昨日の続きです。
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「妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え」連載中!
4.中英連合声明を反故にした中国
混乱する香港デモは各国の注目を集めています。
6月12日、アメリカのオータガス国務省報道官は記者会見で、「自らの基本的な権利が中国の隷属支配下に置かれたくないから抗議している」と述べ、デモ参加者の行動に理解を示し、香港政府に対して「表現の自由や市民らの集会の自由を尊重すべきだ」と求めました。
これにはアメリカ連邦議会も同調。12日、民主党のペロシ下院議長は声明で、「一国二制度」の枠組み内で香港に「十分な自治権」があるかどうか「再評価」する法制を米議会に呼び掛け、条例改正案は「20年間にわたり米国と香港の間で発展した強力な関係を危険にさらす」と指摘しました。
また、共和党のマコネル上院院内総務も同様の声明を発表。香港の住民は、同改正案が、法の支配をまた衰えさせ、香港の自治権を脅かし中国政府の支配力を強めるものだとコメントしています。
更に同じく12日、イギリスのハント外相も改正案の再考を香港政府に求める声明を公表。香港の権利や自由、高度な自治を維持することが重要だと強調しました。
それだけでなくイギリスのメイ首相は、「われわれは条例の改正が香港の英国民に潜在的な影響を与えることを危惧している。しかし、重要なのは、香港における容疑者の受け渡しは必ず『中英連合声明』に記載されている、『香港市民の権利及び自由を保証する』という部分を満たさなければならないという点である」と香港政府の対応を批判しています。
「中英連合声明」は中国と英国が1984年に共同発表した声明で、『一国二制度』の下、中国が香港の社会・経済制度、生活様式を当時のまま50年間は変更しないことを記した文書です。
その文書の内容は次のとおり。
香港問題に関する英中共同声明(中華人民共和国政府とグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府の香港問題に関する共同声明)1984年12月19日この共同声明の3条5項で、香港の社会・経済制度、生活様式は当時のままとすること、3条12項でその様式を50年は変更しないことを定めています。
中華人民共和国政府とグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府は満足の意をもって近年の両国政府と両国人民の友好関係を振り返るとともに、歴史的に残された香港問題を協議を通じて妥当に解決することが香港の繁栄と安定の維持に役立ち、新たな基礎に立つ両国関係のいっそうの強化、発展に役立つと見る点で見解の一致を見た。そのため、両国政府代表団は会談をへて、次のように声明することに同意した。
一、中華人民共和国政府は、香港地区(香港島、九竜、「新界」を含む。以下香港と称する)の祖国への復帰が全中国人民の共通の願いであり、中華人民共和国政府が一九九七年七月一日から香港に対し主権行使を回復することを決定したことを声明する。
二、連合王国政府は、連合王国政府が一九九七年七月一日に、香港を中華人民共和国に返還することを声明する。
三、中華人民共和国政府は、中華人民共和国が香港に対し次のような基本的な方針、政策をとることを声明する。
(1)、国家の統一と領土保全を擁護するため、また香港の歴史と現状を考慮して、中華人民共和国は、香港に対し主権行使を回復するにあたり、中華人民共和国憲法第三十一条の規定にもとづき、香港特別行政区を設けることを決定した。
(2)、香港特別行政区は中華人民共和国中央人民政府の直轄下に置かれる。外交と国防が中央人民政府の管理に属するほか、香港特別行政区は高度の自治権を享有する。
(3)、香港特別行政区は行政管理権、立法権、独立した司法権と終審権を享有する。現行の法律は基本的には変わらない。
(4)、香港特別行政区政府は現地人によって構成される。行政長官は現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。主要公務員は香港特別行政区行政長官が指名し、中央人民政府に報告し、中央人民政府が任命する。香港の政府諸部門にかねてより勤務していた中国籍と外国籍の公務員と警察要員は留用することができる。香港特別行政区の政府諸部門は、イギリス籍またはその他の外国籍にある者を招聘して顧問またはなんらかの公職につかせることができる。
(5)、香港の現行の社会・経済制度は変わらず、生活様式は変わらない。香港特別行政区は法律にもとづき、人身、言論、出版、集会、結社、旅行、移転、通信、罷業、職業選択、学術研究、宗教信仰の諸権利と自由を保障する。個人財産、企業所有権、合法的相続権および外部からの投資は、いずれも法律の保護を受ける。
(6)、香港特別行政区は、自由港と独立関税地区の地位を保持する。
(7)、香港特別行政区は国際金融センターの地位を保持し、ひきつづき外国為替、金、証券、先物取引に市場を開放する。資金の流入、流出は自由である。香港ドルはひきつづき流通し、自由に他の通貨と交換することができる。
(8)、香港特別行政区は財政の独立を保持する。中央人民政府は香港特別行政区から徴税しない。
(9)、香港特別行政区は連合王国その他の諸国と互恵の経済関係を樹立することができる。連合王国その他の諸国の香港における経済的利益は配慮される。
(10)、香港特別行政区は「中国香港」の名称で、独自に各国、各地区および関係国際機構と経済・文化関係を保持し発展させるとともに、関係協定を締結することができる。香港特別行政区政府は独自に、出入旅行証を発行することができる。
(11)、香港特別行政区の社会治安は、香港特別行政区政府が責任をもって維持する。
(12)、中華人民共和国の香港に対する前記の基本的な方針、政策および本共同声明の第一付属文書の前記基本方針、政策に対する具体的説明については、中華人民共和国全国人民代表大会が中華人民共和国香港特別行政区基本法において規定するとともに、五十年間は同規定を変えない。
四、中華人民共和国政府と連合王国政府は、本共同声明の発効の日から一九九七年六月三十日までの移行期においては、連合王国政府が香港の行政管理に責任を負い、香港の経済の繁栄と社会の安定を守り、保持すること、中華人民共和国政府がこれに協力することを声明する。
五、中華人民共和国政府と連合王国政府は、本共同声明の効果的実施をはかるとともに、一九九七年における政権の円滑な引き継ぎを保証するため、本共同声明の発効時に中英合同連絡小委員会を発足させること、同合同連絡小委員会は本共同声明の第二付属文書の定めるところにより職責を確定し履行することを声明する。
六、中華人民共和国政府と連合王国政府は、香港の土地契約およびその他の関連事項に関して、本共同声明の第三付属文書の定めるところにもとづいて処理することを声明する。
七、中華人民共和国政府と連合王国政府は、前記の諸声明と本共同声明の付属文書をすべて実施することに同意する。
八、本共同声明は批准を受けなければならず、批准書交換の日から発効する。批准書は一九八五年六月三十日以前に北京で交換されるものとする。本共同声明とその付属文書は同等の拘束力を持つ。
一九八四年十二月十九日、北京で調印、中国語と英語で二部作成され、ともに同等の効力を持つ。
香港デモの発端となっている「条例改正案」は、この共同声明3条5項、12項に反しているとメイ首相は批判しているのですね。
5.中南海の指桑罵塊
これに対して中国は反発。
中国外務省は、抗議デモは「香港の主な民意に反している」としたうえで、香港政府が市民に対してゴム弾や催涙ガスを使用したことについては「法に基づいた違法行為への対処だ」と正当化。さらに、条例の改正で香港での表現の自由や自治が揺らぐ可能性を指摘したアメリカ等に対しても「内政干渉だ……香港の発展に影響ない」と強調しています。
けれども、7人に1人が参加しているともいわれる、今回のデモが「主な民意に反している」とはよく言えたものです。本当に民意に反しているのなら、デモに対する反対の声が一つや二つ上がっても良さそうなものなのに、そんな声は聞こえてきません。
また、諸外国の懸念を「内政干渉だ」と開き直るのなら、その前に、今回の改正案が1984年の「中英連合声明」に違反していることについて釈明するべきです。
第一、中国国内に、海外メディアの放送を遮断してデモの詳細を報じないだけでは飽き足らず、ネット検閲までして情報統制するのは、それが国内に知られては困るからでしょう。真に内政干渉なのであれば、国内にそれを流す方がよほど、民意を纏めることに役立つはずです。それが出来ない時点でお察しという他ありません。
今回のデモで、香港政府の警官隊が無抵抗の学生らに襲いかかる様子を収めた動画がSNSを介して世界中に拡散しています。
今年は、事件発生から30年ということで天安門事件が世界でも取り上げられていましたけれども、図らずも今回の香港デモは、中国共産党政府とその意を受けた香港政府が当時と何にも変わっていないことを示したとも言えるでしょうね。
12日、アメリカのコンウェイ大統領顧問はG20で中国の習近平国家主席と会う際に香港市民の抗議行動の問題を「おそらく」取り上げるだろうと述べていますけれども、安倍総理も抗議の声を上げるべきですね。
ノンフィクション作家の河添恵子氏は「現在、中国共産党は内紛状態にある。習氏がデモ制圧のために軍を動かす判断をしなくても、反習派によって動く軍はたくさんある。万が一、軍が動いて大きな被害が出れば、国際社会は習政権を厳しく批判することになる。そのなかで、習政権の責任論が浮上する可能性もある。国内でクーデターが起こる可能性もある。G20前にヤマ場が来るのではないか」と分析しています。
確かに反習近平派にしてみれば、香港デモを武力で制圧して見せ「大ごと」にすることで、習近平の責任を追及して失脚させることを狙わないとは限りません。中国共産党内部での権力争い、中南海の指桑罵塊になる可能性もあるということです。
ただでさえ、米中貿易戦争の最中、人権問題でも火がつけば、たとえ米中貿易交渉がまとまったとしても、その次は、人権問題が次の中国攻撃の遡上に上る可能性は高いと思いますね。
その意味では、米中対立は、1年2年で終わるものではなく、共産党が潰えるまで続くかもしれないことは念頭に置いておいてよいかもしれませんね。
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