AIIBを政争の道具にする習近平
AIIB絡みのネタをもう少しだけ…
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ADBの攻勢に対して、AIIBは早くも追い込まれた感が漂い始めました。
5月11日、朝日は「AIIB どう生かすかが肝要だ」という社説を掲載し、AIIBを助けろと泣きつき始めました。
ただ、その社説は、"国会で早期参加を求める声が少なくない"だとか、"借り手の国々の開発に繋がる道筋を考えるべきだ"とか、もう日本がAIIBに参加する前提での口振りです。
挙句の果ては、"ADBとの協力の先には、両者が合併することも検討対象になる"とまで言い出す始末。まるで人民日報が書いているかのような印象すら受けます。
そして、終いには「世界の経済大国となった中国が存在感に見合うだけの発言権を国際金融の舞台で求めるのは当然のことだ。日米は国際通貨基金や世界銀行、そしてADBでも、中国に発言権と役割をもっと与えるべきだ」と締めくくっています。
ぱっと見では、格好のいい事をずらずらと言っていますけれども、結局のところ「世銀やADBでもっと中国に発言権をよこせ」とこれが言いたいわけですね。これは、逆に、AIIBが上手くいっていないことの裏返しだと思われます。
元々、AIIBは世銀やADBでの発言力の小ささに我慢ならなくなった中国が、最大の発言力を持つために立ち上げたといわれています。それがここにきて、元のADBやIMFに発言権を寄こせと言い出す辺り、もう朝日でさえもAIIBは危ないと思っているということです。そんなボロボロのAIIBとADBと合併しろだなんて、ちょっと図々しいにも程がありますね。
そんな中、5月5日、中国新華社がIMFのブラックリストに、中国企業12社が掲載されていることが分かったと報じました。これら企業は贈賄や詐欺行為などが発覚した企業で、中国建築国際や中国交通建設、中国地質工程集団などインフラ建設関連の企業が入っているようです。
新華社は、国有企業の腐敗が海外にまで広がっているとし、国務院に直属する中央企業110社だけで見た場合、その海外法人などの資産は4兆人民元(約77兆円)に上るが、ほぼ監督の目が行き届いていない状況だと指摘しています。
これが本当であれば、世界は、では中国が最も資金を出し、中国から総裁を送り出すAIIBは大丈夫なのかという眼差しを向けることになります。なにせ、つい先日のAIIB準備会合で、中国は、北京におく予定のAIIB本部に、理事を本部に常駐させないと創設メンバーに表明したそうですから、そういう目で見られることは避けられないでしょうね。
また、IMFのブラックリストに載った企業は、IMFの融資プロジェクトに当然入札できなくなるのですけれども、ADBもIMFに準じてブラックリストの企業には応札させなくなる可能性が高い。となると、AIIBは、そのブラックリスト企業に入札を許可するのかという論点が出てくるのですけれども、もしも入札させれば、AIIBの信用はガタ落ちですし、またブラックリスト企業に中国のインフラ建設関連の企業が入っていますから、これらを入札させないとなると、折角のインフラ案件も取って来れなくなります。
つまり、AIIBにとって、彼等を入札に参加させれば自身の信用が落ち、参加させなければ、利益を失うという状態に追い込まれたことになります。ネットの一部ではIMFによるAIIB潰しではないかとの声があるようですけれども、もしかしたらそうなのかもしれません。
ただ、一点筆者が気になるのは、こんなネタをわざわざ中国国内メディアである新華社が報じたことです。新華社といえば、中国共産党の御用メディアとして、すっかり有名になっていますけれども、それが、こんな報道をしたということは、中国政府の許可を得ているということになります。
では、なぜ、中国政府はAIIBの信用を自ら落とすような報道を許したのか。
一つ考えられるのは、習近平主席が進めている「反腐敗」キャンペーンの手段として利用したのではないかということです。
御存知のとおり、習近平主席はここ1、2年苛烈なまでの汚職追放キャンペーンをやり、自らの政敵をどんどん追い落としています。昨年末には、胡錦濤・前国家主席の側近で、「共青団」の中心人物でもある令計画・人民政治協商会議副主席を失脚させ、胡錦濤体制で最高指導部のメンバーだった周永康・前政治局常務委員も、収賄や機密漏洩の疑いで党籍を剝奪・逮捕しています。
けれども、これら汚職摘発の対象者は、「共青団」や「上海派」の幹部に偏っていて、習近平主席の御膝元である「太子党」には殆ど手をつけていません。そうしたことから、実は、汚職追放に名を借りた、「政敵追放」ではないかという見方もささやかれています。
今回のIMFのブラックリストについても、市場関係者の一部からは「世銀からの外圧を利用する形で、既得権益層が利権を握っている国有企業の腐敗問題の突き崩しを狙った」という声も上がっているそうですから、やはり、そういう線も無きにしも非ずですね。
また、AIIBがこれらブラックリスト企業を応札させないと宣言して、他の企業を選ぶようにすれば、「AIIBは違うのだ、国際ルールに則った組織なのだ」と、アピールしてくる可能性がある。まぁ、筆者個人的には、本当にそうアピールしたいのであれば、本部を北京ではなく、欧州のどこかの国において、理事も常駐させるくらいしないと足りないのではないかと思いますけれども、果たして、そこまでやってみせるかどうかは分かりません。
ただ、今回のIMFのブラックリスト報道は、国内の政敵を葬り去ると同時に、AIIBに対する信用を"将来的に"得るための下準備として使っているのではないかという気がしないでもありません。
もしも、これらブラックリスト企業が「共青団」や「上海派」に繋がっているのであれば、今後、また摘発され公になるかと思います。
もしかしたら、習近平主席は、最終的にAIIBが発注する先の企業を全て「太子党」の息が掛かったところで固めることも狙っているのかもしれませんね。
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