THAADの駆け引きと米中冷戦

  
今日はこの話題です。

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韓国へのTHAAD配備を巡って、米中で駆け引きが行われているようです。

2月23日、中国の邱国洪駐韓大使は韓国の野党幹部と会談し、THAADの韓国配備について「中国の安全保障に大きな影響を及ぼす。……中韓関係を今のように発展させるのに多大な努力が必要だった。こうした努力は1つの問題のために一瞬のうちに破壊されうる。簡単には回復しない」と韓国を強く牽制しました。

まぁ、牽制とは随分と上品な言い方で、実体は恫喝そのものですね。中国らしいといえばらしいのかもしれませんけれども、この中国の態度に珍しく韓国がたてついてますね。

24日、韓国大統領府報道官は「北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対し安全保障と国益から決めたことで、中国もこうしたことを認識しなければならない」と反論、同日、韓国外務省は、中国の邱国洪駐韓大使を呼んで抗議しています。

なぜ、そんなにTHAADの配備を嫌がるかというと、中国国内の動きが丸裸になるからですね。

昨年3月のエントリー「韓国にブチ切れるアメリカ」でこの点に触れたことがあります。次に引用します。
THAADの韓国への配備については中国が物凄く嫌がっています。THAADは弾道ミサイルを、高高度・遠距離で破壊する迎撃ミサイルなのですけれども、迎撃高度が200kmあり、朝鮮半島をほぼ全部カバーできてしまうのですね。

対する中国は遼東半島の大連と、中国東北部の吉林省にミサイル部隊を配備しています。ここに配備されているミサイルは射程2500km程度のDF-21で、主に朝鮮半島と日本列島をターゲットにしているミサイルです。それがTHAADが韓国に配備されることで、無力化されてしまう可能性があるのですね。

しかもTHAADの目となるXバンドレーダーは、探知距離が2000km以上あり、北京を初めとする各地が丸見えになります。弾道ミサイルを初期の発射段階、或は発射前の段階で探知される。これでは嫌がる筈です。

このように、THAADが韓国に配備され、Xバンドレーダーが稼働するだけで相当な圧力になります。

実際、中国の王毅外相は、「THAADのレーダーの届く範囲は、朝鮮半島を大きく越えて中国内部に達しており、正当な安全保障上の利益を脅かし得る。……米韓は中国が納得できる説明をすべきだ。……中国の正当な国家の安全利益が損害され、脅威となる可能性が大きい」と述べています。もう、はっきり認めているわけですね。

アメリカはこれを、中国に北朝鮮を制裁させるためのカードとして使ったようです。

中国は北朝鮮制裁について慎重な立場を崩していませんでしたけれども、2月25日、中国外務省の華春瑩報道官は25日の定例記者会見で、「新たな決議が北朝鮮によるさらなる核・ミサイル開発の抑止に役立つことを望み、役立つと信じている」と述べ、国連安保理の制裁決議案について、「強い制裁」を求めるアメリカと合意しました。

環球時報によると、その内容は、3月1日から、中国が北朝鮮からの石炭の輸入を停止するというもので、北朝鮮は、対中石炭輸出で得ていた年間約12億ドルの収入を失うというものです。

この中国の転換について、専門家の一部はアメリカがTHAADの韓国配備を見送る、或は遅らせることで中国の譲歩を引き出したのだという見方をしていますけれども、そうだと思います。

事実、2月23日、米中外相会談後、アメリカのケリー国務長官は「THAAD配備を考慮しない条件を公開的に話してきた。それは非核化。……非核化を実現できるのならTHAADを配備する必要はない。……THAADを議論する唯一の理由は北朝鮮の挑発。……北朝鮮は公開的にアメリカを攻撃すると宣言し、核開発をしている。……THAADは攻撃用のシステム・武器でなく、完全に防御用の武器。……THAADが配備されれば、それは韓国と米国の保護のためのものだ」とコメントしています。

分かり易い程のバーター取引を示唆する発言です。

筆者は今年1月に「北朝鮮制裁は小田原水攻めだけでは不十分」のエントリーで「北朝鮮を制裁しなければ、中国の国益を損なう状況とは何かというと、端的にいえば、北朝鮮に対する防衛力を強化することが、そのまま中国に対する牽制、嫌がらせになるようにすればいいわけです。……中国があれほど嫌がっていたTHAADを韓国が導入・配備することも牽制になると思います」と述べましたけれども、アメリカはまんまこれをやったという訳です。

このケリー国務長官の発言に呼応してアメリカ軍も発言を修正しています。

25日、ハリス米太平洋司令官は「米韓はTHAADを配備することに合意しておらず、我々が合意したのは協議すること。……協議がどう進行するか見なければいけない。……米韓が同盟レベルで決めるTHAAD配備問題に対して中国が干渉するのは話にならない……中国がTHAAD配備に影響力を行使したいのなら北朝鮮に影響力を行使しなければいけない」と述べています。

連動していますね。

ただ、これで北朝鮮の息の根が止まるわけではありません。中国は石油輸出禁止を盛り込んだ制裁には抵抗して認めませんでしたから。

まぁ、言葉は悪いですけれども、中国の時間稼ぎに近い類のものではないかと思われます。

南シナ海でもそうですけれども、ますます米中対立、米中冷戦が激しくなると思いますね。

この記事へのコメント

  • 774

    「THAADを配備できるかどうか」が、米による、韓国への最終踏み絵でしょうな。
    2016年02月28日 08:22

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