無害通航という名の威力偵察を粉砕せよ

 
昨日の続きを極々簡単に……

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6月15日、中国外務省の陸慷報道官は中国海軍の情報収集艦による沖永良部島口永良部島沖合の領海を通過したことにとて、中国海軍の艦艇は最近、遠洋航海訓練を実施しており、現場の海峡を通過した……この海峡は国際航行に使用され、各国の艦船には通行権があり、事前の通知や許可が必要ないことを日本側は十分承知している。メディアを通じて騒ぎ立てるのは何か意図があるのではないか」と述べました。いつものことながら、いけしゃあしゃあとよくいいますね。

陸慷報道官が引き合いに出した無害通航権とは、外国船が沿岸国の安全を害さないことを条件として事前通告なしにその国の領海を通行できる権利のことです。その規定は、「海洋法に関する国際連合条約」の第19条に定められています。次に引用します。
第19条 無害通航の意味

1 通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。

2 外国船舶の通航は、当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる。

 a.武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
 b.兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
 c.沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
 d.沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
 e.航空機の発着又は積込み
 f.軍事機器の発着又は積込み
 g.沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通常又は人の積込み又は積卸し
 h.この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為
 i.漁獲活動
 j.調査活動又は測量活動の実施
 k.沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
 l.通航に直接の関係を有しないその他の活動
このように、違法操業(i)とか、調査・測量活動(j)、軍事演習(b)などがこれに該当します。では、今回の情報収集船の領海侵入は無害通航に当たるのかどうか、ということなのですけれども、限りなく黒に近いグレーだと思われます。おそらく「沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為(c)」、「沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為(d)」、「調査活動又は測量活動の実施(j)」が該当する可能性が高いと思います。なぜなら、中国の情報収集艦は「マラバール」演習のインド海軍艦艇を追尾・情報収集していたと言われてますけれども、その途上で日本領海に侵入したからです。

これを100%黒だと言い切れるかどうかは、該当の情報収集艦の通過が「日本の安全を脅かした」と判断するかどうかに掛かっています。

今回の日本政府の対応は、外務省のアジア大洋州局長が、在日中国大使館の劉少賓次席公使に電話で懸念を示した程度で終わらせています。先般の尖閣の接続水域侵入のときと比べて随分とヌルい対応のように見えます。

この違いは、先に述べた無害通航権の定義に依っているものと思われます。

中国は尖閣の領有権を主張していますけれども、その状態で、尖閣領海に侵入した場合は「沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為」と見做されるからです。無害ではありません。日本政府は既に尖閣領海に侵入したら、相応の対応を取る、と通達しています。つまり、無害通航かそうでないかのラインをこの辺りに引いている訳です。

それに対して今回通過した、沖永良部島沖合は領有権を主張していません。それでも侵入したのが情報収集艦ではなく、フリゲート艦などの戦闘艦であれば、また話は違ってきます。「武力による威嚇又は武力の行使」に該当する可能性が極めて高いからです。

つまり、そういうギリギリ黒と言い切れない辺りの艦艇を中国は送りこんできた。その狙いは何かというと、「マラバール」に対する牽制であることは勿論のこと、それ以外にも「威力偵察」の線もあるではないかと思いますね。

もう6年も前ですけれども、尖閣沖衝突事件が起きた際、筆者は「威力偵察と実行支配と一国平和主義 」というエントリーで中国はわざとぶつけることで「威力偵察」を行い、尖閣を係争地化することを狙っている、と述べたことがあります。

今回の領海侵犯はこれと同じではないかと思います。そうすることで、日本の反応を見ている。沖永良部島沖合を係争地化できれば、次にはこの海峡をおおっぴらに通航することができますからね。

今回、日本は懸念だけにして"自重"したと見ることもできるかもしれませんけれども、こと中国に対してそれは甘いのではないかという気がします。

以前「尖閣を守る方法について」のエントリーで、尖閣周辺で機雷の掃海訓練をやればどうか、と述べたことがありますけれども、「マラバール」演習のついでに、南西諸島の各海峡で掃海訓練を一斉に行えば、中国に対する相当な牽制と外交メッセージを発することが出来ると思いますね。

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    無害通行は日本が認めたからだ.
    つまり, 安倍首相が認めたから
    無害通行となったのである.

    安倍晋三は確かに今までにない
    パフォーマンスに優れた政治家であるが,
    本当の胆力を備えた政治家であるか
    未だに示されていない.

    安倍政権の経済政策は全てが人頼みに見える.
    政府自ら打ち出して経済を活性化させたもの
    はないと思う. これほど無策でありながら
    持ち直す絶好の時期を迎えている日本.

    南・東支那海の状況がどの様に決着するか,
    中共がその前に経済危機から立ち直ってしまうか,
    5年後には明らかになるだろうが, ...
    2016年06月21日 13:22
  • Bizenkiyomitsu

    恐れ入ります、鹿児島県「口永良部島」では無いでしょうか???
    また中共が主張していたのは「国際海峡における通過通行権」では?

    以下のブログで元外務省条約局勤務の議員の方が見解を述べておられます。

    http://ameblo.jp/rintaro-o/entry-12171960629.html
    2016年06月21日 13:56
  • opera

    用語の問題なのですが、実行支配ではなく、実効(的)支配ではないでしょうか。
     定義が曖昧かつ未確定の用語ですが、概ね実効支配か不法占拠ないし侵略の違いは、歴史的国際法的に正当な権限に基づくものか否かにあるので、日本のマスゴミが竹島を韓国が実効支配しているとか、中国船の侵入によって尖閣諸島の実効支配が脅かされるという表現を使うことは、今更ながらかなり売国的()ですね。

     なお、先日、尖閣諸島の接続水域に侵入した船、鹿児島沖で領海侵犯した船、さらに2,3年前に海自の護衛艦に対してレーザー照射をした船が、同じ(型の?)船だという話があるようです(政府は把握しているでしょう)が、となると、その意図についても、ちょっと考察が必要かもしれません。
    2016年06月21日 16:42
  • 日比野

    Bizenkiyomitsuさん、こんばんは。

    >恐れ入ります、鹿児島県「口永良部島」では無いでしょうか???
    御指摘ありがとうございます。訂正させていただきました。m(__)m

    >中共が主張していたのは「国際海峡における通過通行権」では?
    報道を再チェックしましたが、確かに15日、華副局長は「通過通航権と無害通航権は一緒にしてはならない」と述べていますね。

    で、ご教示いただいたhttp://ameblo.jp/rintaro-o/entry-12171960629.htmlを拝読しました。勉強になりました。ありがとうございます。いずれにしても、国を護る、という方向で考えればよいかと思いますね。
    2016年06月22日 00:59
  • 日比野

    Operaさん、こんばんは。

    中国の情報収集艦は15日の口永良部島に続いて、翌16日に北大東島の接続水域を航行しています。非常に計算してやっていると思います。本気で掃海訓練をやっていいんじゃないでしょうか。
    2016年06月22日 01:00

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