発車しないAIIBと加速するADB

 
今日はこの話題を極々簡単に…

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この程、読売新聞が行った全国世論調査で、AIIBに日本が参加しないことについて、「適切だ」との回答が73%と「そうは思わない」の12%を大きく上回っていることが分かりました。

先月17~19日にNNNが行った世論調査では、参加しないことが「良いと思う」が45.6%、「良くない」が17.3%で、「わからない、答えない」が37.1%でしたから、割合だけでいえば、「わからない、答えない」の殆どが「参加しなくて良い」に流れたとみることができますね。

これは、AIIBに関する情報が少しづつ明らかになってきたからだと思いますけれども、ちょっと面白いのは、マスコミが散々AIIBに参加すべきだ、と煽っているにも関わらず、世論はその逆に流れているということですね。少なくとも、この件に関してはマスコミの思う方向には世論は動いていません。それだけ、メディアが多様化する中、マスコミの影響力がそれだけ落ちている、ということなのかもしれませんね。

この傾向は、実際にプロジェクトを受注する側の企業でも同じで、SankeiBizによると主要115社にアンケートを取った結果、参加すべきかどうかについて「分からない」と回答した企業が86%、「参加すべきだ」「どちらかというと参加すべきだ」との回答は合わせてもわずが7%という結果となっています。

その理由はやはり、AIIBへの出資比率や組織形態、融資基準など運営体制が不明確なことで、「中国が影響力を行使するために作った組織で日本がイニシアチブを取るのは不可能」とか、「ADBや世界銀行にノウハウが蓄積されている」などという意見が出ているのですけれども、僅か7%しかない「参加すべきだ」とした企業でさえも、「公平性、透明性を確保したガバナンスの実現」を参加の条件に挙げたそうです。

要するに、企業からみても今のAIIBは魅力に欠けているということですね。

先日、AIIBは資金を集めるため、自身の傘下にファンドを設け、各国の政府系投資ファンド(SWF:ソブリン・ウエルス・ファンド)などから幅広く資金を集める方針を固めたと報じられていますけれども、AIIB創設メンバーに57ヶ国を集めておきながら、更に政府系ファンドから資金を集めなければならないということは、創設メンバー国からの出資では足りていないということですね。

政府系ファンドは、各国の政府や中央銀行など国営・公的な機関が運用している投資ファンドのことですけれども、現在、全世界で75の政府系ファンドがあり、その運用資産規模は年々増加し、2014年には6.6兆ドルにも達しています。

IMFの予想によれば、運用規模は更に拡大し、2020年には22兆ドルになると見られています。

政府系ファンドの運用資金源は、外貨準備を原資とする国と、国営企業などが上げた利益を原資とする国とに大別されるのですけれども、中国やシンガポールのSWFは前者で、ロシアやサウジアラビア、ドバイのSWFは後者になります。要するに政府或は国家の資産(資源)を原資にしているということですね。

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現在、政府系ファンドで規模が大きいのは、ノルウェー銀行インベストメント・マネジメント、アブダビ投資庁、サウジアラビア投資庁などなのですけれども、これらは原油収入を原資としていて、資源輸出国が上位を占めています。
AIIBの創設メンバーには、
ノルウェーもUAEもサウジアラビアも入っています。創設メンバーは当然AIIBへの出資を求められるのですけれども、その上に政府系ファンドも募るとなると、出資割合にもよりますけれども、右から左にホイと簡単にはいかないように思われます。

特に、ノルウェー銀行インベストメント・マネジメントは、政府系ファンドの中では最も情報開示が進んでいるとされ、投資先の個別社名をすべて公表していますから、それこそ、AIIBの融資基準など運営体制を明確にしない限り乗ってこないのではないかと思いますね。

これらを見る限り、AIIBは国のトップを落として、言うことを聞かせないと資金が集まらないと認識しているのではないかと思います。

これに対して、内部改革と民間との連携で、融資を強化しようと着々と手をうっているのがADBです。

先日、ADBは、アジア開発基金(ADF)の融資業務を通常資本財源(OCR)のバランス・シートに統合すると発表しました。

ADBの活動財源は、通常資本財源(OCR)と特別基金で構成されています。通常資本財源(OCR)は、加盟国からの出資金、準備金、民間資本市場からの借入金からなる財源で、その貸付はADBの貸付累計の約72.9%を占めるものです。

一方、特別基金は日本、米国、欧州、オーストラリアなど先進各国からの拠出金を主な財源とするもので、アジア開発基金(ADF)、技術支援特別基金(TASF)、日本特別基金(JSF)、ADB研究所特別基金(ADBISF)、アジア通貨危機支援資金(ACCSF)、貧困削減基金(JFPR)があります。

アジア開発基金(ADF)は、ADB最大の特別基金で、1人当たりのGNPが低く債務返済能力に限りがある開発途上加盟国(DMCs)に対して、OCRよりも緩やかな条件で貸付を行うことを目的に設立された基金で、日本はADFに最大の資金供出をしています。

ADBは、通常資本財源(OCR)とアジア開発基金(ADF)の統合について2013年の夏から検討を開始していたのですけれども、近年のアジア経済の成長に伴って、ADBの役割が、貧困対策から成長促進に移ってきたという背景もあったようです。

ともあれ、この統合によって、ADBの通常資本財源(OCR)の自己資本は、約180億ドルから約530億ドルへとほぼ3倍(2017年1月時の試算)となり、融資と無償支援を合わせたADBの年間承認額は、現行水準から5割増しの年間200億ドル規模に達することになりました。そして、協調融資を加えた年間支援総額でみると、2014年の約230億ドルから数年で400億ドルに拡大される見込みとされています。

しかも、現在アジア開発基金(ADF)の対象となっている貧困国は、アジア開発基金(ADF)の融資と同じ条件で、融資を引き続き受けられますから、事実上、融資枠が拡大したということですね。

そして更に、ADBはPPP事業の為の新たな基金も設立する方向で動き始めています。

PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)とは官民が連携して公共サービスの提供を行う事業のことですけれども、ADBは、このPPP事業の調査検討を支援するため、7400万ドル(約88億円)の新基金を立ち上げたと発表し、同時に三菱東京UFJ銀行やHSBCホールディングスなど商業銀行8行との間でPPP事業を共同で助言する合意をとりまとめ調印しています。

この基金は、日本が4000万ドル、オーストラリア、カナダ、ADBが残りの3400万ドルを拠出するのですけれども、欧州各国も資金を出す見通しで、将来的には規模を1億5000万ドルに増やすとしています。

このように、ADBは自身の内部改革と民間資本との連携で、資本増強に動き出していて、AIIBが集めたい筈の資金をADBが喰い始めているように見えます。

特に、PPP事業向けの新しい基金は日本はその半額以上を出していますから、おそらく日本から働きかけたのではないかと、筆者は予想していますけれども、資金集めに苦しむAIIBを横目に実に素早い動きですね。

AIIBがその運営体制を固めないうちに、ADBが資本増強して内部改革を進めていく。良い流れだと思いますね。

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