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「妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え」連載中!
12月10日、フランスのマクロン大統領は、暴徒化している抗議デモがことを受け、国民に向けて妥協案を公表しました。
マクロン大統領はテレビ演説で、「社会的立場がきちんと認められてこなかった人」が大勢いると述べ、「卑怯なことに私たちは、そういう人たちがなおざりにされている状況に慣れてしまった。その人たちは忘れ去られてしまったと、そう思われても仕方がない状況だった……この状況を招いた責任の一端は私にある。私はもっとほかのことを大事にしている、優先していると、そう思われたかもしれない。私の発言で傷ついた人たちがいるのも承知している」と陳謝しました。
そして、マクロン大統領は、「移民の問題にも取り組まなければならない……気候変動や他の課題を考慮するための変化」を起こすため一致団結しようとも国民に呼びかけ、「最低賃金の引き上げ」、「残業代に対する税と社会保障費の免除」、「従業員への非課税賞与奨励」、「年金生活者のほとんどに対する増税の撤回」と新たに4つの公約を提示。雇用主に、年末賞与を非課税で提供するよう呼びかけました。
また、その一方で、富裕層への増税復活については否定し、「それは我々を弱体化させる。雇用創出が必要だ」と説明しています。
マクロン大統領は最低賃金引上げについては、1ヶ月あたり100ユーロ(約1万2900円)増額するとし、これにかかる費用は雇用者ではなく政府が負担するようです。
オリヴィエ・デュソプト会計副大臣によると、全対策にかかる費用は合計で80億ユーロ(約1兆280億円)から100億ユーロ(約1兆2850億円)の間になるとの見込みを示しています。
2019年度のフランスの国家歳出額3908億ユーロから比べれば、100億ユーロなど2.5%程度と、左程大きな額ではないように見えますけれども、EU加盟国にはは財政赤字をGDPの3%以内に抑えること、というルールがあります。
フランスのGDPと比較した財政赤字は19年度予算で2.8%と見積もられていますから、ここに2.5%が丸々乗っかることはないにしても、残り0.2%の内に対策費用を抑え込むのは結構大変かもしれません。
デュソプト会計副大臣は、今回の対策について「微調整している途中で、財源の調達方法を検討しているところだ」とコメントしていますから、何とかやりくりするのでしょうね。
マクロン大統領が、デモに屈するかのように次々と妥協案を出してきたのに対し、デモ団体や野党は気勢を上げています。
「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」抗議行動の中心人物の1人、バンジャマン・コシー氏は仏テレビ局フランス2に対し、「どれも中途半端な対策だ。マクロンにできることはもっと沢山ある」とマクロン大統領の演説をはねつけました。
また、野党・左翼党のジャン=リュック・メランション党首は、抗議行動の継続を期待すると述べ、右派・共和党のエリック・ヴェルト氏もマクロン氏の対案を「短期的」解決策と表現。極右政党・国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首も、マクロン氏は自分が重ねてきた失敗の一部に言及したに過ぎないと批判しています。
右からも左からも批判される状況下にあるマクロン大統領は、低迷する支持率と相俟って相当厳しい立場に追い込まれています。
勿論、国民からの反発も強い。次に示すのは、11月下旬からの「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」抗議行動の推移です。
11月17日:参加者28万2000人 死者1人、負傷者409人 73人が拘束10万人以上の参加者を集める大規模デモが毎週行われています。回を追うごとに拘束者が増えていますけれども、これは政府側が治安部隊の動員数を増やしていることと、デモ自体が過激化していることが理由だと思われます。
11月24日:参加者16万6000人 負傷者84人 307人が拘束
12月1日:参加者13万6000人 負傷者263人 630人が拘束
12月8日:参加者12万5000人 負傷者118人 1220人が拘束
更に、今回の「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」抗議デモは核になるリーダーや団体がおらず、SNSなどで相互にデモを呼びかけて参加者を募っているというのが特徴です。参加者はスマートフォンを通じて様々なデモの状況をチェック。警備を避けながらデモの場所を次々と変え、治安部隊といたちごっこを繰り返しているそうです。中々厄介ですね。
燃料税増税に端を発したといわれるフランスのデモですけれども、燃料税は切っ掛けに過ぎず、大きな目でみればやはり民衆の生活が苦しくなっているのが原因です。
EU統計局が出している加盟国別の運輸・倉庫就業者の時間当たりの労働費用を見ると、デンマークが40.4ユーロ、フランスは32.8ユーロあるのに対し、ルーマニアは6.1ユーロ、ブルガリアは4.6ユーロと、5倍から10倍もの格差があります。
これがEUという枠組みで単一市場として労働者が働けるとなると、当然、賃金の平準化が起こります。
フランス国立統計経済研究所によると、2008年から2016年にかけフランスの世帯当たり平均可処分所得は年440ユーロも下がったのだそうです。
EU単一市場という一種のグローバル化政策は、企業にとっては安い労働力を使うメリットを与えた反面、労働者には賃下げとなって跳ね返っているのですね。ある意味グローバル化の影の部分といえるのかもしれません。
このようなグローバル化によるデメリットは国際協定でもあります。例えば、地球温暖化対策です。
マクロン大統領は新たな地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」を受け、「脱炭素」経済への移行による雇用創出を宣言し、今年、燃料税を、ディーゼル車の燃料となる軽油は1リットル当たり7.6セント、ガソリン燃料を3.9セント引き上げました。
この1年で軽油は23%、ガソリン燃料は15%も値上がりしました。燃料価格の内訳をみると、原価30~35%、輸送費8%、燃料税や付加価値税が56~60%と既に半分以上が税金となっています。
そんな中、マクロン大統領は更に来年1月1日から軽油は6.5セント、ガソリン燃料は2.9セント、燃料税をさらに引き上げる方針を表明したのですね。
これが「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」抗議の切っ掛けとなり、その抗議活動によってマクロン大統領は来年の燃料税増税を延期表明せざる負えなくなりました。
フランス政府は2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を停止する方針を出していますけれども、フランス国民は、そんな先の話ではなくて、今日明日の生活に困窮しているのだと抗議の声を上げているのですね。
そんな人に「軽油やガソリンを買うお金がなければ電気自動車を買えばいい」といって通じる筈がありません。パンがなければ、お菓子だってないのです。
筆者は、今、マクロン政権が陥っている窮地は、大きな目でみれば、EU市場というグローバル化によるデメリットが遠因となっているのではないかと見ています。
仮にそうであれば、マクロン大統領は外国起因の要因を自国内の政策でなんとかしようとしているということになります。もしフランスが経済的にEU全部を面倒見れるくらいの超々経済大国であれば別でしょうけれども、今のフランスにそこまでの力はありません。下手をすると、EUの他の国に足を引っ張られて沈んでしまう危険だってないとはいえない。
では、どうやれば、マクロン大統領は今の窮地を脱することができるのか。
一つには、思い切って今の逆をやる、つまりグローバリズムを止めてしまうことも可能性としては有り得ると思います。平たくいえば、「フランス・ファースト」。トランプ大統領ばりの政策をやるということです。
実際、12月8日、そのトランプ大統領が「デモや暴動が仏全土で起きている。国民は環境保護のために多額の金を支払いたくないのだろう……パリ協定をやめよ」とツイッターで"アドバイス"しています。
これに対しフランスのルドリアン外相はフランスの民放テレビで、「トランプ大統領に言いたい。われわれは米国内の議論に口出ししない。だから、わが国のことも放っておいてほしい」と反発していますけれども、マクロン政権は、相当難しい舵取りが求められる立場に立たされていることだけは確かだと思いますね。
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