安倍総理に縋るマクロン大統領
今日はこの話題です。
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「妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え」連載中!
11月30日、安倍総理とフランスのマクロン大統領はG20首脳会議の会場で急遽会談を行いました。
マクロン大統領は日産自動車とルノー、そして三菱自動車を加えた3社の提携の維持を求めたのですけれども、安倍総理は「民間の当事者で決めていくものだ……今後の3社連合のあり方は政府が関与するものではなく、当事者が納得いく形で、議論が建設的に進むことを期待している」と一蹴しました。
フランスは行政とビジネスの距離が近く、フランス政府はルノーを通じて間接的に日産支配を強めようとしてきた経緯があります。
2014年、フランス政府は国内産業や雇用保護を目的に「フロランジュ法」を定めました。この法律は全上場企業について、株主投票により適用除外(オプトアウト)を選択しない限り、株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与えるものです。
ルノーには、創業者のルイ・ルノーが第二次世界大戦のときにナチスに協力したために処刑され、会社も国有化されてルノー公団となった過去があります。そうした経緯もあり、フランス政府はルノー株を15%保有しています。
つまり、ルノーが自社に対してこの「フロランジュ法」を適用除外をしない限り、フランス政府がルノーに対する議決権を従来の倍に出来るということです。より影響力を持てるわけですね。
マクロン大統領は大統領に就任する前の2014年8月から2016年8月まで経済・産業・デジタル大臣を務めていたのですけれども、2014年の年末から数ヶ月にわたり、マクロン氏はゴーン氏とルノー取締役会に対し、2015年4月30日の株主総会で「フロランジュ法」に対する適用除外を提案しないよう説得を続けました。
もしも提案されてしまったら、フランス政府の持ち株比率15%では、株主投票で負ける公算が大きかった為です。
けれども、ルノーはこのマクロン大臣の説得を拒否しました。
そこで切羽詰まったマクロン氏は奇襲に打って出ます。フランス政府はルノー株を4.73%買い増しして、株主総会での「フロランジュ法」適用除外を否決に追い込んだのですね。フランス政府はその後、買い増し分のルノー株を売って持ち株比率を15%に戻しました。正に「フロランジュ法」適用除外の為だけの買い増しだった訳です。
これによりフランス政府は事実上、ルノーの「可決阻止少数」株主となりました。そのルノーは日産株の43.4%を保有し、株主総会を支配しています。つまり日産はルノーを介してフランス政府の支配を受けてしまう立場にあるのですね。
日産は殺気立ちました。日産はルノー株を15%保有しているのですけれども、「取締役会の構成や資本関係などに関する協定(RAMA)」により、ルノーに対する議決権を持っていません。
当然ながら、日産は「取締役会の構成や資本関係などに関する協定(RAMA)」からの離脱をちらつかせました。離脱すれば自身より小規模な親会社ルノーの株式を自由に買うことができるようになり、ルノー支配を覆せるからです。
当時日産ナンバー2だった、西川廣人現社長は、ルノーに対し、日産の支配株を売却し、日産が保有するルノー株15%の議決権を元に戻すよう求めました。けれども、マクロン氏のスタッフは当初、ゴーン氏が振り付けたものだと考えて無視しました。フランス政府の株式保有を管轄していた機関の高官は当時「ゴーン氏が日産と日本側の考えを語るとき、彼は自分の考えを語っているのだ。私からすれば全部戯言だ」と話していたくらいです。
このように日産がルノーとの関係を解消しようと緊張が高まっていた2015年末、フランス政府はルノーに対する議決権を大半の非戦略的決定に関して17.9%までとすることで合意しました。この合意の裏には、日産がルノーの議決権を持たない状態を維持する代わりにルノーが日産の株主総会で取締役会に反対しないというものでした。
今、結ばれている「取締役会の構成や資本関係などに関する協定(RAMA)」の規定に沿えば、日産の取締役会では日産出身者が多数派を維持できますし、またルノーが日産への出資比率を引き上げるためには日産の合意が必要とも定められています。
けれども、それがこれまであまり話題にならなかったのは、ゴーン氏が取締役の報酬や人事権を掌握し、逆らえば即、首を切れるくらいにまで権力を集中させ、この協定を形骸化させていたからだとも見られているようです。
今や、そのゴーン氏が逮捕され、日産はようやくその箍を外すことになった訳です。
協定上は今以上にルノーが日産への支配力を高めるのは困難になりました。
そして、ゴーン氏の逮捕を機に、日産は再びルノーとの関係を見直そうとしています。
元フランス政府高官の投資銀行バンカーは「専門用語も言い回しも語彙も、2015年と殆ど同じだ。日本の立場を代表しているというゴーン氏の話をわれわれは信じていなかったが、本当に彼の作り話ではなかったことが分かった」とこぼしているそうですけれども、もはや後の祭りです。
ニューヨークの資産運用会社アライアンスバーンスタインのアナリスト、マックス・ウォーバートン氏は、この問題に「マクロン大統領自身がどっぷりと関わっている」とし、2015年の決断が「最終的にフランス政府の支配下に組み込まれてしまう」という日産側の危機感に火を付けたことを、マクロン大統領は認識すべきだと指摘しています。
果たしてマクロン大統領が、こうした指摘をどこまで認識しているかは分かりませんけれども、慌てて安倍総理とのG20での面会を捻じ込んできた辺り、焦っていることだけは確かです。
ロイターは「元凶はマクロン大統領の介入主義」、「身から出たさび」など、冷たく突き放していますけれども、マクロン大統領は、国内の雇用創出のためルノーに対して日産との合併を働きかけるなど、露骨に経営に介入してきました。
このまま日産がルノーとの関係を見直し、日産への影響力が低下すれば、フランスの経済や雇用に悪影響が及ぶことは避けられないでしょうね。
それを考えると、このまま素直に引き下がるとも思えません。
今後しばらくは、日仏間でのルノー日産を巡っての駆け引きが繰り広げられる可能性も視野にいれておいた方がいいかもしれませんね。
この記事へのコメント
opera
リーマンショック以降、ルノーは利益も技術も日産におんぶにだっこ状態。にもかかわらず、フランス政府(マクロン)は、ルノーを通じて日産への支配力を強化するとともに、世界最高水準にある電気自動車の生産技術を中国に投資させようとしていました。
中国と事実上の冷戦を戦っているアメリカから見れば、「ふざけるな」という話でしょうし、ブレグジッドを控え、日産の欧州での生産・経営拠点があるイギリスも、日産へのフランスの影響力強化は不愉快な話でしょう。日本の経産省を含め、裏で何もなかった、はずは無いでしょうね。
「お茶屋の犬」と揶揄され、名立たるグローバリストのマクロン氏ですが、下手を打った結果、日産のルノーとの関係解消への動きが確定し、国内政治も大ピンチを迎えているようです。