中華人民共和国憲法を超越する存在とは何か

 
今日はこの話題を極々極簡単に……

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6月1日、カナダを訪問中の中国の王毅外相が共同記者会見でブチ切れる一幕がありました。これは、カナダ人記者が、カナダのディオン外相に、人権問題や南シナ海をめぐる懸念がある中、なぜ両国関係を強化するのか尋ねたときの事なのですけれども、記者を睨みつけた王外相は「中国の人権状況を最も分かっているのは中国人だ。根拠のない非難は拒否する。……中国に対する偏見に満ち、傲慢だ。……中国の憲法に人権保護が書かれていることを知っているのか」などと主張したそうです。

では、その中国憲法に人権保護が書かれているのか、というと、確かに書かれてはいます。それは「第2章 公民の基本的権利及び義務」の中にあります。次にその一部を引用します。
第2章 公民の基本的権利及び義務

第33条
1.中華人民共和国の国籍を有する者は、すべて中華人民共和国の公民である。
2.中華人民共和国公民は、法律の前に一律に平等である。国家は、人権を尊重し、保障する。
3.いかなる公民も、この憲法及び法律の定める権利を享有し、同時に、この憲法及び法律の定める義務を履行しなければならない。

第35条
◾中華人民共和国公民は、言論、出版、集会、結社、行進及び示威の自由を有する。

第36条
1.中華人民共和国公民は、宗教信仰の自由を有する。
2.いかなる国家機関、社会団体又は個人も、公民に宗教の信仰又は不信仰を強制してはならず、宗教を信仰する公民と宗教を信仰しない公民とを差別してはならない。
3.国家は、正常な宗教活動を保護する。何人も、宗教を利用して、社会秩序を破壊し、公民の身体・健康を損ない、又は国家の教育制度を妨害する活動を行ってはならない。
4.宗教団体及び宗教事務は、外国勢力の支配を受けない。

第37条
1.中華人民共和国公民の人身の自由は、侵されない。
2.いかなる公民も、人民検察院の承認若しくは決定又は人民法院の決定のいずれかを経て、公安機関が執行するのでなければ、逮捕されない。
3.不法拘禁その他の方法による公民の人身の自由に対する不法な剥奪又は制限は、これを禁止する。公民の身体に対する不法な捜索は、これを禁止する。

第38条
◾中華人民共和国公民の人格の尊厳は、侵されない。いかなる方法によっても公民を侮辱、誹謗又は誣告陥害することは、これを禁止する。

第39条
◾中華人民共和国公民の住居は、侵されない。公民の住居に対する不法な捜索又は侵入は、これを禁止する。

第40条
◾中華人民共和国公民の通信の自由および通信の秘密は、法律の保護を受ける。国家の安全又は刑事犯罪捜査の必要上、公安機関又は検察機関が法律の定める手続きに従って通信の検査を行う場合を除き、いかなる組織又は個人であれ、その理由を問わず、公民の通信の自由及び通信の秘密を侵すことはできない。

第41条
1.中華人民共和国公民は、いかなる国家機関又は国家公務員に対しても、批判及び提案を行う権利を有し、いかなる国家機関又は国家公務員の違法行為及び職務怠慢に対しても、関係のの国家機関に不服申し立て、告訴又は告発をする権利を有する。但し、事実を捏造し、又は歪曲して誣告陥害をしてはならない。
2.公民の不服申し立て、告訴又は告発に対しては、関係の国家機関は、事実を調査し、責任を持って処理しなければならない。何人も、それを抑えつけたり、報復を加えたりしてはならない。
3.国家機関又は国家公務員によって公民の権利を侵害され、そのために損失を受けた者は、法律の定めるところにより、賠償を受ける権利を有する。
このように、人権保護が"書かれて"はいます。けれども、それが守られているかどうかはまた別の話です。

例えば、35条の、言論、結社の自由が保護されているかといえばいませんね。41条1項で「いかなる国家機関又は国家公務員に対しても、批判及び提案を行う権利を有し」と書いていますけれども、習近平主席を批判すれば投獄されますからね。思いっきり憲法違反しています。

また、39条、40条もそうですね。土地開発のためだといって、強制的に立ち退かせたり、嫌がらせをしたりなんてのはザラですし、ネットなんて監視されまくりです。党に都合の悪いことは即ブラックアウト。憲法違反の疑いの匂いがプンプンします。

なぜ、そんなことになるのかというと、中国には憲法の上に君臨する存在があるからです。言わずと知れた、中国共産党です。よく指摘されることですけれども、中国の憲法前文には"中国共産党の指導"という文言があります。該当部分を次ぎに引用します。

中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクス・レーニン主義、毛澤東思想、鄧小平理論及び"三つの代表"の重要思想に導かれて、人民民主独裁を堅持し、社会主義の道を堅持し、改革開放を堅持し、社会主義の各種制度を絶えず完備し、社会主義市場経済を発展させ、社会主義的民主主義を発展させ、社会主義的法制度を健全化し、自力更正及び刻苦奮闘につとめて、着実に工業、農業、国防及び科学技術の現代化を実現し、物質文明、政治文明および精神文明の調和のとれた発展を推進して、我が国を富強、民主的、かつ、文明的な社会主義国家として建設する。

"中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に"ですからね。ハナから"制限付き人権"しかない訳です。

今年3月に、上海で、興味深い事件がありました。それは、上海市閔行区の繁華街で飲食店などを営む男性住民が、違法建築を理由に立ち退きを迫られていたのですけれども、なんと、習近平国家主席のポスターを建物の壁にびっしりと貼り付け「護符」替わりにしたというものです。

その効果は覿面で、習近平ポスター建物を取り壊せば「不敬行為」と受け取られて問題が拗れることを恐れた当局が折れ、強硬措置をせず、話し合いで解決しようと申し出たということです。

これなんかは、中国では憲法よりも党が上にあるという事を象徴的に表した事件だと思いますね。

ですから、今回、王毅外相に人権について問い質したカナダ人記者の方には次には、中国では、憲法と共産党のどちらが上なのかと聞いてみたらいいのではないかと思いますね。

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この記事へのコメント

  • きょうかいな

    民主主義国の憲法は立憲主義に則っていると言われています。これは、憲法は人々の人権を(国家権力から)守るために国を拘束するものである、ということですね。
    日本国憲法は前文冒頭が主権者が主語になっていて、99条で憲法を守るべき存在は国家権力を担う人々である形になっています。主権者→国、の形になっているから、国が人権を守ることが担保されるわけです。中国憲法は国が主語で、前文の後半に守る義務があるのは人民であるから立憲主義に則っていません。
    とはいえ、日本も安心してはいられません。国家権力に携わる人々だって縛られたくない。これを「民主主義のコストだ」と受け入れてくれればいいですが、縛りを外そうとする人は必ず出ます。
    日本国憲法12条で、人々は自由や権利を不断の努力で保持しなければいけません。人権思想は「対国家」概念として発展しましたから「国から」自由権利を護らなければならないわけです(マッカーサー草案では「努力」の部分は「人民による監視」になっていました。言葉が変わったのは政府が縛られたくない思いがあったのかもしれません)。人々が国に憲法を「守らせる」努力をしなければ、憲法も紙切れになるかもしれません。
    2018年11月11日 19:44

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