マティス辞任と文在寅の後
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12月20日、アメリカのトランプ大統領は、ジェームズ・マティス国防長官が2019年2月末に退任すると発表しました。
この発表に対し、マティス国防長官は文書で返答。自分は退任するのではなく辞任するのだと強く主張した上で「あなたは同盟国との関係の問題などについて、より自分の考えに沿った見解を持つ新たな国防長官を指名する権利があるので、自分はこのポストから降りるべきだと考える」と、辞意を伝えました。
アメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグデン常任研究員は「マティスは就任1年目、議論の余地なく最も影響力のある閣僚だった。自他ともに、それは分かっていたはずだ」とコメントしていますけれども、マティス国防長官は、これまでトランプ大統領に最も影響力を持つ閣僚でした。
就任当初の数ヶ月はマティス国防長官にとって成功の連続でした。国防総省の予算を大幅に増額させ、アフガンの駐留米軍の撤退を望んでいたトランプ大統領を説得し、増派を承認させました。また、北朝鮮が日本列島越しに弾道ミサイルを飛ばした時「北朝鮮との交渉は無駄だ」と言ったトランプ大統領を押しとどめ、北朝鮮に先制攻撃する、というトランプ大統領の衝動に抵抗したのもマティス国防長官だったと言われています。
バーバラ・リーフ元駐UAEアメリカ大使によれば、1997年6月にサウジアラビアなど湾岸・アラブ4ヶ国がカタールと断交した時も、マティス国防長官が事態を収拾したのだそうです。
ところが今年に入って、マティス国防長官と同じ、国際協調派だったマクマスター前大統領補佐官とティラーソン前国務長官が相次いで辞任。マティス国防長官はトランプ大統領への影響力を段々と失っていきます。
トランプ大統領はかねてから、アメリカ軍をシリアから早期撤退させる意向を表明していて、8月にはシリアの安定化を目的とするプロジェクトへの資金拠出を取りやめると発表しました。
一方、マティス国防長官はテロ組織ISISを掃討した後も、アメリカがシリアへの関与を継続することの重要性を強調してきました。
トランプ大統領は最初、国家安全保障問題を理解できずマティスに頼りきっていたそうです。そのトランプ大統領を止められる唯一人の人物とも目されていたマティス国防長官が辞任する。これは、即ち、これまで以上にトランプ大統領の意向がストレートにアメリカの政策に反映されるということです。
それは、マティス国防長官自身がトランプ大統領に「あなたは、より自分の考えに沿った見解を持つ新たな国防長官を指名する権利がある」と返信したことからも窺えます。
つまり、マティス国防長官が辞任することで、これまで彼が繋ぎとめていた、アメリカと同盟国の関係が見直されるかもしれない、ということです。
もちろん、アジアとて例外ではありません。
この事態に一番焦っているのは、これまで米韓同盟を支持してきた韓国の保守派でしょうね。
韓国・中央日報は社説「韓国政府の『非核化』仲介外交、マティス氏辞任後はどうなるのか」の中で「米韓同盟が心配だ……韓国政府はこのままで本当に大丈夫なのか」と警鐘を鳴らしています。
マティス国防長官は今年の初め頃、「在韓米軍に35億ドルも使う理由があるのか」と撤収を主張するトランプ大統領に「米軍の駐留は第3次大戦を防ぐため」だと反対し、押しとどめていました。その彼がいなくなれば、トランプ大統領は在韓米軍の相応の負担を韓国に求めることは間違いないでしょうし、下手をすれば、在韓米軍撤退も在り得ます。
事実、11月26日、ハリス駐韓アメリカ大使は「我々の同盟は確固として維持されているが、我々はこれを当然視してはいけない」と警告しています。その裏には在韓米軍のシナリオがあるのだと思われます。
これについて、日経論説委員の鈴置高志氏は、韓国の左派が米韓同盟の破棄を画策し、アメリカから縁切りさせるために、危うい状況を演出しているのだ、という見方を紹介しています。
鈴置氏によると、こうした"左派の演出"はアメリカも気付いていて、トランプ大統領だけでなく、アメリカ政府やアメリカ軍の高官達も、北朝鮮の非核化と同盟廃棄の取引を進めるハラを固めた可能性がある、と指摘しています。
これが本当であれば、これから増々米韓の亀裂が深刻化していくことになります。またこれは同時に、韓国国内の左派と保守派の対立が劇化することも意味しています。
仮に、米韓同盟が破棄される前に、文在寅大統領が弾劾され辞任に追い込まれることになったとしても、その後の大統領が北朝鮮とアメリカと、どちらの方向を向くのかは非常に大きなポイントになります。
半島を巡る各国の目線は、すでに文在寅後に向かっているような気がしますね。
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