更に昨日の続きです。最終回になります。
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「ロシアンルーレットで異世界へ行ったら最強の魔法使いになってしまった件」連載中!
3.第三世代プラス炉AP1000
原子炉はその設計思想により、いくつかの世代に分かれます。
まず1950年代に登場した初期の原型炉的な炉である「第1世代」。次に現在使用されている軽水炉等の「第2世代」、更に第2世代の改良型である「第3世代」と、第3世代に安全対策を強化した「第3世代+」、そして、次世代原発である「第4世代」です。
現在は「第2世代」と「第3世代」の炉が運用されていますが、2016年8月、ロシアのノヴォヴォロネジ原子力発電所が第3世代プラス原子炉である加圧水型原子炉の発電と送電に世界で初めて成功しています。
今回ウエスティングハウスが建設しようとしているのは「第3世代+」にあたる最新鋭の加圧水型原子炉(PWR)です。
AP1000と命名されたこの炉は、大型蒸気発生器(SG)や大型原子炉冷却材ポンプ(RCP)等を採用し、1154MWeという高出力を実現したことに加え、安全システムにポンプなどの外部動力を使わず、炉の上にあらかじめ溜めておいた水を重力で流下させるなど、自然法則を利用した静的なシステム、「パッシブ型安全システム」を採用しています。
更に、AP1000は、従来型のウエスティングハウス第二世代PWRと比較して設計を単純化し、必要な機器類を大幅に削減しています。
ウエスティングハウスはこのAP1000を世界標準炉として世界各国への展開を進め、2007年に中国浙江省にある三門原発と、山東省の海陽原発の受注を獲得。アメリカ国内でも受注を獲得し、欧州や南アフリカにも手を伸ばしています。
中国は、2020年までに、100基の原子炉を保有したいと考えていて、原子炉の国産化と海外技術の導入を同時並行で行っています。
ウエスティングハウスは、中国国家核電技術公司や他の大学と連携して、AP1000を高出力化するための研究を共同して行うという協定を結び、更にAP1000の知的財産権はウエスティングハウスが持つものの、4基目以降の国内建設は技術移転を含めて中国国家核電技術公司が行う協定を結んでいます。
問題はウエスティングハウスが持つ原子炉の核心技術まで中国に渡っているかどうかなのですけれども、中国のサイバー部隊が2010年にAP1000に関する機密情報を盗み取るスパイ行為があったとして、アメリカ連邦大陪審が2014年5月に中国の将校5人を起訴しています。
この事から、或いは肝心要の部分について、ウエスティングハウス社は中国に技術を渡してはいないのかもしれません。無論、サイバー攻撃で盗み取られていればアウトですが。
こうした背景を考えると、今回破産したウエスティングハウス社を中国が買収に掛かる可能性はないとはいえません。
4.臨時株主総会
3月30日、東芝の臨時株主総会が行われました。目的は東芝の稼ぎ頭である半導体メモリ事業の分社化の承認についてなのですけれども、相当荒れたようです。まぁ、一兆円という前代未聞の赤字を出したのですから当然の反応です。
その模様は色んなところで紹介されていますけれども、筆者が注目したのは、ある株主の発言です。それは次の発言でした。
「1人1問では到底、足りない。10問以上質問したいが、今日は2つだけにとどめる。(米原発子会社のウェスチングハウス・エレクトリックが買収した原発建設会社の)CB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)の買収失敗について。優秀な弁護士はいなかったのか。それと社会インフラを柱にするにというが、競争相手が一杯いる。うまくいくはずがない。原子力は今の軽水炉はダメだ。イノベーションがない。トリウム溶融塩炉こそ、未来の原発だ。インドと提携した方がいい」筆者はトリウム炉の話が出てきてびっくりしました。トリウム炉は第4世代にあたる原子炉なのですけれども、いくつもの優れた点を持っています。
当ブログでは原子炉について、いくつも記事を挙げていますけれども、トリウム溶融塩炉については2011年に「トリウム溶融塩炉の実用化を急げ」のエントリーで取り上げています。
また、それ以外にも東芝は優れた次世代原発技術を持っています。中でも筆者が特に期待しているのが4S炉です。
4S炉とはSuper-Safe、Small & Simpleの頭文字4つを取ったもので、小型ナトリウム冷却高速炉です。これについては、2013年に「夢の次世代原子力『4S高速炉』」で詳しく解説しています。
これらのエントリーでも述べていますけれども、原子力はまだまだ発展途上の技術です。東芝がこれらの技術を捨てることのないよう切に望みますけれども、この辺りは流石に国が介入してくるものと思われます。
5.東芝に未来はあるか
では、これからの東芝がどうなるかなのですけれども、網川・東芝社長は、2019年度までの中期経営計画を発表し、「メモリーや原子力のように1兆円規模の事業はないが、3000億、5000億円の事業を着実に進める」と発言し、公共インフラ、ビル・施設、鉄道・産業システム、リテール&プリンティング事業を柱とする社会インフラに重点を置くと従来の方針を転換しました。
これに伴い、東芝全社の売上高は約3割減少することになります。これをどうカバーしていくか。メモリという東芝の価値の一つを切り離すのですから、並大抵ではありません。技術流出も懸念されます。
早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚氏は「原子力事業を抱えたままだと東芝を受け入れてくれるところはおそらくないだろうが、事業をバラバラに切り刻んで売られていくことになるが、その場合日本国内に技術が残らなくなる可能性が高い。……無理に市場経済の中で解決しようとすると、東芝が持っている他の技術や知的財産を含めて、東芝が消滅してしまう。……これは、最悪のシナリオであり、回避すべきだ」と警鐘を鳴らしています。
一方、国はどうみているのか。
「インサイドライン」編集長でジャーナリストの歳川隆雄氏によると、ある経済産業省幹部と会食した際、その幹部から「東芝は、事ここに至ってはエレベーター製造会社に特化して生き残る以外に道はない……鴻海がシャープを傘下に入れたのはまだ許容できる。しかし、東芝は全く別モノだ。鴻海は主要工場が中国本土にあり、仮に高度な技術の結晶であるフラッシュメモリーが中国で生産されるようなことになれば、その技術は直ちに中国に盗まれる。そんなことは断じて認められない。体を張って阻止する……半導体の安定供給を必要とするIT大手の、例えばアップルに売ったほうがまだマシだ。中国ではなく米国だ」と聞かされたと紹介しています。
これを見る限り、国は技術が中国に盗まれる事を相当警戒しているようです。
このように瀬戸際に追い込まれている東芝の現状は株価にも表れています。
昨年12月27日、アメリカ原子力発電事業で数千億円規模の減損損失を計上する可能性があると発表しました。これを受けて翌28日、東芝株はストップ安をつけ、新年入り後も200円から250円あたりで低迷しています。
筆者も久々にチャートと板を見たのですけれども、よろしくないですね。通りすがり様からコメントを戴いた2月13日の終値は249.8円と陽線で引けましたけれども、相当数が投げたか売り玉を建てたのでしょう、翌日から出来高を伴って下落。3月22日に底値圏で十字線。翌23日に旧村上ファンドであるエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが、東芝株を8.14%保有したと大量保有報告書を提出したことから、思惑買いが入ったものと思われます。
ただ、信用買いも多いですけれども、空売りもほぼ同数積み上がっており、拮抗しています。どうやらモルガン・スタンレーがバカスカ空売りしているようですね。
ここ数日、ちらりと板を見てみましたけれども吃驚しました。恐らくプログラミング売買なのでしょうけれども、大口同士の殴り合いというか凄まじい速度で売り買いされており、板を見てのデイトレードは中々厳しそうです。半ば以上は仕手株化としている印象を受けましたね。
この状態はまだ暫く続くかと思いますけれども、債務超過による2部への付け替え又は上場廃止も有り得るだけに予断を許さない状況ですね。
また中長期で考えても、メモリという主軸事業を売った後の穴が埋まらないと、企業価値は減ることになりますから、株価もこれまでより一段下にポジションを変えることになると思いますね。
今の東芝について、麻生財務相は「ウエスチングハウスの損失が確定しないと、東芝の損失がどれぐらいになるかわからなかった。申請をしないとどうにもならないと思っていた……これから先は東芝本体もきちんと会社の整理をして、長期的に経営の立て直しを進めないといけない……経団連会長や日本商工会議所の会頭を務めるのにふさわしい会社が、たかが数年でここまでになるとは、何が起きているのか……誰が最終決断しているのかよく見えない。皆で話し合って決めましょうというのは平時ならばよいが、有事の際はそうはいかない」とコメントしていますけれども、筆者も同感です。
東芝の未来は、この麻生財務相のコメントが非常に参考になるかと思いますね。
この記事へのコメント
白なまず