イランに大歓迎された安倍総理は日本の哲学を提示できるか
今日はこの話題です。
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「妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え」連載中!
1.イランに大歓迎された安倍総理
6月12~14日の日程でイランを訪問した安倍総理が最高指導者のハメネイ師とローハニ大統領と会談したことは、イラン国内で大きく取り上げられました。
イラン国内大手・主要紙は、今回の安倍総理のイラン訪問をポジティブに報道。日本の総理のイラン訪問が41年ぶりであることや、1983年、父の安倍晋太郎氏が外相時代にイランを訪問したことなどに触れ、歓迎ムードだったようです。
安倍総理はテヘランのサーダーバード宮殿に向かう途上、騎馬兵が先導するなど、歓迎式典の映像がツイッター等で流れていますけれども、確かに大歓迎されているといっていいと思います。
外務省幹部は「西側諸国の首脳がイランに行き、ハメネイ師に会うこと自体に大きな意味がある」と述べていますけれども、他の西側諸国の首脳がハメネイ師と会談したのは2016年のイタリアのマッテオ・レンツィ首相だそうです。
武蔵野大特任教授の山内昌之氏は、ロウハニ大統領だけでなく最高指導者のハメネイ師と会えたことで、西側の指導者としてはシリア戦争の同盟国ロシアのプーチン氏に準じる扱いを受けたと評価。
更に、日本エネルギー経済研究所の坂梨祥氏は、ハメネイ師が安倍総理との会談の冒頭で「あなたとは話しましょう」と語っている点に着目。「安倍首相を仲介とする間接的な対話に応じる」ことを意味していると高く評価しています。
それらを考えると確かに、外務省のいうようにハメネイ師に会うこと自体に大きな意味があったと思います。
日本国内のマスコミは、安倍総理と会談したハメネイ師が「あなたの善意と真剣さに疑問を差しはさむ余地はありませんが、米大統領があなたに伝えたということに関していえば、トランプはメッセージを交換するに値する人物とは考えていません」と答えたことなどを取り上げ、「外交成果はなかった」とか「軽く扱われた」といった報道がされています。
実際、イランのメディアの一部では、安倍総理の訪問を揶揄するかのような報道をしているところもありました。
地元メディア『Sazandegi』は、表紙に武者姿の安倍総理を掲載し「実際に一人の侍がテヘランに」と報じているのですけれども、安倍総理の持つ盾と鎧には星マークがあしらわれ、右手には親書らしき紙を握っています。安倍総理の訪問は侍ではあるが、アメリカの使者でもあるとイランでも受け止められていたということです。
2.ハメネイ師にいうべきことを言った安倍総理
懸案の核合意は、2015年に結ばれているのですけれども、これは、イランが経済制裁の解除のため、核開発を大幅に制限することで米欧など6ヶ国と合意したものです。この時、イラン国内では、反米強硬派から根強い反対論があったそうなのですけれども、交渉を主導した穏健保守派のロウハニ大統領が押し切り、ハメネイ師が最終承認を与えています。
それが、トランプ政権になるや、アメリカが合意から離脱するばかりか核開発の完全放棄やミサイル開発の停止などを要求。ロウハニ大統領のみならず、ハメネイ師の面子を潰す形となりました。
先に取り上げた武蔵野大特任教授の山内昌之氏によると、ハメネイ師は安倍総理が相手にした各国首脳の中では、トルコのエルドアン大統領より情勢を読む力にたけ、ロシアのプーチン大統領と同じかそれ以上に陰謀と挑発の才に秀でている人物なのだそうです。
だとすると、アメリカの要求を唯々諾々と飲むとも思えず、何か仕掛けをしてくることも考えられます。あるいは、安倍総理との会談もその一環なのかもしれません。
ジャーナリストの大高未貴氏は現地からの情報として、ハメネイ師は安倍総理に「日本はヘタレ国家。アメリカにびくびくするな」と舐めたことを言ったのに対し、安倍総理は「冗談じゃない。日本はかつてアメリカと戦ってるんだ! しかし今は戦いを超え、互いに経済援助しながら人類の進歩を共に考える立場で外交交渉をしている。逆にイランがやっていることは後退じゃないか」と返したのだそうです。
日本のマスコミはこうした安倍総理の交渉を殆ど報じていませんけれども、安倍総理のこの発言は「未来志向」的な発言だと思いますし、何よりアメリカとガチで戦ったという事実が説得力を持たせている。
その意味でも安倍総理は、イランに対してもいうべき事を言ったと見てよいかと思いますね。
3.アメリカに物申す日本の哲学はあるか
けれども、それで仲介として十分なのかというと、筆者はまだ足らないところがあると考えています。
それは、如何にして日本がそのような立場に立つことが出来たのかの説明とイランへ贈る言葉が不足しているという点です。
安倍総理はアメリカとの戦争を超え、今では人類の進歩を共に考える立場だと豪語してみせたそうですけれども、そう言えるのも、アメリカのパートナーであると言えるだけの国力と世界への影響力があるからこそです。
こういう言い方は語弊があるかもしれませんけれども、もし日本がそれ程の国力もなく、世界に対して影響を与えることのない小国であったなら、アメリカとて相手にしないでしょう。畢竟、アメリカと共に人類の未来を考える立場にも立てません。
つまり、イランにしてみれば、原爆を落とされ、焼野原になった日本が如何にして立ち直り、世界の大国となったのか。アメリカと共に未来を考える立場だといったけれども、日本を再興し、アメリカとの戦争を超える原動力となった哲学・あるいは宗教は何なのか。そういうことを知りたいのではないかと思うのですね。そこへの言及が不足している。
ハメネイ師が安倍総理に「アメリカにびくびくするな」といったのも、アメリカに物申すだけの哲学を日本は持っている筈だ、という思いの裏返しではないのか。
勿論、そう考えるのは穿ちすぎなのかもしれません。けれども、日本はアメリカに対しても毅然と対応できる筈だ、という思いがなければ、そんな台詞は出てこないと思うのですね。
その点については「ホルムズ海峡でのタンカー襲撃と公平を貫く日本」のエントリーで述べましたけれども、日本政府はアメリカに対し、イランがタンカー攻撃した裏付けとなる証拠を示すよう求めていますから、多少なりとも、その片鱗を見せたと言えるかもしれません。
イランとアメリカの仲介は、単なる経済的な問題や、過去と決別する未来志向的な話だけでなく、もう一歩踏み込んだところにあるのではないかと思いますね。
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