電撃南北会談と揺らぐ金正恩体制
昨日の続きを極々簡単に…
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8月22日、北朝鮮と韓国は高官級協議を行うことで電撃合意し、22日の夜、板門店で会談を行いました。
北朝鮮は、昨日の段階で、韓国が22日の午後5時半までに政治宣伝放送を中止しなければ軍事的行動を開始すると威嚇していたのですけれども、その一方で対話の道も探っていました。
21日の午後4時50分頃、北朝鮮は、金養建労働党中央委員会秘書名義の書簡を、韓国の金寛鎮国家安保室長宛てに送り、「対北朝鮮の拡声器放送は宣戦布告」としながらも「現事態を収拾して関係改善の出路を開くために努力する意思がある」と、会談を行うことを提案しました。これに対して韓国が午後6時に会談相手に金養建書記ではなく、黄炳瑞総政治局長を要求すると、翌9時半頃に北朝鮮がそれに応じると回答し、会談の合意が為されました。
板門店での会談には、北朝鮮側は黄炳瑞総政治局長と金養建書記、韓国側からは金寛鎮国家安保室長と洪容杓統一相が出席したと伝えらえています。
北朝鮮の黄炳瑞総政治局長は、金正恩の最側近で、現在北朝鮮のナンバー2とされています。彼は、最近になって急激に頭角を現した人物で、2014年3月に朝鮮労働党組織指導部第一副部長、4月15日に大将、同26日には「元帥」に次ぐ「次帥」の称号を受けるなど朝鮮人民軍での地位を高め、5月には軍総政治局長に昇格、事実上のナンバー2となっています。
彼について、早稲田大学の重村智計教授は「黄炳瑞の妻は金雪松だと聞いている。金正恩の腹違いの姉だ。金正恩は義理の兄にあたる黄炳瑞を最も信頼している。軍の指導部は、総政治局長・黄炳瑞、国防副委員長・呉国烈、偵察総局長・金英徹という体制になった。…正恩は張成沢の粛清後、身内しか信用できなくなっている。最も信頼している姉の旦那を要職につけたのも理解できる。また、崔竜海は軍人出身ではないため、軍の掌握は難しかった。金正恩は崔竜海を党務に戻し、黄炳瑞を総政治局長にすることで軍の完全掌握を図った」と、分析しています。
また、当初、北朝鮮が会談相手として名を上げ、今回の会談にも同席している金養建書記は、北朝鮮で韓国政策を統括する人物で、中央日報によると、金養建書記の夫人は、金正日時代から、金正恩を後継者にすべく力を注いだ生母の英姫を補佐していたようです。それがあってか、金正恩は金養建夫人を「叔母」と呼ぶ程、特別な思いを抱いていると中央日報は伝えています。
これらをみると、やはり金正恩は、信頼できる身内を側近としておき、国内外を取り仕切らせているものと思われます。もしも、そうしないと金正恩体制が持たないのであれば、結構危ういのかもしれません。
22日に、北朝鮮の朝鮮中央通信が会談を開くことを伝えたのですけれども、韓国側の出席者について、通常は、「南朝鮮」、「傀儡」とするところを「大韓民国青瓦台国家安保室の金寛鎮室長、洪容杓統一相」と韓国を正式名称で呼ぶ異例の対応を取ったようです。
一部には、会談に真摯に臨む姿勢を示唆したという観測もあるようですけれども、まぁ、北朝鮮ですからね。どこまで本当かは疑問が残りますし、穿った見方をすれば、これも"相手の裏をかく"為に油断させておく手の一つだといえなくもありません。
今回、北朝鮮が中止を要求している韓国の対北朝鮮向け放送ですけれども、その内容は、金正恩体制に対する直接的な批判ではなく、韓国や北朝鮮のニュースと世界情勢、北朝鮮の天気などが政治色が薄く、自由主義体制の優越性を伝えるのが主な内容です。中には、北朝鮮を脱出した女性を放送に参加させ、脱出経験談と韓国での暮らしの様子を流しているようです。
放送に使用する拡声器には500ワットの高出力スピーカー約40個を使用し、昼は10キロメートル以上先の開城工業団地まで、夜になると24キロメートル先まで声が聞こえるそうですから、北朝鮮住民の少なからずには聞かせているものと思われます。
これについて、北朝鮮が対北朝鮮放送開始から10日目に砲撃してきたことや、北朝鮮脱出者が心理戦放送を聞いて脱北を決心した等の証言から、放送を「強力な対北朝鮮非対称戦力」とする見方をする一方、「対北朝鮮心理戦で北朝鮮の住民や兵士が組織的に脱北した事例はなく、むしろ思想教育を強化する原因を提供しかねない」として放送を中断すべきだとする意見もあるようです。
こうしたことから、北朝鮮は対北朝鮮拡声器放送を対北朝鮮ビラ散布とともに体制を揺さぶる行為とみており、それ故に止めさせようと強硬に反発しているという分析もあるようです。
今のところ、22日の期限を過ぎても韓国側は放送を続行し、北朝鮮軍に動きはありません。ただ、相手が北朝鮮ですからね。やはり会談結果に関わらず、しばらくは臨戦体制のままでいたほうがよいと思いますね。
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