着実に進む日本のレールガン研究

 
今日はこの話題です。

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この程、日本の防衛省陸上装備研究所が広報ビデオで、電磁加速システム、所謂レールガンの研究について報告しました。

レールガンというのは火薬ではなく、電力によって発生させた磁場の力で砲弾を発射する砲のことです。従来の砲が"火砲"とも呼ばれるのに対して、こちらが"電磁砲"と呼ばれる所以です。

レールガンの砲身は導電性を持つ素材で造られた2本のレールで、そのレールの間に「弾」を挟んで射出する仕組みです。

レールガンについては、丁度2年程前のエントリー「とある防衛省の超電磁砲」で取り上げたことがあるのですけれども、着々と研究が進んでいるようですね。

従来の火砲と比べて、レールガンの大きな特徴はなんといっても「高速・長射程」です。

同じくレールガンの研究を行っているアメリカ海軍によれば、既存の海軍艦船の主力である5インチ砲の射程距離は13海里(約24㎞)であるのに対し、レールガンの射程距離はその8倍以上の110海里(約204㎞)にもなるそうです。

従来の対艦ミサイルであるハープ―ンや、自衛隊の90式艦対艦誘導弾の射程が150kmそこそこであることを考えると、対艦ミサイルやそれ以上の性能があるということです。

また、レールガンに使用される弾薬は炸薬を必要としないので、小型化することも可能です。

下の写真は、去年行われた、「防衛装備庁技術シンポジウム2017」でパネル紹介された電磁加速システムの砲弾なのですけれども、口径は僅か16mm、あるいは36mmしかありません。

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5インチ砲の口径127mmと比べても全然小さいですね。

速度も桁外れです。2008年にアメリカ海軍が10.68MJのエネルギーを発生させてアルミ製の弾体を発射する試験に成功していますけれども、その時の弾の飛翔速度は秒速2500m(9000km/h)。従来のMk 12/5インチ砲のそれが秒速792mですから3倍以上の速度です。

そんなレールガンでも武装として実用化するにはいくつかの課題があります。

その大きなものは電力と耐久性です。

先に紹介した防衛省陸上装備研究所が広報ビデオでも、レールガンについて「2MA(メガアンペア)を超える大電流が流れれば、原理的には10キログラム以上の質量をもつ飛翔体を秒速2000メートル以上の初速で発射させることが可能だ」と解説していますけれども、発電所の発電機で、電圧2万ボルト、電流3万アンペアであることと比べても桁2つ違います。

当然それだけの電流供給する為には膨大な発電施設および蓄電設備が必要になります。

2008年のアメリカ海軍のレールガン実験では、発射に先立ち4分間のチャージ作業が必要だったそうです。一発撃つごとに4分もチャージが必要となると連射など不可能です。

また、射出レールの耐久性も問題です。レールは伝導率が高い銅に、熱や摩擦に強いタングステン、モリブデンの合金で作られているのですけれども、弾を撃つことで、このレールが摩耗するのですね。

先の16mmレールガン砲弾の写真の上に茶色の錆びたような金属レールがありますけれども、これが発射実験に使われたレールです。27発程度の射撃でここまでボロボロになるようです。

アメリカも日本もレールガン開発の最大の難関は、レールの摩擦、摩耗問題だそうですから、まだまだ課題があるといえます。

とはいえ、今回、防衛省が広報ビデオでレールガンを紹介したことで、中国が警戒を示しています。

中国共産党中央直属の中国外文出版発行事業局であるチャイナネットは「日本がレールガンを秘密裏に開発 実験室が初公開」と銘打って、防衛省のレールガンを取り上げています。

レールガン開発については、平成29年度予算案の防衛省の概算要求に出ていますし、開発進捗も去年の防衛装備庁技術シンポジウムで公開されています。別に秘密でもなんでもないのですね。

それを"秘密裏に開発"との見出しで記事にするということは、それだけ警戒しているということです。

2年程前のエントリー「とある防衛省の超電磁砲」で、筆者は、日本が本気になって開発を始めるとアナウンスすることは、他国に日本なら本当にやってしまうだろうと思わせる牽制効果があると述べましたけれども、そのような効果が発揮しているように思いますね。

現在のところ、レールガンには、まだまだ乗り越えるべき課題が沢山あります。なんとか実用に使えるところまで持っていって欲しいですね。

この記事へのコメント

  • opera

    >…日本が本気になって開発を始めるとアナウンスすることは、他国に日本なら本当にやってしまうだろうと思わせる牽制効果がある…

     単なるアナウンス効果ではなく、本気で開発し実用化して欲しいと、個人的には考えています。

     今後の(中国を元凶とする)東アジア情勢の緊張・混乱を考えると、本来なら日本は、軍事的に「いわゆる敵基地攻撃能力」はもちろん、原子力潜水艦と(報復型の戦術)核武装を真剣に考えなければならない段階になっていると思うのですが、国際的に与える影響や何より国内の情緒的反応を鑑みると、まともに議論すらできない状況なので、新兵器を開発して対抗する方がむしろ現実的ではないか、と夢想したりしていました。

     その一つに、小型原子力発電と組み合わせた地上配備型のレールガンで、これを尖閣諸島や小笠原諸島などの離島(無人島)に配備して、文字通り『ハリネズミ国家化』を目指すというのがあります。さらに、日本仕様に改造したイージスアショアを追加配備(さらに2ヶ所以上)し、衛星等と連動するシステムを構築できないか、と素人ながら思ったりしていました。

     これなら、仮に憲法改正が無くとも実現可能ですし、政治的なハードルはかなり低くなるような気がします。ただし、最低限、スパイ防止法の制定や緊縮財政路線の大幅な転換は必要になるでしょうが。

     こうした問題についての(とくに技術的な側面における)可能性・実効性を、日比野さんは、どうお考えでしょうか?
    2018年08月11日 13:36

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