更に続きです。


北朝鮮のミサイル発射を受けて、アメリカは海上封鎖を含む追加制裁措置の検討を始めました。
こちらに北朝鮮のミサイル発射に関するティラーソン国務長官の声明が公開されていますけれども、この中で次のように述べられています。
「全ての国は、厳しい経済的・外交的措置を継続しなければならない。国際社会は、現在ある国連制裁を全て実施することに加え、北朝鮮から、もしくは北朝鮮向けの物資の海上輸送を禁止する権利を含む、海上安全を強化する追加措置を講じなければならない」
はっきりと海上輸送禁止となっています。臨検ではなく禁止ですからね。
これについて、国務省のヘザー・ナウアート報道官は「新しい次元の海上輸送の遮断措置が取られると思う。具体的な内容を議論中だ」とこれもはっきりと"海上輸送の遮断措置"と述べています。相当本気とみていいかもしれません。
実際、韓国政府筋は、アメリカ海軍太平洋司令部は「海上遮断作戦」という名の作戦の準備を本格化させ、韓国側にもその内容を伝えてきた事を明らかにしています。
このティラーソン国務長官の声明について、外務省幹部は「ティラーソンが何を目指すのか分からない。日本にはできないこともある」と漏らしました。
というのも、海上封鎖を目的とした臨検は武力行使と見做される可能性があるからです。
対北朝鮮向けの海上封鎖を行う場合、当然日本にも協力を要請される事が予想されますけれども、果たして日本
は対応できるのか。
国連憲章は、加盟国の武力による威嚇又は武力の行使を禁止しており、憲章第7章「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」に基づき安全保障理事会がとる措置と「武力攻撃が発生した場合」の「個別的又は 集団的自衛の固有の権利」に基づく行為、所謂「自衛権の行使」を例外としています。
つまり、国連安保理の承認か、自衛権が行使できるときのみ、国家が武力行使できるという訳です。
その代表的なものを列挙します。
① 敵国領土の占領
② 敵国軍隊の破壊
③ 特定の条約の廃棄
④ 臨検・捜索、収用する相当な理由がある場合の公海における商船の拿捕
⑤ 海上における敵国・中立国の財産の収用
⑥ 占領地と自国における敵国財産の徴発、差押え及び特定の状況下での没収
⑦ 占領地におけるスパイ行為及び戦時反逆を当該活動に関与した個人を罰することで抑止すること
先に述べた国家が武力行使できる二つの条件のうち、国連安保理の承認については、中露が反対しており、当面はこちらの条件が整う見込みはありません。
9月に国連安保理が対北制裁決議を採択した際、アメリカは、貨物船臨検のため「あらゆる必要な措置」を認める草案を出したのですけれども、中露両国は「軍事手段の容認につながる」として反対しています
となると、あとはもう一つの条件である「自衛権の行使」が成立するのかどうかです。
平成16年4月23日の第159回国会衆議院武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会(第8号)で、これに関するやり取りが行われています。次に引用します。
○山本(喜)委員 では、本題に入ります。政府答弁では、海上輸送規制法案は、自衛権に基づいたものであり、対象海域に制限があり、相手国が武力行使するのに使われるものに限定されるがゆえに交戦権に基づいた臨検ではない。というロジックですね。
この海上輸送規制法案ですけれども、この法案は、武力攻撃事態に際して、日本の領海または周辺の公海において外国軍用品等の海上輸送を規制するための手続を定めた法案でありますが、この場合、海上自衛隊が停船検査をする、いわゆる臨検でありますけれども、これは、国際法上、交戦権の行使の一形態というふうに言われておりますけれども、この点についての政府の見解をお願いします。
○石破国務大臣 これは何度か御説明を申し上げましたが、では国際法的な根拠は何かといえば、国連憲章五十一条だと思っていただいて結構でございます。したがいまして、国連憲章の五十一条に認められております、これは先生御案内のとおり個別的、集団的自衛権を認めているわけでございますが、我が国としてはその個別的自衛権の行使として行っておるわけでございます。
したがいまして、交戦権とはその根拠を異にし、内容を異にしております。
○山本(喜)委員 自衛権ということで交戦権とは違うということでありますが、一九八〇年十月二十八日付政府答弁書、交戦権とはということで、この交戦権の定義で「中立国船舶の臨検、敵性船舶のだ捕等を行うことを含む」ということで、こういう行為は交戦権である、そういう見解ではなかったのでしょうか。
○石破国務大臣 これは、ですから臨検でもなければ拿捕でもないということを、この委員会で、私、るる御説明を申し上げました。
○山本(喜)委員 臨検でもない、拿捕でもないということですか。それはどういうふうに受けとめればいいのですか。
○石破国務大臣 たびたびお時間を煩わせて恐縮でございます。もう一度答弁することをお許しいただけるといたしますと、交戦権に基づきます臨検でございますれば、中立国の領海、領域を除くすべての海域でこれが可能でございます。ところが、本法案に基づきます停船検査でございますと、我が国領海または我が国周辺の公海において、第四条の規定に基づき告示をし定める実施区域内に限られている。まず、地域が違います。交戦権と、それから私どもが行おうとしております今回の措置というのは。停船検査は、まず、地域が違うということでございます。
次に、対象船舶でございますが、交戦権であれば、いわゆる敵国商船は直ちに拿捕できるということになっております。ところが、私どもの場合には、旗国のいかんを問わず、常に停船検査を実施、その上で、法の要件を満たす場合のみ回航措置をとるということになっております。
今度は、物品についてでございますが、交戦権に基づくといたしますと、相手国の軍事基盤の喪失を目的とするようなものまで対象とし得たわけでございますが、本法案につきましては、相手国による武力攻撃の遂行に直接資するものしか対象といたしておりません。
また、法的効果につきましては、交戦権に基づきます拿捕の場合には、拿捕した船舶は自国の権力下に置かれ、回航することになりますが、これは占有権の取得を伴うものでございます。しかしながら、今回の回航措置はそのようなものを伴っておりません。
お時間をとりまして恐縮でございます。
もしも、アメリカが海上封鎖を行い、その協力を日本に求めてくる場合は、この自衛権に基づいた停船検査と解釈できる範囲内での対応になるのではないかと思われます。
詳細はアメリカの出す追加制裁の内容を見なければなんともいえないところがありますけれども、日本はアメリカが期待する程の協力は出来ないかもしれませんね。
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