安倍総理が中国を名指しした5つの理由

 
今日はこの話題です。

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7月28日、参院で安保法案が審議入りしました。

この中で安倍総理は「残念ながら南シナ海において、中国は大規模な埋め立てを行っているわけでございます。また東シナ海におけるガス田の問題につきましても、2008年の合意が守られていないという状況もあるわけであります。同盟関係をさらに、より機能させることによって抑止力を強化し、力による現状変更は行うことはできないんだということを相手方に理解させつつ、平和的な発展をお互いに進めていくということが重要ではないか」と述べ、法案の必要性を強調しました。

これについて、一部では「国会審議の場で基本的に避けてきた中国の国名をあえて持ち出して云々…」と初めて安倍総理が国会で、中国の名を口にしたかのような報道も見受けられますけれども、こちらにあるように、安倍総理は、既に7月15日の衆院平和安全法制特別委員会で「国際情勢の変化に目を凝らさないといけない。東シナ海では、尖閣諸島周辺海域で中国公船による領海侵入が繰り返され、南シナ海でも中国が大規模な埋め立てを行っている」と述べています。

少なくとも安倍総理は、衆院ですでにそう発言しているんですね。既に色んなところから指摘されていますけれども、要するに安保法案は対中国を睨んだ法案だというわけです。

報道では、政府与党は、参議院で与党の質疑時間を増やして、法案の必要性などをより分かりやすく説明する中で、中国の名前を出してより具体的に説明し、国民の理解を広げる狙いがあると報じていますけれども、この安倍総理発言が公になる効果は、それだけではないと思いますね。それは何かというと、与野党に対する牽制とマスコミに対する楔。そして、中国に対する抑止効果です。

まず、対野党への牽制についてです。

報道にあるように、今回の安倍総理の「中国名指し」発言で、国会審議での"ターゲット"が明確なりました。前述したとおり、安倍総理は同じ発言を衆院特別委員会でも行っていますけれども、それは衆院可決の1日前の話ですから、それについて碌に議論はできなかったものと思われます。

けれども、今回は参院での審議が始まったばかりのタイミングでの発言ですから、今後の審議でそれに触れないわけにはいきません。参院では与党の質疑時間を増やしていますけれども、与党からは「如何にして中国の脅威から日本を守るか」という観点での議論が行われるものと思われます。

実際、冒頭の安倍総理の"中国名指し"発言は、自民党の佐藤正久氏の質疑に対する答弁でした。

では、これに対して、野党が同じ質問ができるかどうかを考えてみればいいと思うのですね。

これまで、民主党を始めとする法案反対の野党は、「法案は憲法違反だ」とか、「民主制を無視している」とか入口論でわぁわぁ言うばかりで、法案の中身について殆ど踏み込んでいませんでした。まぁ、民主党はホルムズ海峡の海上封鎖は"日本の存立を脅かす事態"ではないから、反対だとか言っていましたけれども、それは安倍総理が、ホルムズ海峡の海上封鎖を例に出して答弁したからですね。

それを今度は、「南シナ海の埋め立て」や「東シナ海のガス田」を例に出した。参院審議の冒頭でこれが例示されたからには、これに触れなければ審議にはならないですよね。もしも、野党がこれをスルーすれば、それはそのまま"中国の脅威"を認めたことになります。

にも関わらず、相変わらず入り口論で反対を続けていれば、「野党は最初から質疑をする積もりはなく、反対したいだけなのだ」と国民からみられるだけですね。

それとも、ホルムズ海峡封鎖よろしく「中国の"南シナ海の埋め立て"や"東シナ海のガス田"は日本の存立を脅かすものではない」とでも言い張るのでしょうか。まぁ、それはそれで現状認識に問題があり、やはり「野党はとても国民の生命と財産を託すに足る政党ではない」と、国民に見透かされるのがオチですね。どちらにしても詰んでいます。

要するに、安倍総理の発言は野党にとって、「日本の安全保障についての現状認識と国民を護る積りがあるのか」を問う踏み絵になっている、というわけです。

まぁ、こちらで大前研一氏は、「中国の脅威は、安倍政権が中国を追い詰めるからだ」と述べていますけれども、海保が出している「中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入隻数」をみると、その数は2012年9月から急増しています。つまり、第二次安倍政権発足前からなんですね。そもそも、日本の船は中国の領海も接続水域も侵してはいません。

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数年前には、中国軍艦による射撃レーダー照射という事件もありました。その意味では、日本に対する中国の数々の挑発が安保法制の背中を後押しした面があることは確かです。ですから、追い詰めたというのは、むしろ、中国の方が日本を追い詰めたというべきだと思いますね。

次に、与党内に対する牽制です。まぁ、これはもう少し様子を見てみないとなんとも言えませんけれども、今のところ、安倍総理のこの発言が問題視されて大騒ぎしているようには見えません。

まぁ、7月29日、民主党の枝野幹事長が「日中首脳会談を模索している状況で、特定の国名を出すことがトータルのわが国の外交安全保障戦略上、適切だとは到底思わない」と述べ、共産党の穀田恵二国会対策委員長も「中国の脅威論をさまざま言い立てて安保論議の防戦にかかっている」とコメントしていますけれども、世論がその声で埋まるという感じでもありませんね。

日本の総理が具体的国名を名指しして批判しても、特に問題視されない。要するに、マスコミ含めて、内心では皆そう思っていたということです。これは同時に、党内でも安倍路線が支持されることを意味します。

今年9月に自民党の総裁選が行われますけれども、前回の総裁選で安倍総理と総裁の座を争った石破地方創生相は、24日、TBSの番組収録で総裁選への出馬について問われ「安倍内閣として、ものすごい大きな課題を負っている時に、閣僚の一人がそんなことを言えますか。内閣支持率を上げるのは閣僚たる我々の責任だ」と出馬を見送る考えを示唆しましたから、正直いって、もう今の安倍総理の強力な対抗馬となる候補はちょっと見当たらないですね。

仮に、親中派の候補者が出てきたとしても、ある程度善戦できる見込みがあるなら未だしも、ボロ負けしてしまっては後のダメージが大きいですからね。中々難しいところだと思います。

そして、マスコミに対する楔についてですけれども、これは、今回の安倍発言に対する反応をみればハッキリします。つまり、名指しした"中国の脅威"から如何にして日本を護るのかという論調を展開するのか、それともそれを否定するのか、ということです。

おそらく、集団的自衛権の閣議決定のときと同じように、安保法制を肯定する新聞と、否定する新聞とで二分されるだろうと思われますけれども、その意味で、安倍総理はまず、マスコミに楔を撃ったと思うのですね。

そして、この一撃によって、マスコミは賛成にしても、反対にしても、自身の態度を明らかにしなくてはならなくなりました。つまり、今の中国についてどう考えているのかを明確にしなければならなくなったということです。

では、賛成派のマスコミはさておき、今後、反対派のマスコミはどんな論調を展開してくるのかというと、大きくは2つあるのではないかと思われます。ひとつは「中国を刺激するな論」、もう一つは「中国は脅威じゃない論」です。

「中国を刺激するな論」は「日本が"セキュリティダイヤモンド"構想を掲げたり、"中国包囲網"を築いたりするから、中国を刺激して、今のようになったのだ。そんなことを止めれば、中国も矛を収めるに違いない」というものです。まぁ、現状をみれば、甘すぎる考えだと思いますね。先程、大前研一氏のコメントを取り上げましたけれども、まぁ、そういう意見もあるということです。

そしてもう一つの「中国は脅威じゃない論」は、ここのところマスコミの論調でちらほら見受けられる論ですね。

先日、外国特派員協会の記者会見で村山富市元首相がドイツ人記者から「村山談話の頃と状況が違う。中国の脅威は高まっているが」と問われ、「中国は覇権を求めないと言っている。今の時代、戦争なんてできっこない。話し合いで解決を」とコメントしたそうですけれども、要するに、"中国は侵略などしない"というウルトラ楽観論ですね。

ただ「中国を刺激するな論」も「中国は脅威じゃない論」も、その根拠は「刺激しなければ中国は引くはずだ」とか「中国は覇権を求めないと言っている」とか、詰まるところ、「中国任せ」でしかないのですね。「中国様、どうぞお好きなようにしてくださいませ」と言っているのも同然だということです。

まぁ、個人で楽観的希望を述べるのは結構ですけれども、国民の声明と財産を預かる政権与党の立場で、こんな見解しか持てないようでは失格です。将来をきちんと予測して、それに備えることがなければ、国を安んじることなんてできませんからね。

そして、最後の外交についてですけれども、今回の安倍総理の"中国名指し発言"がクローズアップされることは、中国に対する外交的メッセージになると思うんですね。

中国とは、今年秋に日中首脳会談を行う方向で調整しているといわれていますけれども、会談前のこのタイミングで、安倍総理は"中国名指し発言"をしました。それでもなお、首脳会談が行われたとしたら、中国は安倍発言を知った上でなおかつ"話し合い"に応じたことになります。

よく戦争は外交の一種だと言われますけれども、首脳会談を調整しているのと並行して、安保法案を審議し、しかもそれは対中国向けであると宣言した。これは要するに、「口での話し合いをするけれども、拳で話し合う準備もしてるよ」ということですね。

そして、首脳会談前に安保法案が可決すれば、その準備が整ったことなりますから、安倍総理は"口でも拳でも"話し合う用意をした上で首脳会談に臨むことになります。

無論、中国も"拳"で話し合おうと思えば、話し合うことはできます。

今、南シナ海では、中国船がフィリピンの漁船に衝突してみたり、インドネシアが領海内で不法操業していた中国船を拿捕して爆破したりとかしていますけれども、あれなんかは正に、"拳"で話し合っている例ですね。

同じく、中国もやろうと思えば、尖閣辺りで"拳"で話し合う選択もできる筈ですし、実際、2010年の民主党政権時にはそういう選択をしました。

けれども、中国がこの秋に日本と"拳"ではなく"口"で話しあうことを選択したとするならば、結果として安倍総理は戦争の危機を回避したことになります。

要するに、"抑止力"とはこういうことなのだと思うんですね。単なる話し合いでも、"武"が背景にあるとないとでは全然違う。

その意味では、今、安保法案を審議しているのは凄く意味があるし、日中首脳会談の前に、安保法案を可決しておくことが、やはり大事だと思いますね。

この記事へのコメント

  • ななしさん

    シナの平和は最初から乱れていた!
    今、シナ人から戦前のシナの平和を乱したのは日本人のように言われるが大変に心外至極である。
    そもそもシナの平和が乱れたのはシナ人の責任である。
    シナ人は自治能力を持たず欧米列強の侵略に抗する力を失い内乱はシナ人を不幸の底へ突き落した。
    その乱れた平和を回復しようと尽力したのが戦前の日本なのである。
    シナの平和が乱れていたのは日本の責任ではない。
    シナの混乱によりシナ人ばかりでなく多くの日本人がシナの荒野に落命したのである。
    その無念いかばかりか。
    シナ人は被害者ぶるのを止めよ!
    シナの混乱で迷惑を被ったのは巻き込まれた日本人の方である。
    2015年07月30日 01:18
  • 白なまず

    どうやら日本が支那に対する異物感は1000年前からあり、遣唐使廃止以来鎖国状態だったようです。

    【GHQ焚書図書開封】真夏の夜の自由談話Ⅱ ~ 閉ざされた韓国文化と日本[桜H27/7/29]
    https://www.youtube.com/watch?v=1xU0mW5zOfg
    2015年07月30日 19:16
  • ポール

    すっと腑に落ちる論考で日比野さんの見識に恐れ入ります。

    私は安倍総理が海外の脅威を語る時に慎重に避けていた「中国名指し」をここで出してきたのを、世論を読む力が素晴らしいなと思って見ていたのですが、中国との首脳会談まで睨んでのこととは読めませんでした。

    いつも素晴らしい論考、ありがとうございます。

    話題は変わりますが、
    今回の論考に限らず、私が強く同意を感じたものはFacebookで紹介させていただきたいのですが、ご了承いただけませんか。
    2015年07月30日 19:22
  • 日比野

    ポールさん。こんばんは。
    今回のエントリーは、最初は与野党の牽制までしか思いつかなかったのですけども、エントリーを1日待って、もう一回考えて、はたと気づいて追加したものなので、半分は偶々かもしれません。

    facebookの件は、ご紹介いただけるとのことで、こちらが恐縮してしまいますけれども、よろしければ、どうぞご自由にお使いくださいませ。
    2015年07月30日 21:09
  • ポール

    日比野さん、ご了承ありがとうございます。
    2015年07月31日 09:11

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