ベネズエラの二人の大統領
昨日の続きです。
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マドゥロ氏は2012年にチャベス大統領から副大統領に任命されていたのですけれども、2013年、チャベス大統領が声明で、自分の容態が悪化して代わりとなる大統領を選ぶ選挙が行われる場合は「ベネズエラ人はマドゥロに投票すべきだ」とマドゥロ氏を後継者に指名しました。
マドゥロ氏はチャベス大統領の死去後、暫定政権の樹立を宣言。その後、大統領選挙に勝利します。
けれども、マドゥロ氏は、元々バスの運転手をしていた人物で、政策立案能力・行政手腕では無能と見られているものの、チャベスの模倣者とされています。
チャベス前大統領も生前、「私が明らかに確信している、絶対的かつ不可逆的な事はマドゥロが次の大統領に選ばれるだろうという事だ…もし私が職務を遂行できなくなったとしても、彼なら継続できる」と述べていたところを見ると、チャベス前大統領も自身のボリバル革命を遂行してくれる人物としてマドゥロ氏を後継者に使命したのですね。
事実、マドゥロ大統領はチャベス政権から政策路線を変えていないどころか、チャベス政権の経済政策を死守し、強化しています。
けれども、残念ながら、マドゥロ大統領にはチャベス前大統領のようなカリスマやリーダーシップはなく、経済社会政策の行き詰まりと共に支持者も急減。2015年12月の議会選挙では野党連合の前に全議席の3分の2以上を失うという大敗を喫しています。
チャベス派の政治リーダーや市民の間でもマドゥロ大統領への支持は低く、彼の稚拙な政策運営が危機的状況に陥れているとして、「チャベス派だがマドゥロ支持ではない」という強い不満をもつチャベス派支持者も少なくないそうです。
反政府派は、市民に対して街頭での反政府デモへの参加を呼びかけ、その結果、連日全国各地で大規模な反政府抗議集会が続けられ、米州機構、国連、欧米各国政府・議会など国際社会に対しても、民主主義が抑圧されている現状を訴えて、支持を求めています。
マドゥロ大統領は、国民の不満を抑えるために、反政府派メディアや政治リーダー、市民への抑圧を強化しています。
「コレクティーボ」と呼ばれる、インフォーマルに政権に取り込まれているギャング集団があちこちのスラム街や貧困地域に存在しているのですけれども、彼らは、チャベス政権の集会があったときの動員や、選挙のときに反対派を抑圧しています。
コレクティーボは政府から資金や武器を得ており、政府が直接的には手を下しにくい威嚇行為などを行い、その見返りとして麻薬売買や殺人事件などの違法行為を見過ごしてもらっているとも言われていて、非武装の反政府派の人達による平和的の集会やデモ行進に対して、政府系ギャングが発砲。多くの人を命を落とす事件も起こっています。
これに対し、2015年の議員選挙で大勝利を納めた野党は、大統領罷免の国民投票の実施を求める署名集めや地方選挙の実施など、マドゥロ政権が今まで反故にしてきた民主主義の制度をきちんと実施するよう要求。また、政治犯として獄中にある重要な反政府派政治リーダーや反政府デモに参加した学生や一般市民の釈放を求めています。
また、野党・反政府派は、議会を完全に支配し、新しい法律を制定しようとしているのですけれども、マドゥロ大統領は抵抗。議会が作った法律をチャベス派が支配をしている最高裁に送り、違憲判決を出させることでそれらを悉く潰しています。
このマドゥロ大統領の弾圧と強権は、選挙にも及びます。
選挙管理委員会のメンバーは5人のうち4人がチャベス派で、歴代の選挙管理委員長はのちに副大統領に任命するなど、完全に政権側に取り込んでいます。
反政府派はマドゥロ大統領に対する不信任投票の実施を選挙管理委員会に強く求めていたのですけれども、政府寄りの選挙管理員会は様々な理由をつけてそれを遅延。2016年秋にようやくそのプロセス開始を認めたものの、直前になって選挙管理委員会がそのプロセスを中止しています。
2018年5月に行われた大統領選挙は、与党・統一社会党党首のマドゥロ氏と、対米改善を訴える野党・先進革新主義党党首のヘンリ・ファルコン前ララ州知事が対決し、マドゥロ氏が勝利を納めました。
けれども、選挙に際し、選管を掌握した政権側は有力候補を投獄して、野党を極めて不利な状況に追い込んだだけでなく、投票所の外にテントを張り、与党の支持者であると示す「祖国カード」を持つ有権者が実際に投票したかどうか個別に確認。この投票者のリストに名前がない場合、公務員は解雇し、そのほかの支持者にも食糧配給を止めると伝えていたとも言われています。
大統領選は本来、任期満了の今年1月の少し前に行うのが通例なのですけれども、政権は半年以上前倒ししました。野党連合の民主統一会議はこれに反発し、大統領選のボイコットを表明していました。
ファルコン氏の出馬は、野党連合の呼び掛けを振り切って行われた訳で、対立候補として出馬することで選挙の体裁を整え、マドゥロ氏が当選した場合に正当性を主張するのを助けるだけだという批判もありました。それ故、心情は反政権でもファルコン氏には投票しないと話す有権者もいたようです。
こうしたことから、投票率は約46%で、2013年の前回大統領選の約8割を大きく下回り、棄権した野党支持の有権者も多かったとされています。
2019年1月、マドゥロ大統領は就任式を行い、2期目に入ることを宣言したのですけれども、1月25日に大衆意思党を率いるフアン・グアイド国民議会議長が昨年大統領選挙は違憲なので2期目は無効であるとし、1月10日をもって大統領が不在となったため憲法233条に基づき、国民議会議長である自分が暫定大統領に就任すること、大統領選挙をやり直すことを宣言しました。
1月26日、国連安保理はベネズエラ情勢をめぐる公開会合を開き、アメリカのポンペオ国務長官がマドゥロ政権を「正統性のないマフィア国家だ」と批判し「暫定大統領」への就任を宣言したグアイド国会議長を承認するよう各国に呼びかけました。
これを受け、英独仏など欧州各国は8日以内に再選挙の実施を決めなければ、グアイド氏を暫定大統領として承認すると表明。
結局、再選挙が行われなかった為、2月4日、欧州の主要国はフアン・グアイド国会議長をベネズエラの暫定大統領として承認しました。
このように、ベネズエラは強権で国内を支配するマドゥロ大統領と、アメリカや欧米各国から承認されたフアン・グアイド大統領と二人の大統領が並び立つ状況になっています。
ベネズエラの混乱はまだまだ続きそうです。
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