昨日の続きです。


10月15日、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、16日から行われている米韓合同軍事演習について「ロナルド・レーガン」など「膨大な戦略資産が南朝鮮とその周辺に集結している……われわれの国家核武力は、米国の核脅威に終止符を打ち、軍事的侵攻を防ぐための戦争抑止力だ」と発表し、米韓両軍を牽制しました。
更に、「北侵核戦争演習反対全民族非常対策委員会」なる団体も、「緊張局面を最悪の爆発限界線へと追い込んでいる」とした上で、「われわれ独自の超強力対応措置」が十分に準備されており、「適切な自衛措置が任意の時刻に断行される」と威嚇しました。
もう色んなチャンネルで口撃をしている感じです。
けれども、今週にも撃つかと見られていたミサイル発射は行われず、北朝鮮は沈黙を守っています。これまでだと、もう何発か撃っていてもおかしくないと思うのですけれども、こうも静かだと何かあったのかと勘ぐってしまいたくなります。
あるいは、経済制裁が地味に効果を出してきて、ミサイルを発射するだけの燃料が尽きているなんてのがあれば、しめたものですけれども、まぁ、何度も世界を欺いてきた国ですから、あまり希望的観測をするべきではないでしょうね。
ただ、今までより金正恩政権になんらかの変化が起こっている可能性はあります。
先月23日のエントリー「金正恩の取るべき最善の策は降伏することだ」で、過去例がない金正恩直接の声明発表を取り上げ、そこまでしないと求心力を保てないのではないか、と述べましたけれども、10月7日、金正恩は、党中央委全体会議で実妹の金与正氏を党政治局員候補に引き上げています。
金与正氏は、故金正日総書記と高英姫夫人との間にできた唯一の娘で、金正日氏は異常なほど溺愛し、生前「与正が女じゃなかったら後継者に据えたい」と漏らすほど聡明だったとも言われています。
その金与正氏が、このタイミングで党政治局員候補に引き上げられた。
党中央委員会政治局は北朝鮮政府の意思決定機関で委員は候補を含め35人なのですけれども、高齢者も多く、実際に発言権を持つのは10人前後と目されています。そこに、実妹とはいえ、金与正氏が30歳で政治局に入ったということは、将来の政治局委員、常務委員へのレールが引かれたということです。
さらに、金与正氏は軍政党の幹部人事、監視、粛清、人民掌握などをつかさどる党組織指導部に関与しているとの情報もあり、2年前から北朝鮮専門家の間では「与正氏は事実上のナンバー2か」と観測されていたようです。
韓国紙「朝鮮日報」は、金与正氏が「金正恩氏に叱責された重鎮幹部と会い、不満解消をするなど幹部の人心掌握に努めている」との情報を伝えています。
先のエントリーで、筆者は金正恩の求心力に陰りが出ているのではないかと述べましたけれども、もしそうであれば、尚の事、いつまでも核実験もミサイル発射も行わずじっとしていることは考えにくい。なぜなら、軍の抑えが効かなくなる可能性があるからです。
それがここにきて、動けずにいるのは、アメリカが4月からこの方絶えず半島周辺で軍事演習を繰り返し、それと並行して、北朝鮮包囲網を敷いて、経済制裁を加えていることが関係していないとはいえないでしょうね。何せ相手は"トランプ大統領"です。
トランプ大統領は、韓国とのFTA貿易交渉でより有利な条件を引き出すため、「『大統領は本当にクレイジーだから、すぐにでも手を引くつもりだ』と言うんだ」と担当者に指示を出しています。
自分自身を「クレイジー」に見せるよう指示を出す。尋常ではありません。トランプ大統領は、何をやってくるか分からない、という自分のイメージを巧みに演出して、それを持って北朝鮮に二の足を踏まさせているという印象を受けます。実に巧みですね。
もし、金正恩が、このトランプ大統領のイメージ演出に嵌っていたとするなら、今の経済制裁をジワジワと掛けられたまま何もできないというのは、非常にまずい状況の筈です。
これらを考えあわせると、金正恩は自分が側近或は軍から暗殺されるかもしれないと感じ始め、それゆえに自分の跡継ぎとして金与正氏を据えたのではないか。つまり、実妹をナンバー2の地位につけ、自分が殺されても金王朝が続くように備えているのではないか。そんな気さえしてきます。
どうやら、北朝鮮状況は大分煮詰まってきた感がありますね。
この記事へのコメント
パヨパヨチーン
なるほど納得です。