あなたに答える必要はありません、せやろがい!

 
今日はこの話題です。

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2月26日、菅義偉官房長官が記者会見で、東京新聞の記者からの質問に対して「あなたに答える必要はありません」と回答したことがネット上で話題を呼んでいます。

これは、菅義偉官房長官の定例会見をめぐって、首相官邸が記者クラブ「内閣記者会」に対して「問題意識の共有」を求める文書を送っていた問題で、東京新聞は2019年2月20日付の紙面で「検証と見解/官邸側の本紙記者質問制限と申し入れ」と題した1ページの特集を掲載。

その「(下)会見は国民のためにある 編集局長・臼田信行」の中で、臼田信行・編集局長は「正しい情報を基に質問することが必要ですが、不正確な情報で問いただす場合もあり得ます。そんな時でも取材相手がその場で修正したり否定したりすれば済む話で、一般的には珍しくありません。権力が認めた『事実』。それに基づく質問でなければ受け付けないというのなら、すでに取材規制です」と反論しています。

菅官房長官のコメントはこれに関する回答です。

今回話題になっている「あなたに答える必要はありません」もこの回答に関連したものなのですけれども、毎日と朝日は次のように報じています。
菅氏「答える必要ない」 会見で東京新聞記者に 毎日新聞2019年2月26日 23時20分(最終更新 2月26日 23時41分)

 菅義偉官房長官は26日の記者会見で、東京新聞の記者から「この会見は一体何のための場だと思っているのか」と問われたのに対し「あなたに答える必要はない」と述べた。首相官邸側は同紙や記者クラブへの文書で、この記者は事実に基づかない質問を繰り返していると主張している。

 記者の質問は「会見は政府のためでもメディアのためでもなく、国民の知る権利に応えるためにある」などとして、見解を尋ねる内容だった。(共同)

東京新聞記者に菅官房長官「あなたに答える必要はない」 朝日新聞 2019年2月26日19時52分 

 官房長官会見で記者が質問中に会見進行役の報道室長から「簡潔にお願いします」などと言われることが「質問妨害」にあたるとの指摘について、菅義偉官房長官は26日の記者会見で、「妨害していることはない。質問の権利を制限することを意図したものではまったくない。質問にしっかり移ってほしいということだ」と述べた。

 関連して東京新聞記者から記者会見の意義を問われると、菅氏は「あなたに答える必要はありません」と答えた。東京新聞は20日付の朝刊で報道室長の発言について「本紙記者に質問妨害や制限を行っているのは明らかだ」との見解を示している。
この記事からだけでは、どのようなやりとりの中で「あなたに答える必要はありません」というセリフが飛び出したのか今一つ分かりません。

これについて、ITジャーナリストの篠原修司氏は件のやり取りの書き起こしを掲載しています。該当部分は次のとおり。
東京新聞記者、質問全文書き起こし

 東京新聞記者「官邸の東京新聞への抗議文の関係です。長官、午前(の記者会見で)『抗議は事実と違う発言をした社のみ』とのことでしたけども、この抗議文には、主観にもとづく客観性、中立性を欠く個人的見解など、質問や表現の自由におよぶものが多数ありました。我が社以外のメディアにもこのような要請をしたことがあるのか? また、今後もこのような抗議文を出し続けるおつもりなのか? お聞かせください」

 菅官房長官「まずですね、この場所は記者会見の質問を受ける場であり、意見を申し入れる場所ではありません。ここは明確に行っておきます。『会見の場で長官に意見を申し入れるのは当社の方針でない』。東京新聞から、そのような回答があります」

 東京新聞記者「今の関連ですけども、抗議文のなかには森友疑惑での省庁間の協議録に関し、『メモあるかどうか確認して頂きたい』と述べたことに、『会見は長官に要望できる場か』と抗議が寄せられましたが、会見は政府のためでも、メディアのためでもなく、やはり国民の知る権利に答えるためにあるものと思いますが、長官はですね、今のご発言をふまえても、この会見は一体何のための場だと思ってらっしゃるんでしょうか?」

 菅官房長官「あなたに答える必要はありません」
質問の前に長々と前提がついています。世論調査で「○○について、批判がありますが、あなたは××を支持しますか?」という風に前提を付けた上での質問をまま見かけることがありますけれども、それに類する質問のように見えます。

ITジャーナリストの篠原修司氏は、東京新聞記者の質問について「記者会見を見た印象としては、東京新聞記者は質問に入る前に自分の意見を長官に伝え、それにかぶせるかたちで質問しています」と述べ、「この質問に答えた場合、この意見を認めたうえで回答するかたちになります」と指摘しています。

なるほど、誘導尋問とまではいいませんけれども、出口を限定して質問しているとはいえそうです。

篠原修司氏は上記の指摘をした上で、続く質問も同じであり「どちらの質問も最初に意見を述べ、それに関する回答を要求しているため『あなたに答える必要はありません』との流れになった」と述べています。

自分の意見を述べた後で、質問を被せる。まぁ、自分の言いたい事を言わせるための記者としてのテクニックなのかもしれませんけれども、ニュース・出来事・事件・事故などを取材し、記事・番組・本を作成して広く公表・伝達するといった報道というよりは、自分の意見を塗している分、プロパガンダの色合いを帯びた記事だといっていいかもしれません。



報道の在り方については去年11月のエントリー「安倍長期安定内閣とさよならテレビ」で取り上げたことがありますけれども、ネット界隈では大分前から度々取り上げられてきました。

ネットが浸透し、ユーチューバーなど個人がどんどん情報発信できるにつれ、よりそれが顕著になってきているように思います。

時事問題について発信するユーチューバーは沢山いますけれども、最近、注目を集めているユーチューバーの一人に、「せやろがいおじさん」なる人物がいます。

彼は、沖縄県の芸能事務所、オリジンコーポレーションに所属するお笑い芸人です。まだ30代前半なので、おじさんというにはちょっと早いかなという気もします。

「せやろがいおじさん」は世の中の「本当はそうだろうが」と思う内容をビシッという動画を上げ、人気を集めているんですね。

2月19日、その「せやろがいおじさん」が朝日新聞東京本社に乗り込んで、マスコミに一言申す動画がYouTubeにアップされ、話題を呼んでいます。

その動画にネットは、「よく、社内で撮影許してくれたな」など驚きの声が相次いでいるのですけれども、実は、これは昨年11月に朝日新聞が「せやろがいおじさん」を東京本社内で取材する際、朝日の方から動画撮影を依頼したのだそうです。

「せやろがいおじさん」が朝日社員に声を掛ける場面についても「声掛けはその場のアドリブで、事前の仕込みはありません」とのこと。

「せやろがいおじさん」は、 動画の内容も担当し、動画撮影についても「すごく浮いてましたし、社外の人間が本社に入って撮影するのは、くまモン以来みたいで。それくらい珍しいことみたいです」とコメント。

社内では、「見てます」などと声を掛けられることがあり、「マスコミの皆さんにも見ていただいているんだ」と感じたそうです。

件の動画では「せやろがいおじさん」が、「安室(奈美恵)ちゃんが引退する時に親戚のところ押しかけたりとか、人の土地入って勝手に撮影したりとか、あと裏(事実確認)取れてないのに時事性優先して流しちゃうところとか、他の会社を出し抜いてスクープを撮れたら、もう手段は選ばん! みたいなのはどーかと思う!」とか、「『マスゴミ』とまでは言わんけどこれはマスコミによる立派なハラスメント 『マスハラ』やと思う……他の業界のセクハラとかパワハラは報じるクセに、自分は堂々とハラスメントしてる!」と思いのたけを叫んでいます。

今回の動画撮影について「せやろがいおじさん」は「オッケーした朝日新聞の方が懐深いというか、ちょっと変態だなと思った」と述べているそうですけれども、朝日側の担当者は「動画撮影を含めた今回の取材を通し、批判や誤りへの指摘に対する、せやろがいおじさんの柔軟で謙虚な姿勢に、情報発信に携わるものとして学ぶことが多いと感じました」とコメントしているようです。

確かに自社に対する批判も、そのまま報じさせるのは勇気がいることですし、腹が座ってないとできないことです。

であるならば、猶の事、その「腹」をマスコミ業界自身に発揮して自浄作用を働かせなければならないと思いますね。

「せやろがいおじさん」はJ-castからの取材、ネットニュースに求めたいことについて問われ「数字を稼ぐためのデマとか、見出しで釣って内容が全然違うとか、そういうのはサブい。もちろんネットは黎明期中の黎明期だと思うが、そこら辺のマナーやモラルみたいのが整備されて、しょうもない記事やらんと、その一個上として、数字的なものが取れるようなものもやりつつ、『稼げるから』と一辺倒にならずに、『ほんまうちの会社で伝えたいのはこれや』という筋が一本ないと」と述べています。

ただ、伝えたい事のがあるのなら、尚の事、その伝え方には慎重かつ誠実でなければ信頼されません。

冒頭で取り上げた東京新聞の「検証と見解」記事には書かれていないやり取りが存在すると指摘されています。

誠実であろうとするなら「切取報道」など出来ない筈ですね。

また、東京新聞記者の意見を述べてから質問を被せるような、ケチなテクニックも誠実さから距離があると思います。

そうではなくて、誰しも一理あるなと思わせるくらいの説得力を持って発信しなければならないと思いますね。

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