昨日の続きを極々簡単に……。

1月16日、台湾の行政院大陸委員会は総統選挙で蔡英文主席が勝利した結果を踏まえ、台湾海峡の平和と繁栄は各方面の利益にかない、国民の期待でもあるとし、「双方に関係を維持する責任がある」と述べました。
まぁ、蔡英文総統になっても現状維持していきましょうと大陸に対して宣言した訳です。
それに対して、当然ながら中国は、はいそうですかとは言っていません。中国の国務院台湾事務弁公室は「我々の台湾に対する方針は明確で一貫したもので、台湾地区の選挙結果によって変わることはない。……92年コンセンサスを堅持し、いかなる台湾独立運動に断固反対する」とコメントしています。
92年コンセンサスとは中国と台湾の当局との間で、「一つの中国」問題に関して達成したとされる合意の通称のことです。双方の当局が1992年に香港で行った協議に由来し、2000年4月に台湾の行政院大陸委員会主任委員蘇起が名付けて公表したことから広く知られるようになりました。
ところがその中身については、合意文書が存在しない上に、中台双方の解釈が異なっているんですね。中国は「一つの中国原則を口頭で確認した合意」とし、台湾の国民党は「一つの中国の中身についてそれぞれが述べ合うことで合意した」と解釈しています。
中国は元々、台湾即ち中華民国を認めていませんので、江沢民時代まではこの台湾側の解釈を否定してきました。その後、胡錦濤時代になって台湾側の解釈を否定も肯定もしない方針に切り替え、馬政権後は中台はこれを話し合いの基礎とすることで一連の争点を棚上げし各種協定を結んだという背景から、今では「92年コンセンサス」が一定の効用を持つと受け止められています。
ただ、この「92年コンセンサス」については、今回当選した蔡英文主席が、合意文書が存在しないことと、中国が台湾側の解釈を公式に認めていないことを理由として、コンセンサスそのものが存在しないと主張していました。
その意味では中国側は早速、蔡英文氏に対して牽制を入れてきたともいえる訳ですけれども、一部には「92年コンセンサス」の解釈について、台湾側が中国寄りにするか、それとも中国側は台湾の解釈を認めるかどうかが変わるかをみれば、双方の力関係に変化があるのかどうか推し量れるという見方もあるようです。
問題は、蔡英文氏が総統になってから後、この「92年コンセンサス」を認め、あるいは認めたとしてどう解釈するのかですけれども、17日、環球時報は蔡英文氏が独立色を強めようとした場合の対抗措置として、「台湾と外交関係にある小さな国々は北京と国交を結ぶことを希望しており、大陸は、その気になればいつでも断交させ『台湾への懲罰』としてその小国を奪い取ることができる」と述べています。
これは、台湾が外交関係をもつ中米・太平洋・アフリカ諸国など20ヶ国以上に、チャイナマネーをチラつかせて台湾と断交させ、中国と国交樹立させるということです。ありていに言えば、外交圧力ですね。
実際、関係筋は、蔡英文次期政権の政策や台湾の世論を見極めながらも、中国は「馬政権時代に封印してきた台湾との"外交戦"を再開する」と見ているようです。更には台湾との貿易や観光客の訪台、中台間の直行便で新たな規制を設けるなど、経済面からも圧力をかけるとも見ているようです。
昨日のエントリーで筆者は、「中国はその気になれば、台湾との経済交流を絞って、経済制裁紛いのことをすることだってできる」と述べましたけれども、やはり、そのまんまやってくるというわけですね。
筆者は、中国の「外交戦」の基本ラインは、「分断してからの各個撃破」だと捉えていますけれども、これは兵法の基本でもありますし、シンプルながら効果がある方法です。
逆にいえば、台湾がこれに対抗するためには、分断されないように他国との外交関係を強めると同時に、経済的にも一段と強くなっていく必要があります。要するに、他国をして、台湾との国交断絶などとんでもないと思わせるか、国交断絶しても平気でいられるだけの力をつけないといけない、ということです。
もっともこれはそう簡単なことではありません。蔡英文氏は最初からクライマックスに近いハードルが待ち構えているのかもしれませんね。
この記事へのコメント
まるい
尖閣は台湾領、でも日本と話し合いで解決したい。
中国が圧力かけすぎるとTPP参加?日・米・豪らとアジア版NATO設立へ?