昨日の続きです。


2月21日、ドイツのメルケル首相はマケドニアのゾラン・ザエフ首相とベルリンで会談し、会談後の共同記者会見で中国を非難しました。
メルケル首相は「中国が貿易や投資をしたいと思うことに異存はない。わが国は自由貿易を堅持している……だが、自由貿易は互恵的でなければならない……問題は、経済的な関係が政治的な問題と結び付けられているかどうかだ」と指摘し、これら2つが結び付けられているならば、それは「自由貿易の精神ではない」と西バルカン諸国への投資を政治的要求と結び付けてはならないと警告しました。
これらを共同記者会見で述べたということは、少なくともドイツとマケドニアは、メルケル首相の指摘に同意したということです。
一帯一路とは、御存知のようにユーラシア大陸に陸路(一帯)と海路(一路)を開拓・拡充し、アジアとアフリカの一部を経由して中国とヨーロッパをつなぐ広域経済圏構想のことです。
この一帯一路をEU側からみると、「一帯」はポーランドを基軸に中・東欧諸国をカバーし、ドイツまで繋がりますし、「一路」はギリシャのピレウス港が南欧の拠点となります。
中国はこの「一帯」と「一路」に関わる東欧16ヶ国を一つのグループとする「16+1」を一帯一路戦略の一環とし、これら16ヶ国をターゲットにして、東欧進出を進めています。
※16+1の1は中国を指す。
当然ながらこの「16+1」の主導権は中国が握っています。
常設事務局は北京の中国外務省に置かれているのですけれども、この常設事務局は「16+1」のシステムや構造改善の提案を行い、また在中国の16カ国の大使館と会合を持っています。
また、毎年行われる「16+1」の首脳会議には李克強首相が出席し、必要に応じて閣僚級や実務者による政府レベルの会議、また商工会議所レベルの会合も行われています。官民一体となって進出している訳です。
インフラ投資も巨額で、例として次のようなプロジェクトを進めています。
・モンテネグロとアルバニア:両国をつなぐ高速道路を中国太平洋建設集団が建設30億ドル(2015年表明)このように中国は金にものを言わせて、相手国のインフラに手を着けている訳ですね。
・ボスニア:中国水力(国有の水力発電企業)と中国輸出入銀行が Banja Luka と Ministeをつなぐ高速道路を建設(2014年調印。14億ドル)
・チェコ:ダニューブ河・オーデル河・エルベ河をつなぐ Y 字型の水路建設(2016年。10億ドル)
・ハンガリー:ブダペストとベオグラードをつなぐ350キロの高速鉄道を建設(2013年。29億ドル)。
※但し、公開入札を定めたEU法に抵触しないかEUがハンガリーで調査に入った為、工事は開始されていない)
・セルビア:中国機械技術会社が350メガワットの発電所建設で合意(2014年。7億1500万ドル)
中国政府はこの「16+1」をヨーロッパの発展途上国との「南南協力」だと称しているのですけれども、欧州委員会や欧州議会などEUの一部には、中国がEUの政策に影響を及ぼすための手段、あるいはEUを「分断して支配する」ための深謀遠慮だEU分断策ではないかという警戒感が高まっているそうです。
2016年7月、中国が南シナ海にいわゆる「九段線」を引いて領有宣言をしたことに対し、フィリピンがハーグの仲裁裁判所に提訴したことがありましたけれども、仲裁裁判所は中国の主張を退けました。
この判決を受けて、欧州委員会は中国政府を名指しで批判する提案を行ったのですけれども、EU理事会でギリシャとハンガリーが反対し、結局、中国への名指しの批判は行われませんでした。
相手国のインフラを抑え、自国の拠点とするのは中国がよくやる手です。
事実、スリランカでは、中国の融資で建設が進められた南部のハンバントータ港について、約11億ドルで港湾の管理企業の株式のうち80%を99年間、中国企業に貸し出すことで大筋合意しています。
この辺りの事情については7年前のエントリー「ユーラシアを南北に縦断せよ」で取り上げたことがありますけれども、中国はインドを囲むように港湾整備を進め、いわゆる「真珠の首飾り」戦略を推進しています。
中国は一帯一路を通じて、インド洋周辺国や東欧に食指を伸ばしていますけれども、ようやくEUもその危険性に気づき始めたようです。
EUが中国の進出をコントロールできるのかどうか。注意しなければなりませんね。
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