようですけれども、その"共に進む先"は、必ずしも、韓国国民が望む方向であるとは限りません。
シャーマン国務次官は、くだんの演説で、慰安婦を「Sex Slave」ではなく「Comfort Women」と表現しています。既に、アメリカは、慰安婦を「性奴隷」とはしていません。そういう認識を前提として日本との関係改善を迫ってくる。そういう流れが予想されます。
果たして、韓国国民はそれに気づいているか。そして気づいた後でもアメリカに事大できるのかどうか。
これは、筆者の単なる想像にしか過ぎませんけれども、そのとき韓国はアメリカにつくか、中国につくかで二つに割れるような気がしています。
以前「生存戦略しましょうか」のエントリーで、韓国は、自らの生存戦略として「事大主義」を採っていると述べたことがありますけれども、唯一の最強国家がない世界での「事大主義」は最強を探して「コウモリ外交」に堕する危険があります。
中国の軍事拡張が止まることを知らず、アメリカが相対的に国力を落とす現状が続く限り、韓国は中国とアメリカの間と行ったり来たりするのではないかと思いますね。もしも、アメリカがなお、韓国を西側諸国に留めたいと思うならば、世界最強国家の地位を維持することが遠回りのようで、一番確実な道なのではないかと思います。
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白なまず