今日はこの話題です。


9月16日、アメリカ政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」は、北朝鮮の平壌に駐在する国連関係者の話として「今回の洪水はここ数年で最も大きく、深刻な被害が発生している。……洪水により14万人の被災者が発生し、60万人が飲み水や衛生問題で苦しんでいる」と報じました。
被害の原因について国連緊急援助調整官室(OCHA)関係者は「台風10号による豪雨の影響で豆万江の水位が上昇したことに加え、1回あるいは2回にわたり川の水が平野に放出されたからだ。……ただし大量の水がなぜ放出されたのかはまだわからない」と伝えています。
北朝鮮も国営メディアを通じ、咸鏡北道地域における洪水現場の映像や写真を公表し、「解放以来、最も大きな災害。……死者・行方不明者を含む人命被害は数百万人に達し、6万8900人が住む家を失った。……1万1600棟の住宅が破壊され、2万9800棟が莫大な財産被害を被った」などと伝えているようです。
朝鮮中央通信は、朝鮮労働党中央委員会が党員や朝鮮人民軍に対し、連携して被災地の復興支援に当たるよう呼びかけ、労働党は全土で200日にわたる動員計画の展開も指示。更に、北朝鮮政府はアジア9カ国や国際機関などに公式の支援要請をしています。
北朝鮮事情に詳しい香港城市大学のブラッドリー・ウィリアムズ教授によると、「北朝鮮政府が表立って広く支援を呼びかけるのは、前例がないわけではないが珍しい」そうなのですけれども、今回北朝鮮が被害状況を詳しく伝える背景には、国際社会からの支援を引き出したいという意図があるのではないかと見られています。
国連児童基金(UNICEF)は、ムラット・サヒーン副代表が、被害の大きかった咸鏡北道会寧市の郊外を訪れ、「被災者と話したが、この60年間で最悪の水害と言っている。人々はすべてのものを失った。医師によると地域の妊婦15人のうち、11人が流産した。」とのコメントをブログで公開しています。
また、国連世界食糧計画(WFP)は、14万人の被災者に大豆やビスケットなどの緊急食糧支援を行い、今後も被災者の数が増えると見て、国際社会にさらなる支援を呼びかけています。
けれども、度重なる核実験を強硬する北朝鮮に対する世界の目は甘くありません。韓国政府筋は「5回目の核実験を強行した北朝鮮に対しては制裁の強化を求める声が高まっているため、簡単には支援を行いにくい雰囲気だ」とコメントしていますし、日本も同様です。
9月13日、菅官房長官は「現時点で支援は検討していない」と述べ、国際機関などを通じた援助要請があった場合の対応についても「政府として情勢を注視したい」と慎重な姿勢を崩していません。
同じく岸田外相も14日の衆議院外務委員会で 「核実験や弾道ミサイル発射は従来とは異なるレベルの脅威になっている。このような状況を踏まえれば、現時点で支援を行う考えはない」と述べています。妥当な判断だと思います。
台風による水害は馬鹿にならないことは分かりますけれども、北朝鮮の発表が本当であれば、一度の水害で数百万人の人命被害が起こるとは尋常ではありません。
ただ、今回の水害についていえば、北朝鮮住民が当局の避難命令に従わず、被害が拡大した面もあったようです。というのも、災害復旧に動員された兵士に家財道具を盗まれることを住民が恐れたからだと言われています。
昨年、羅先で大洪水が発生した際に、動員された多くの兵士が、被害を受けた家からテレビやDVDプレイヤーなど金目の物を片っ端から盗んでいったということがあり、それを知っている住民が財産を盗まれることを恐れて逃げらなかったケースが相当数あったようです。実際、水が引いてから、兵士たちは避難して無人となった家に乗り込み、せっせと家財道具を盗みだしたり、最初から盗み目的で、金がありそうな家の人を選んで「避難せよ」と声をかけたケースもあったと伝えられています。
士気が低いとかいうレベルではないですね。東日本大震災で救助、復旧に獅子奮迅の活躍をした自衛隊とは比べるべくもありません。
細かい失政が重なり、求心力を失った政府はこういう事態に脆さが表面化してくるのかもしれません。軍が盗みを働くレベルにまで堕ちているのであれば、いつクーデターが起こらないとも限りません。小田原水責めではないですけれども、今の北朝鮮は似たような状況に陥っているように見えなくもありません。
護りをがっちり固めつつ、しばらく推移を見ているのが得策かと思いますね。
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