今日はこの話題です。


このほど、アメリカ司法省のヒッキー次官補代理は、NHKのインタビューで、中国の通信機器大手ファーウェイがアメリカの企業秘密を盗んだ罪で起訴された事件は企業ぐるみの組織的な犯行だと批判しました。
ヒッキー次官補代理は「個人の犯行ではなく企業の方針だった。企業ぐるみの組織的な犯行という理由で、企業そのものを起訴した……我々が訴追しても中国政府はアメリカの捜査に協力しない。協力を拒むことでアメリカの企業秘密を盗むよう国民に促す環境を中国政府が作り出している」と苛立ちを露わにしています。
アメリカ国内では、ファーウェイ排除は進んでおり、4月3日にはマサチューセッツ工科大学の研究部門幹部が「制裁違反に対する連邦当局の捜査が行われていることを受け、MITはファーウェイ、ZTEおよび系列会社との新たな契約または既存の契約延長を受け入れない」との声明を発表、両社との協力を打ち切った事を明らかにしました。
昨年12月のエントリー「排除されていくファーウェイ」でも取り上げましたけれども、アメリカ政府は、ファーウェイとの取引を禁じる法律「国防権限法」を成立させ、日本等の同盟国や、諜報活動についてUKUSA協定を締結しているイギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの5ヶ国、いわゆる「ファイブアイズ」にも、ファーウェイ等中国製品を排除するよう要請しています。
これを受け、日本は昨年12月に中央省庁や自衛隊が使う情報通信機器について、ファーウェイ等を排除する方針を決定。12月13日には、ソフトバンクがファーウェイ等の通信基地局を欧州のノキアとエリクソンに置き換えると発表しました。
「ファイブアイズ」のオーストラリア、ニュージーランド、イギリスも、アメリカに同調してファーウェイを排除する方針を固め、更に、台湾もファーウェイを排除することを決めています。
一方、EUは、3月26日、加盟各国の判断に委ねる方針を定めており、今のところ排除で統一歩調とはなっていません。
欧州委員会・治安同盟担当のキング欧州委員は、フランスのストラスブールで開いた欧州委の勧告に関する記者会見で、「われわれがきょう取り上げるのは排除ではなく、リスクと脆弱性の徹底的な分析に基礎を置くことになるプロセスだ」とコメント。この欧州委の勧告を受け、EU各国は5Gネットワークインフラのリスク評価を実施し、7月15日までに報告することとなりました。
ただ、その後は年末までに許認可の条件や検査、「安全でない」と考えられるサプライヤーの特定を含むEU全体の対応策で合意を目指すとしていますから、今年中にはEUとしてのファーウェイへの対応方針が定まることになります。
それでも、このEUの決定にはアメリカは不満のようで、4月4日、アメリカのポンぺオ国務長官は、ワシントンで開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相理事会閉幕時の記者会見で、NATO諸国がファーウェイ製品の使用を継続することは、「疑いなくリスクになる……危険性が米国の許容範囲を超えれば、情報共有はできなくなる」と警告。ファーウェイ排除を改めて迫りました。
ポンぺオ国務長官が指摘するファーウェイ製品使用のリスクについては、それを傍証するかのような情報が少しづつ出てきています。
3月29日、テロ対策などで電子情報傍受に当たるイギリスの情報機関であり、政府通信本部(GCHQ)傘下のサイバーセキュリティセンター(NCSC)が調査報告書を提出しました。
報告書によると、ファーウェイは2012年、セキュリティ上の欠陥について改善を約束したにもかかわらず、実際には「目に見える改善がなかった」と批判。 ファーウェイ製品に関して新たに技術的問題をいくつか特定し、これまで公開された問題より深刻だとしています。
そして、ファーウェイのソフトウェア開発に長く存在している問題によって、「イギリスの通信業者は直面するリスクが著しく高まった」と強調し、ファーウェイはネット上の安全を最優先課題にしていないとの見方が示されています。
サイバーセキュリティセンター(NCSC)はファーウェイについて安全調査をずっと行っていて、昨年7月にNCSCの諮問機関がまとめた安全性審査の報告書では「技術面でいくつかの欠陥が見つかり英情報通信網への新たなリスクが表面化した」とし、安全性を「限定的にしか保証できない」との見解を示していたのですけれども、今年2月には、ファーウェイ製品を5G網に導入しても、安全保障上のリスクは抑えられるとし、利用を一部制限すべき領域はあるものの、調達先の多様性を確保する狙いもあり全面排除しない方向で検討していると報じています。
危険だと言ったり、リスクは抑えられるといったり、ちょっとフラフラしている印象を受けますけれども、リスクゼロだと言い切れないところを見ると、やはり何某かの危ないものがあることは否定できません。
また、同じく3月29日、アメリカのマイクロソフトが、今年1月にファーウェイが製造するノートパソコンに、バックドアが設置されているのを見つけたと米英のIT専門誌が報じています。
報道によると、マイクロソフトの技術者らはOSの中核部分であるカーネル(kernel)に異常な作動を発見し、解析の結果、ファーウェイ製ノートパソコン、MateBookに搭載されているPC Managerソフトウエアを使うと、権限のないユーザーでも、スーパーユーザー権限でプロセスを作成できると警告しています。
まぁ、ファーウェイ排除を主導しているアメリカとその要請を受けている「ファイブアイズ」の一角を占めるイギリスにしてみれば、世界に対して、ファーウェイ排除の理由となるものは発信していきたいという思惑があるのかもしれません。
そういえば、昨年12月、日本でも、政府与党関係者が「政府がファーウェイの製品を分解したところ、ハードウエアに『余計なもの』が見つかった」と話していましたけれども、次々と怪しげな情報が上がってくるところをみると、ファーウェイ製品を使うのはやはり躊躇われるでしょうね。
アメリカは同盟国のみならず、世界各国でファーウェイ製品を使わないよう呼び掛けています。
ポンペオ国務長官は、2月中旬にハンガリー、スロバキア、ポーランド、ベルギー、アイスランドを訪問しファーウェイの脅威を訴え、アメリカに帰っても「ファーウェイの製品を採用する国とパートナーシップを結ぶことも、情報を共有することも共に取り組むこともできない。われわれは米国の情報をリスクにさらすようなことはしない」と強調。
更に、3月1日にはフィリピンで、「我々の課題は5Gに関するリスクを世界で共有することであり、ファーウェイの機器が使用されている地域で事業を展開する米国企業は問題に直面するだろう」と呼びかけています。
このアメリカ主導によるファーウェイ排除に中国は真っ向反発。3月8日、中国の王毅国務委員兼外相は、華為問題について会見で「意図的な政治的抑圧だ。我々は中国企業や市民の合法的な権益を断固守る」と述べ、一歩も譲らぬ構えを表明しました。
そして、アメリカの周辺国、同盟国に圧力を掛け始めました。
ファーウェイ排除をほぼ決めたオーストラリアに対し、オーストラリアからの石炭の輸入を禁止する姿勢を見せ、カナダには中国向け菜種の出荷を阻止。そしてファーウェイに対する部分的規制に動いたニュージーランドに対しては、航空機の着陸拒否や首相の公式訪中を実現させないなど、事実上の報復行動をとっています。
現状は、ファーウェイを巡る米中対立が、世界に拡散し始めていると見てよいかと思いますけれども、これは同時に、中国という国が何者であるのかを世界各国に広めている一面もあると見る事もできます。
世界各国が米中どちらを選択するのか。ファーウェイ問題は今後の世界の趨勢を占う一旦になるのではないかと思いますね。
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