WTOは紛争解決の役に立つか
今日はこの話題です。
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4月26日、世界貿易機関(WTO)の紛争処理機関の非公開会合がジュネーブで開かれ、アメリカ、中国など164の加盟国・地域が参加しました。
日本から出席した伊原純一駐ジュネーブ国際機関政府代表部大使は、韓国による福島など8県産水産物の輸入禁止措置をめぐる日本の主張をWTOの上級委員会が退けたことに対し「被災地の復興の努力に水を差す。極めて残念だ」と抗議しました。
WTOでの敗訴について、自民党は17日に水産・外交両部会・水産総合調査会合同会議を開いたのですけれども、出席議員らからは、「完全に外交の敗北だ」などと政府の責任を厳しく追及する意見が相次いだそうですから、それを受けての抗議なのかもしれません。
外務省によると、伊原大使は、上級委の報告書について「明確な科学的根拠から導かれたパネルの判断を軽視している」と、述べた上で、韓国の輸入規制がWTO違反かどうかの判断をしなかった点を問題視し、更に、上級委が「紛争解決に資するものとなっていない」とも批判し、今後、上級委のあり方について、WTOで議論する必要性も訴えました。
これについて、各国から「第三国」として意見が表明され、アメリカ、EU、カナダ、中国、ブラジルなど10ヶ国・地域が「これでは紛争の解決にならない」と疑問視する声が相次ぎました。
アメリカの代表は「日本は科学的根拠に基づき、韓国の措置がWTO協定に非整合的であることを示している……上級委員会が実質的な理由なく判断を覆したのは遺憾だ」と上級委で逆転敗訴となったことへの疑念を示しました。
4月25日のエントリー「逆転敗訴したWTO報告書と法廷戦術」で取り上げましたけれども、WTO上級委員会が問題視したのは日本が勝訴した一審でのパネルの手続きです。
韓国が主張する「適切な衛生健康保護水準:ALOP」の3つのうち1つしか考慮しなかったとして一審の判断を破棄しました。
けれども、一審で認められた「1mSv/年の年間許容内部被曝放射線量」というのは、国際基準に合致したものです。しかも放射性セシウムのように半減期の長い核種については日本基準は世界基準よりも厳しい程です。
WTO上級審の判断は、そうした一審判断があったにも関わらず、韓国の主張する安全基準を満たしているかを考慮しなかったとして破棄したのですね。これはつまり、輸出元の国がいくら国際安全基準を満たしていたとしても、相手国が嫌だといったら輸出できないということを意味します。輸入国の匙加減一つで、いくらでも拒否できるというわけです。それを容認したのが今回の判断ということになる。
他の国にとって、これは堪ったものではありません。
他の国も韓国と同じようにも適当な理由を付けて禁輸し放題となったら、自由貿易もへったくれもありません。
そうしたことがあるが故に、第三国が「紛争の解決にならない」と疑問視しているのだと思いますね。
日本はWTO改革にも動き出しています。
25日、安倍総理はベルギーの首都ブリュッセルのEU本部で、トゥスク欧州理事会議長やユンケル欧州委員長と会談、自由貿易体制を推進するためWTO改革を共に主導していくことで一致しました。
安倍総理はWTO改革に関して「産業の大きな変化にWTOは追いついていない。上級委員会のあり方もさまざまな課題がある」と会見で指摘。
更には、28日、安倍総理は、カナダのトルドー首相との会談後の共同記者会見で「紛争解決が機能するよう改革することが不可欠だ。G20各国と建設的に議論したい」とWTO改革に意欲を示しています。
WTO改革を巡っては、日米欧がルール違反には制裁を科すとした改革案を提示するなど議論を続けています。
EU代表は多角的貿易システム維持における紛争処理の果たす重要性を強調。上級委の判断に時間がかかりすぎることや、WTOルールにのっとった運営が行われていないとのアメリカの主張に対し、上級委の定員を現在の7から9に増員、任期も4年から6~8年に延長することなどを提案しています。
今回のWTO判断に関しては、世界の貿易にも影響が大きいことが明らかになりました。これでどれだけWTO改革に繋がるのか分かりませんけれども、日本も国益を棄損しないよう粘り強く取り組んでもらいたいですね。
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