韓国造船メーカーの黄昏
今日はこの話題です。
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このほど、韓国大手造船メーカーの大宇造船海洋とサムスン重工業が共に巨額の損失を出していることが明らかになりました。
大宇造船海洋は、今年4-6月期(第2四半期)業績で2兆ウォン(約2160億円)台の損失を出す見込みで、サムスン重工業も4-6月期に1兆7000億ウォン(約1832億円)台の損失を出すと見られています。
損失の原因は、2010年台に受注した大型海洋プラントの建造遅延による損失が主なもののようです。
大宇造船海洋は、2011年に潜水式掘削船4隻を1隻あたり約6000億ウォン(約650億円)、都合2兆4000億ウォン規模の受注をしていたのですけれども、建造期間が1隻あたり平均10ヶ月~1年ほど遅れました。
また、サムスン重工業は、2012年に27億ドル(約3350億円)で受注したオーストラリア・イクシス海洋ガス処理設備プロジェクトと、2013年に30億ドル(約3722億円)で契約したナイジェリア・エジナFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)プロジェクトで、度重なる設計変更によって計画より遅延しています。
韓国による海洋プラント建設については、以前「日本の海洋建築物が韓国に負けた理由」で取り上げたことがありますけれども、海洋プラントといった、大規模海洋構造物ともなれば、設計と製造がそれぞれ違う企業であるのが普通で、韓国は主に製造を受け負い、仕様や設計といった部部分は外国企業が担当しているのですね。
従って、進行中のプロジェクトの構造物に仕様変更や設計変更なんかがあると、当然、それが終わるまでは建造は待ちになりますから、その分計画より遅延することになります。無論、作り直し等で費用も嵩みます。更に、あてにしていた建造資材が予定通りに届かなかったりすると、それも待ちになりますね。つまり、もの作りにおいては何事もそうでしょうけれども、当初の計画通りにいかない部分は、そのまま損失となって跳ね返ってくることが多いのですね。
普通はこういった損失リスクについては、最初の契約時にどこまでリスクを請け負うか含めてきちんと契約しておくものなのですけれども、どうやら韓国では、ダンピング紛いの「超低価格」でこれらを受注していて、しかもそれが企業文化として定着しているようなのですね。
特にサムスンと現代は互いに強烈な競争意識を持っていて、不利な条件でも兎に角受注して、競合企業には決して譲らないとして、不利なペナルティでも受け入れてしまうのだそうです。
受注前に発注先とリスク分担について十分に協議し、契約書にペナルティ条項を細かく盛り込んだ上で契約を進めるといった当たり前のことをすっとばしてしまう傾向があるようなのですね。ひらたくいえば、「競合企業を差し置いてわれわれが受注しました」という報告が称賛される企業文化があるということです。
その結果、計画遅延による損失の大部分を受注した韓国企業自身が負うことになるわけですね。おそらく、今回の大宇造船海洋やサムスン重工業の損失はそうした部分での損失が大きく響いているものと思われます。
「日本の海洋建築物が韓国に負けた理由」でも述べましたけれども、韓国造船メーカーは、2003年から2008年頃にかけての海運好景気の時期に大規模投資をして生産設備を拡大することで、シェアを伸ばしてきました。そうした"攻め"の経営で、プロジェクトをどんどん受注するのは結構なのですけれども、それをきちんと利益にまで結びつけるという管理・維持といった"守り"の部分が結構弱いのかもしれませんね。
評論家の長谷川慶太郎氏は「サムスン重工業の造船工場を訪れたとき、工場内で日本語が飛び交っていたので、訪ねてみると、石川島播磨を中心に日本企業を定年退職した日本人が多数働いていた」と述べていますけれども、サムスン重工業は石川島播磨(IHI)の技術支援を相当受けていたようなのですね。
けれども、それは既にある技術を習得して、製造するところまではできるけれども、その先は保証の限りではないことを意味します。よく「追いつき追い越せ」なんていいますけれども、追いつくことはできても、追い越せるかどうかは分からない、ということです。
例えば、最新の技術を使うプロジェクトや、誰もやったことのないプロジェクトを手掛ける場合は、そのための「お手本」がないわけですから、それを行うにあたっては少なからず失敗するリスクを負うことになります。
それは、韓国が受注した海洋プラント建設でも例外ではありません。業界関係者によると「韓国造船業界が受注した海洋プラントのうち、世界初、世界最大という修飾語が付いたプロジェクトは100%損失が出ていると言っても過言ではない。建造能力をまともに持たない状態で過剰に受注した結果の惨状だ」というのが現実なのだそうです。
であればこそ、リスク計算をきちんとしておく必要があるし、またそれができなければ、今回のような巨額の損失を蒙ってしまうことがあるということですね。
日本の造船業界はリスクを避ける慎重は経営体質だと言われていますけれども、海洋プラント建設に関しては、これが幸いしたといえるのかもしれません。
この記事へのコメント
yoshi
日本の技術者による指導があってもできるのは現在レベルまでで、その後を新たに切り開くことは無理というものです。今、それができるのは日本とドイツくらいでしょうか。