マクロン大統領の苦難

 
昨日の続きです。

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1.日産を支配したいマクロン大統領

12月4日、フランスのフィリップ首相はテレビを通じて来年1月1日に予定していた燃料税引き上げを6ヶ月延期すると発表しました。また、電気・ガス料金の値上げも「冬の間は凍結する」と表明しています。

これは、フランスで燃料税の引き上げに抗議するデモが相次ぎ、12月1日にはパリで一部が暴徒化して治安部隊と衝突し、130人以上が怪我をするなどの事態になったことを受けてのものです。

マクロン政権は、フィリップ首相が与野党の党首らと相次いで会談するなど、打開策を模索してきたのですけれども、燃料税増税延期にまで追いつめられた形です。

フランスではディーゼル車の方がガソリン車より多いのですけれども、ディーゼル車を動かす軽油の価格は1リットル1.46ユーロ187.65円:12/4現在)と世界的にもかなり高くなっています。しかもその60%以上が税金だそうですからかなりのものです。

ヨーロッパでは、燃費がいいとか、加速性能がすぐれているなどといった利点からディーゼル車が好まれていたのですけれども、それに加えて、ディーゼルは、排出ガス汚染が少なくクリーンなエンジンだとされてきました。

ドイツでは、政府と自動車業界が一体となって、燃費が良くて環境に優しい『クリーンディーゼル』として普及を進めてきましたし、フランスでもディーゼルエンジン車の普及を後押ししていました。

ところが、2015年その前提を崩す大事件が発生しました。フォルクスワーゲンのクリーンディーゼル不正問題です。

これについては当時「フォルクスワーゲンのクリーンディーゼル不正問題について」のエントリーで詳しく取り上げたことがありますけれども、要するに、フォルクスワーゲンが不正プログラムを使ってディーゼル車の排出ガス検査をごまかしていた訳です。

しかも拙いことに、このフォルクスワーゲンの不正発覚以降、各国の自動車メーカーでもディーゼル車の排ガスをめぐる不正が相次ぎました。その影響でヨーロッパで、ディーゼル車の販売が低迷。自動車販売全体に占めるディーゼル車の割合は、不正が発覚した2015年に比べて、2017年はフランスでは20%、ドイツで9%、イギリスで6%減少しています。

けれども、フランスでは自動車産業は国の基幹産業となっているため、フランス政府は自動車産業を守ることが喫緊の課題となったのですね。

そこでフランス政府はディーゼルエンジンからの脱却を図るべく、ハイブリッド車をもスキップして、一足跳びに電気自動車への転換を進める政策に舵を切ることを決定しました。

現在欧州では着々と電気自動車へのシフトが進んでいて、2017年には23.5万台の電気自動車が販売されてます。特にノルウェーは販売台数がヨーロッパで最も多く 6.2万台で、以下、ドイツ、イギリス、フランスと続いています。

マクロン大統領は2040年にはディーゼル車もガソリン車もフランスで販売されることはなくなると明言しました。

そこで俄然クローズアップされてきたのが日産自動車です。新型「日産リーフ」は、2017年10月に欧州で発売して以降、2018年6月末までに累計37000台を販売。2018年暦年上半期には欧州での電気自動車の販売台数第一位を獲得しています。

フランス政府にしてみれば、日産が持っている電気自動車の技術は喉から手が出る程欲しい。マクロン大統領がルノーの経営に介入して、日産への支配を強めようとしたのも、その辺りに狙いがあるのではないかとも囁かれていますけれども、11月20日、イギリスのフィナンシャル・タイムズはゴーン氏がルノーと日産の経営統合を計画していたと報じられていたこととも考えあわせると、確かにその可能性は十分に考えられます。

マクロン大統領にしてみれば、今、日産がルノーから逃げ出されてるのは何が何でも避けたい筈ですね。

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2.イエローベスト運動の背景

これまでマクロン大統領の政策は、企業経営者からは高く評価されてきました。その理由はビジネス界を優遇するものであったからです。

現在マクロン大統領が進めているフランス国内の経済改革は大きく労働市場改革と税制改革がその中核を成しています。次に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査レポートから「マクロン大統領の経済改革の概要と進捗」の図表を引用します。
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これを見ると分かるとおり、解雇規制緩和や法人税減税する一方、一般社会税を増税するなど、企業側を優遇する政策が目立ちます。

フランスではもともと公的機関が経済にかかわる傾向が強く、GDPの50パーセント以上を公共セクターが占めるのですけれども、中道を自認するマクロン大統領はビジネスを活発化させることでフランス経済の活性化を目指しました。その結果、海外直接投資を含む投資が活発化してリーマンショック後の最高水準に迫り、失業率も低下。一定の成果を収めていると言っていいでしょう。

事実、今年7月の段階の調査で、企業経営者の54パーセントがマクロン大統領の活動に「満足している」と回答し、65パーセントが「改革が進んでいる」と回答しています。

けれども、経済が成長した一方で物価も高騰し、給与の上昇は相殺。また、若年層の失業率は左程下がらず、外資流入で大都市と地方の格差も鮮明となりました。

更に、実業家出身のマクロン大統領の言動にも問題なしとはいえません。

或る時、マクロン大統領は「駅は面白いところだ」といい、その理由として「成功した者と何でもない者に会えるから」と口にしたそうです。

人権に煩い筈のフランスで、こういう台詞を口にしたら、相当反感を受けると思われます。

それだけではありません。マクロン大統領は、就職活動に苦労している若者に対し「どこでも働き口はあるはずだ……私なら、あの通りを渡るだけで、きっと君に仕事を見つけてやれる」とも言い放ったそうです。

こうしたマクロン大統領の態度もフランスの一般民衆の不満の温床となっていったことは想像に難くありません。

そうした中、最後のトドメとなったのが、燃料税増税です。

マクロン大統領への不満を爆発させた民衆は11月半ばから毎週末大規模デモを行いました。

デモ参加者には2017年選挙でマクロン氏に対抗した右派の支持者が目立つ一方、左派系の労働組合関係者も少なくなく、極右政党から極左政党に至るまで幅広い野党もこのデモを公式に支持しています。つまり、今回の大規模デモは、特定の党派や集団によらず、様々な立場の参加者が、生活への不満と反マクロンで一致して集まっているのですね。

デモ参加者の多くは工事現場などで用いられる黄色の安全ベストを着用することで、「働く普通のフランス人の意志」を表現。そのため、このデモはイエローベストと呼ばれているそうです。

これは、ビジネス界の支持を受け、エリート然とした権力者たるマクロン大統領に立ち向かう一般民衆、という風に見えなくもありません。この構図はそのままブルジョワジーに支えられたフランス国王を引き摺り降ろしたフランス革命を彷彿とさせます。

度重なる大規模デモに耐えかねたマクロン政権は、とうとう燃料税の延期を発表しました。

けれども、縷々述べたデモの背景を見るにつけ、それだけで収まるとも思えません。

実際、デモ運動の広報担当者はテレビ局フランス・アンフォの取材に「具体的方策ではない。8日も抗議行動を行う」と主張。デモ参加者の女性も「われわれは全面的な変化を望んでいる。不十分で、何の助けにもならない」と、今後も抗議行動を継続する意思を示しています。

日産ルノー問題に、イエローベスト運動。

マクロン大統領の苦難はしばらく続きそうです。

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