日本が国際捕鯨委員会を脱退した意味

 
昨日の続きです。

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2月19日、安倍総理は特使としてフランスに派遣した萩生田光一幹事長代行からユネスコのアズレ事務局長との会談の結果について報告を受けました。

安倍総理は、アズレ氏も改革に前向きな姿勢を見せたことを受け、「良かった。クジラが効いた」と応じたと伝えられています。

クジラというのは、いうまでもなく、昨年末、国際捕鯨委員会(IWC)を脱退したことです。

日本が国際機関を脱退するという実力行使を示したことで、ユネスコも要求を無視すれば日本もユネスコを脱退するかもしれないと危機感を持ったものと思われます。

日本のユネスコ分担金は2017年で34億8700万円。率にして9.68%で2位です。トップは分担金比率で22%を占めていたアメリカだったのですけれども、昨年末分担金比率でトップの22%だったアメリカは2017年10月に「反イスラエル的な姿勢が続いている」として脱退を表明。昨年末に正式に脱退しました。

そんな中、アメリカにつづいて日本にまでユネスコを抜けられてしまうと、分担金の3割が消えてなくなることになります。そうなればユネスコとて流石に看過できないでしょうね。

その意味では、日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退したという事実は大きなプレッシャーになっていたことは間違いありません。

さて、その国際捕鯨委員会(IWC)ですけれども、これは国際捕鯨取締条約を元に設立されました。

当時、まだ世界各国で捕鯨が行われていた1946年に成立した国際捕鯨取締条約は、その名のとおり、クジラの乱獲を防止し、その資源の保存のために国際的な捕鯨の規則を確立する目的で制定された条約です。もう70年以上の前の話です。

日本が国際捕鯨委員会(IWC)に加入したのは1951年のことですけれども、それから1970年代半ばまでは、加盟国はおよそ十数ヶ国しかありませんでした。

主要加盟国は、ノルウェー、イギリス、日本、ソ連、オランダなど南極海捕鯨操業国にデンマーク、オーストラリア、アメリカ、カナダなど沿岸捕鯨操業国と、捕鯨国ばかりでした。まぁ、クジラの乱獲防止のために設立した条約とそれに伴う組織ですから当然といえば当然です。

ところがその後、反捕鯨国の加盟や、2000年代に日本と反捕鯨国との間で自陣営拡大のための新規加入の勧奨が行われた結果、現在の加盟国は89ヶ国にまでなっています。

現在の双方の勢力は、捕鯨支持35、中間派3、反捕鯨50、不明1と反捕鯨国が優勢となっています。

今や国際捕鯨委員会の総会は捕鯨支持国、反捕鯨国とで互いに罵詈雑言が飛び交う酷い会議なのだそうです。

捕鯨問題を扱った映画「おクジラさま」の監督で、ニューヨークを拠点に捕鯨論争の最前線である国際捕鯨委員会(IWC)を取材してきた佐々木芽生氏は、国際捕鯨委員会(IWC)について次のように述べています
私が初めてIWC総会を取材したのは、2002年の下関です。日本のテレビ番組用の取材でしたが、「こんなにひどい国際会議があるのか」と当時びっくりしました。と言うのも、捕鯨賛成派と反対派に分かれてお互い罵り合い、総会の途中でアイスランドの代表が怒って退席したとか、それは見ていて面白いですよ(笑)。でも「こんなのでいいんですか」というくらい驚いたのが最初です。

【中略】

鯨を捕りたい国と保護したい国が、まったく正反対のゴールをもって集まるわけなので、合意になんか到達できるわけがないです。かつて国連で小型武器拡散防止の国際会議を取材した際は、参加国全員が合意に達するように、合意文の細かい言い回しを徹夜で詰めてました。IWCの人たちはそういったことが一切ありません。ただわーと来て、お互いに言いたいことを言って、さようならと。それが繰り返されているんです。総会に反捕鯨国から来る代表は、環境関係の政府機関や団体です。一方日本やノルウェーは、水産関係の代表者が来るわけです。話がかみ合うわけないです。茶番ですよ、本当に。
佐々木氏は、国際捕鯨委員会(IWC)は既に設立当初の目的を見失っており、総会など茶番に過ぎないと断じています。

70年の時は、ここまでダメにしてしまったのですね。

1982年、国際捕鯨委員会(IWC)は資源の枯渇を理由として、商業捕鯨の「一時停止」を決定。日本は1988年に商業捕鯨を中断しましたけれども、それに代わって、前年の1987年から、商業捕鯨再開に向けた科学データの収集を目的とする調査捕鯨を開始。現在は、南極海と北西太平洋で、ミンククジラなど年間に約630頭を捕獲しています。

日本は、商業捕鯨の中断から約30年にわたり、商業捕鯨再開を主張し続けてきました。けれども、国際捕鯨委員会(IWC)は、科学的データを根拠として商業捕鯨の再開を目指す捕鯨支持国と、動物愛護を主張する反捕鯨国の勢力が拮抗して膠着。日本の提案は常に否決され続けてきました。

このような状態であったにも関わらず、日本がずっと国際捕鯨委員会(IWC)を脱退できなかった理由は、反捕鯨国との対立だけでなく、水産庁と外務省との確執があったと言われています。

水産庁にとって、商業捕鯨再開は長年、達成しなければならない大目標である一方、外務省にとっては、反捕鯨が大部分を占める欧米諸国を刺激したくないという本音がありました。

商業捕鯨再開を許したくない外務省の思惑は、以前から捕鯨関係者の強い反感を買っていました。

捕鯨をおこなっている自治体の幹部は「外務省はこの30年間、欧米諸国を刺激したくないという考えだけで動いていた。調査捕鯨の期限が切れるのを狙って、『調査理由がないから、もう捕鯨からは足を洗いましょう』という形でうやむやにしたがっていた」と証言。

農林水産相経験者も、「外務省は常に『来るぞ来るぞ』詐欺。国益が何かを考えるのでなくて、『国際社会から批判されますよ!』と言ってビビらせるのがお家芸です。外国のエリートを説得して目標を達成するより、国内で何もさせない方が簡単だし、リスクも少ないから。クジラの件にしても何にしても、同じですよ。いまだに対中国外交が自民党の二階俊博幹事長頼みなのが、交渉力のない証拠でしょう」と述べています。

昨年10月、自民党本部で開かれた捕鯨議連の会合では、浜田靖一元防衛相が「わが国の立場を鮮明にして、脱退も含めて考えるべきだ……IWC閉幕から何の方向性も示せていない現状には不満がある」として、外務省に脱退までの工程表の提出を求めました。

これに対し、出席した外務省幹部が「検討を深めている」と躱そうとすると、二階幹事長が、「この場を逃れるために、いい加減なことを言っているとしか思えない。党をなめとる。緊張感を持って出てこい」と叱責しました。

震えあがった幹部は、会合の直後に片道6時間かけて和歌山県の太地町を訪問。イルカの追い込み漁、捕鯨について三軒一高町長らと意見交換しています。

外務省関係者によると、「二階氏から、現場を見てこいという圧力があった。マスコミにオープンの会合でやり玉に挙げたのは、これまでの外務省の姿勢に不信感があったからなのは明らか。二階氏から睨まれれば出世はなくなりますから、省益との板挟みに遭う幹部は、さぞ胃が痛くなったことでしょう」と述べています。

結局、外務省はアフリカや北欧などを中心とする捕鯨支持国の大使に対し、脱退に向けた背景説明を始めたが、国際捕鯨委員会(IWC)脱退の期限となる年末ギリギリまで「脱退決定の通知を来年までなんとか伸ばせないか」と最後の抵抗を続けました。

けれども、最後には安倍政権の政治決断に押し切られたということです。

省益がぶつかって膠着しているのを打開するのは政治家の仕事であり、決断であるという事例であると思いますね。

12月26日、菅官房長官は談話を発表し「鯨類の中には十分な資源量が確認されているものがあるにもかかわらず、保護のみを重視し、持続的利用の必要性を認めようとしない国々からの歩み寄りは見られない」と国際捕鯨委員会(IWC)脱退の理由を述べていますけれども、実際のところはどうなのか。

これについて、NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパン代表理事の西川伸一氏は、国際科学雑誌「Nature」の「Save the whales, again(クジラ保護・再出発)」と「Science」の「Japan's exit from whaling group may benefit whales (日本の捕鯨グループからの脱退はクジラにとっては良いことだ)」の2つの記事を取り上げています。

西川氏はそれらの記事で、日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退を評価するポイントとして次の点を挙げています。
1)IWCが設立されてからクジラの数が急速に回復しており、現状でクジラの生態保護は達成できている。
2)これまで日本の捕鯨の半分以上は南氷洋での調査捕鯨による捕獲で、南氷洋での捕鯨が中止されると、近海捕鯨でこの量を上回る可能性はほとんどない(ただ、日本や韓国近海で夏に出産するJ-Stockと呼ばれる集団については注視が必要)。
3)我が国の脱退によって、IWCが文化や倫理についての終わりのない議論をやめ、例えばクジラと船の衝突などの新しい科学問題に集中できる(年間なんと30万頭の、クジラ、イルカ、シャチが船や漁網など人工物により死亡しているらしい)。この結果、新しいクジラの生態保護に向けた取り組みに着手できる。
4)我が国政府はこれまで以上に捕獲数を増やさないと約束している(実際は減ると予想される)。
このように、「Nature」も「Science」もクジラの生態保護は達成していると評価しているのですね。

クジラが十分に増えると、当然生態系にも影響が及びます。

オーストラリアではクジラが増え過ぎた影響で、そのクジラを狙ってホオジロザメが沿岸部にまで集まってくるようになり、その挙句、サーファーが襲撃され、死亡事故が頻発しているそうです。

2017年7月、オーストラリアのフライデンバーグ環境大臣が西オーストラリア州の海岸でサーフィン中にサメの犠牲になった17歳少女の遺族と面会し、その後、政府系研究所の科学産業研究機構に、サメ襲撃事件の増加とクジラの生息数の増加に因果関係があるのかどうかを至急調査するよう指示を出しています。

これも、反捕鯨の急先鋒であるオーストラリアがクジラを保護しすぎた因果を受けていると見ることも出来るかと思います。

今後、国際捕鯨委員会(IWC)は「Nature」や「Science」が指摘するように文化や倫理についての終わりのない議論をやめ、新しいクジラの生態保護に向けた取り組みに着手していただきたいものですね。

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