昨日の続きです。


4.ホルムズ海峡の安全は日本の死活問題
6月22日、アメリカのトランプ大統領は、「月曜日にイランに大規模な追加制裁を発動する……イランが制裁を解除され、生産的で繁栄した国家に再びなる日を期待している。早ければ早いほど良い!」とイランに対して24日に大規模な追加制裁を実施するとツイッターで明らかにしました。
制裁内容はまだ明らかになっていませんけれども、トランプ大統領は軍事行動についても「我々がこの問題を解決するまで常にテーブルの上にある」と述べ、イランの指導者が「悪事を働けば、彼らにとって非常に不運な日になるだろう」としています。
また、トランプ大統領は、ホルムズ海峡での航行の自由を維持することはアメリカ国内での原油生産が高水準であるため以前ほど重要でないとし、中国や日本、インドネシアなどの国々により重要なことだと発言しました。
これに対し、イラン陸軍参謀でスポークスマンのアブルファズル・シェカルチ准将は、イランのタスニム通信に「イランに対して一回発砲すれば、アメリカとその同盟国の国益に火を付ける」と牽制しています。
「国益に火を付ける」なんて表現をされると、反射的に石油の輸出を止めるのかなんて思ってしまいます。
ただ、イランは既にアメリカによるイラン産原油禁輸制裁措置を受け、イラン産原油の主な買い手であったアジア諸国は既にイラン産の輸入を減らしています。
実際、4月22日にゴールドマン・サックスが公表した推計によると、イランの原油輸出は日量90万バレルにまで落ち込んでいます。
日本は石油輸入の約80パーセント超、液化天然ガスの約24パーセントを中東に依存しています。中でもサウジアラビアとUAEが大半を占めています。イランは比較的少なく、数パーセントしかありませんから、たとえイラク産石油が全面禁輸になっても、他国産の石油でカバーしていくものと思われます。
けれども、いくらサウジアラビアとかUAEとかからの石油輸入を増やせたとしても、その石油をきちんと日本にまで持って来れなくては意味がありません。
先のタンカー攻撃ではありませんけれども、石油や天然ガスを積んだタンカーを、片端から沈められてしまえばアウトです。
また沈めることまでしなくても、ホルムズ海峡を封鎖するだけでも同じ危険が訪れます。
ホルムズ海峡の一部はオマーンの領海であるので、イランが海峡を一方的に完全封鎖することはできないのですけれども、船舶は、イランのイスラム革命防衛隊海軍が監視するイランの領海を通過します。
1991年の湾岸戦争では、イラクが機雷をまいて海峡を封鎖したことがあります。
5.現状維持では現状は維持できない
ホルムズ海峡は中東産の原油や天然ガスを運び出す大動脈です。世界消費の2割に相当する日量約1700万バレルの石油がタンカーに載せられてこの海峡を通行しています。
ホルムズ海峡の一番狭い地域は幅が約33km程なのですけれども、水深の問題でタンカーなどの大型船舶が通行できるのは約6km程しかありません。しかも海峡の両岸は暗礁、岩礁が多く、海峡の中央部分で大きく変針する為、操船からして難しいのだそうです。
更に、四方を砂漠に囲まれたペルシャ湾は日中照りつける太陽で砂漠は熱せられて猛烈な上昇流があり、海から砂漠に向かって猛烈な風が吹きます。これが横風になって船に吹くと、流される危険があることから、取った舵と反対方向に舵を切って、船体が振れるのを止める「当て舵」と呼ばれる操船が必要で、これには熟練を要するそうです。
しかも、タンカーの艦橋は船尾にあることから、大型タンカーでは船首から700~800メートル前方は殆ど見えないのだそうです。
その意味では、中東の石油が日本に運ばれてくるのは、高度なタンカー操船技術によって支えられているとも言えます。
これ程の難所をなんの装備もないタンカーが日々航行している。日本の石油は、ペルシャ湾やホルムズ海峡全域の安全が確保されていることが大前提となっていることを知らなければならないと思いますね。
ただ、日本は原油については半年以上の備蓄がありますから、仮ににホルムズ海峡が封鎖されたとしても、多少は保つかもしれません。
ただ、液化天然ガス(LNG)は気化しやすいことから、長期の貯蔵が難しく、およそ20日分も在庫しかないそうです。その場合は、他国の貯蔵分をスポットで売り出すのを買いまくってカバーすることになりますけれども、値段が上がることは避けられません。
更に、液化天然ガス(LNG)は発電にも使われ、2015年実績ですけれども、東京電力の発電のうち液化天然ガスによる発電は65%にも達しています。これは原発を停止した分をカバーするために、液化天然ガス(LNG)と石炭を増やしたことが影響しています。
今は湾岸戦争当時と違ってペルシャ湾にアメリカ海軍が展開しているので封鎖は困難とされていますけれども、万が一、アメリカとイランとで紛争或いは戦争になればどうなるか分かりません。
ちょっと気になるのは、トランプ大統領が「ホルムズ海峡での航行の自由を維持することはアメリカにとっては以前ほど重要でないとし、中国や日本、インドネシアなどの国々により重要だ」と述べていることです。
これを穿った見方をすれば、「仮にホルムズ海峡が封鎖されたとしても、アメリカには大して影響がないから、放っておく。それで困る国は自前でなんとかしろ」とも捉えることも出来なくもありません。
言葉を変えれば、日本や同盟国に「自分の尻は自分で拭け」と言っている訳で、応分の負担を求めるトランプ流のディールかもしれません。
いずれにせよ、日本のエネルギー供給は依然として薄氷の上にあることが、改めて浮き彫りになりました。
原発再稼働、自衛隊拡充、憲法改正と、もはや現状維持では立ち行かない。
現状を維持するためには、大きな改革が日本に必要とされている。そこから逃げることは、もう出来ないのではないかと思いますね。
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