衝撃のトランプ発言と蠢くパンダハガー

 
今日はこの話題です。

画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
画像「妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え」連載中!

1.トランプ発言の衝撃

アメリカのトランプ大統領の2つの発言が話題になっています。

一つは24日にツイートされた、ホルムズ海峡の原油輸送路防衛をアメリカが担っている状況に疑問を投げかけるもの。もう一つは、トランプ大統領が「トランプ大統領、日米安保破棄の考え側近に漏らしていた」というブルームバーグの記事です。

前者についてトランプ大統領は「中国が91%、日本は62%の原油をホルムズ海峡経由で輸入している。なぜ我々が代償もなしに他国のために(長年にわたって)輸送路を守っているのか。そうした国々は全て、自国の船を自ら守るべきだ」と述べていますけれども、これは伝聞ではなく、本人のツイートですから、誤報の余地は殆どありません。

ただ、発言の内容そのものは、極めて真っ当な正論であり、日本の平和ボケというか世界の現実に目を向けない「お花畑」に警鐘を鳴らすものと言えます。

トランプ大統領のホルムズ海峡発言について、6月25日、菅義偉官房長官は「ホルムズ海峡における航行の安全確保はわが国のエネルギー安全保障上、死活的に重要……中東の緊張緩和と情勢安定化に向けた外交努力を継続したい」と述べていますけれども、自分の国の船は自分で守るべきだとするトランプ大統領が求めた日本政府としての具体的行動については、言及しませんでした。

まだ政府としての方針が固まってないからかもしれませんけれども、トランプ大統領のど真ん中直球をきちんと受け止めるべきだと思いますね。

一方、後者については、トランプ大統領本人からではなく、事情に詳しい関係者3人が明らかにしたという取材記事です。

トランプ大統領本人が日米安保について語ったのは同盟破棄ではなく、日米同盟の片務性です。

6月26日、トランプ大統領がFOXビジネスネットワークのインタビューで次のように語りました。

「もし日本が攻撃されれば、アメリカは第三次世界大戦を戦う。アメリカは私たちの命と財産をかけて日本人を助けるために戦闘に参加する。アメリカはいかなる代償を払っても戦う。いいかい?……しかし、もしアメリカが攻撃されても日本は私たちを助ける必要は全くない。日本人はアメリカへの攻撃をソニー製のテレビで視ることができる。これが小さな違いか、どうだ?」

このトランプ発言と同じ日に、ブルームバーグが日米安全保障条約は片務的だと不平を言い、破棄する可能性について言及したと報じました。何故か「破棄する可能性」まで付け足されているのですね。

ただ、件の記事そのものは3人に取材した結果ということですから、それなりに裏を取っているとは言えます。


2.トランプの不満

尤も、ブルームバーグの日本語訳記事では、「トランプ氏は同条約について、日本が攻撃されればアメリカが援助することを約束しているが、アメリカが攻撃された場合に日本の自衛隊が支援することは義務付けられていないことから、あまりにも一方的だと感じている」とその理由を明らかにしながらも、トランプ氏の個人的な会話の内容だとして、実際にそうなることにはなりそうもないと、微妙なフォローを入れています。

日本側でも、菅官房長官が「報道にあるような日米安保見直しといった話は全くない。米大統領府からも米政府の立場と相いれないものであるとの確認を得ている……日米同盟はわが国の外交安全保障の基軸」であり、「日米安保体制は同盟関係の中核を成すものだ」とコメントしています。

日本語訳記事ではおおよそここ等あたり迄で終わっているのですけれども、どうも抜粋のようで、英語の原文記事にはまだ先があります。

そこでは、安倍総理が自国の防衛をより強化すべきと考えていることや、同盟国への援助を可能とする憲法解釈を進めたと記しています。
(But Abe, a relatively hawkish leader, believes his nation should take a more robust role in its own defense. He pushed through a controversial interpretation of the constitution to allow Japanese forces to come to the aid of allies.)

トランプ大統領はアメリカが提供している防衛力に見合った対価を同盟国が負担していないと、度々口にするのは事実です。

1990年にプレイボーイ誌のインタビューで「あなたがもし米大統領になったら、どんな外交政策をとりますか」と聞かれたトランプ氏は「“トランプ大統領”は圧倒的な軍事力の非常に強力な信奉者だろう。彼は誰も信用しない。ロシアも信用しない。同盟国も信用しない。彼は巨大な軍事力を持ち、それを完成させて、理解する。問題の一部は無償で、世界で最も豊かな国々を防衛していることだ。日本を防衛して、アメリカは世界中の笑いものになっている」と答えています。

また、2016年の大統領選では、「もし誰かが日本を攻撃したら、アメリカがすぐに駆けつけて第三次世界大戦をおっぱじめなければならないの? もしアメリカが攻撃されても日本にはアメリカを守る義務はない。ともかく、これは公平には聞こえない。アメリカにとって良い話のように聞こえるかい?」と述べ、日米安全保障条約の再交渉まで公約に掲げていました。

トランプ大統領の「正直さ」は良いように働くこともある一方、その「正直さ」は時に同盟国を不安に落としいれます。

今回のブルームバーグの記事でも、「ソウルからパリまで同盟国を不安にさせる」とそのまま指摘しています。
(While Trump’s repeated criticism of security pacts around the world has alarmed allies from Seoul to Paris, he hasn’t moved to withdraw from such agreements the way he has with trade deals.)


3.仮想オフショア・バランシング

地政学者の奥山真司氏は、実際にアメリカが米軍撤退といった物理的な動きをしなくとも、トランプ大統領個人の反同盟的な態度や言動で同盟国たちを動揺させ、実際にオフショア・バランシングの第一段階が実行されたかのような現象、即ち「仮想オフショア・バランシング」を発生させていると指摘しています。

オフショア・バランシングについては、過去にも取り上げたことがありますけれども、自軍は紛争地域の外に駐留させ、紛争地域内の勢力を互いに牽制させバランスさせる戦略のことで、アメリカの例でいえば、基本的にアメリカは外交的介入を主とし、万一、地域内の軍事バランスが崩れた場合には弱い方に味方する、というやり方です。

奥山氏は、オフショア・バランシングが実行されると次の3つの現象が発生すると言われていると述べています。
1.三大戦略地域の情勢の不安定化
2.同盟国のバランシング
3.同盟国のバンドワゴニング
2のバランシングとはいわゆる「直接対抗」というもので、東アジアでいえば、日本が中国の覇権主義に反発して対抗するといった反応です。

一方、バンドワゴニングというのは、ライバルとなる地域の潜在覇権国たちに靡いてしまうこと。東アジアでいえば、中国の言い成りになるという動きです。現実に韓国は既にこれに近い動きをしていますね。

また、日本でもバンドワゴニングを匂わせる論もちらほら出ています。

6月27日、琉球新報は社説「米大統領『安保破棄』 安全保障を考える契機に」で、「アメリカが本当に破棄を望むのなら、沖縄の米軍基地を平和につながる生産の場に変えることも可能だろう。辺野古の新基地建設も不要になる。政府はむしろ、これを奇貨として対応を検討すべきだ」と安保破棄を主張しています。

琉球新報の社説という時点で、もう滅茶苦茶"怪しい"のですけれども、"安全保障を考える契機に"と見出しをつけながら、中身は「辺野古は不要だ」だけ。無防備都市宣言を狙っているのかと勘繰りたくなるほどです。

6月25日、共産党の志位委員長は、「本当にやめるというなら結構だ。私たちは日米安保条約は廃棄するという立場だ。一向に痛痒を感じない」と発言しました。

けれども、共産党の安保破棄はイコール国防強化ではありません。

2015年6月23日、志位委員長は、記者会見で、共産党が政権をとった場合にどういった安全保障政策を打ち出すのかについて述べています。

そこで、志位委員長は、日米安保条約を廃棄するという前提で、しばらくは自衛隊を残し、他国からの武力行使には対抗するが、やがては「自衛隊解消に向かわせる」と述べています。

その一方、中国との紛争問題についてどう対応するのかと外国プレスから質問されると、相手の軍事的対応に軍事で返して、それがエスカレートするのが危険だから、話し合う、と答えているのですね。国防力を強化するどころか、それを行使する意思があるのかさえ疑わしい。

日本でも、こんな発言が飛び出してくる。

確かに奥山氏の指摘するとおり、トランプ大統領の言動が「仮想オフショア・バランシング」を生み出しているといってよいのではないかと思いますね。


4.パンダハガーの巻き返しはあるか

では、トランプ大統領は全て計算づくで同盟国にオフショア・バランシングを仕掛けているのか。

イギリスのシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック前アメリカ本部長は、今回のトランプ発言について、次のように述べています。
奇妙なタイミングです。ブルームバーグの報道はトランプ氏が公に言ったものではありません。私的な会話の中でトランプ氏が不平を漏らしていたことが報じられました。そこで問題になってくるのは、なぜいま3人の情報源が記者に話したかです。

おそらくトランプ氏がG20サミットで訪日する準備をしている時に不平を改めて漏らしたからでしょう。ブルームバーグの情報源がそれを聞いた時、おそらく彼らはネガティブに反応し、それ(日米安保の破棄)は非常に悪い考えであることをトランプ氏に理解させる手段としてマスコミに話したのでしょう。

トランプ氏は日本にプレッシャーをかける良いタイミングと考えたとか、安倍首相の憲法改正を後押ししようと考えたとかというようなことはありません。トランプ氏はこうした重要なディテールを考えることはありません。彼の不平にいかなる種類の戦術的なロジックを関連付けることも大きな誇張になるでしょう。
フィッツパトリック氏は、安保破棄発言の報道がこのタイミングで行われたことに違和感を覚え、3人の情報源が安保破棄はよろしくないとトランプ大統領に忠告する意味で記者にリークしたのだ、と述べています。

けれども、そういう"善意"の解釈も成り立つ一方、同じく"悪意"の策略も在り得ることには注意が必要です。

経済評論家の渡邉哲也氏は、トランプ発言について「パンダハガーの日米離反工作でしょう」とツイートしています。

パンダハガーとは「パンダを抱く人」という意味の英語ですけれども、転じて、親中派という意味でも使われます。

政治の世界では、中国に覇権という野望が無い(だから協調しよう)というのがパンダハガーで、長らくアメリカ政界で力を奮っていたとされています。

中国問題に詳しい軍事アナリストのリチャード・フィッシャー氏によると、アメリカの外交政策というのは、キッシンジャーのように中国の軍事動向に甘い見方をする"パンダハガー"のグループと、中国は警戒すべき国で軍事的覇権を狙っている。彼らとは共存できないし勢力をそがないといけないという"ドラゴンスレイヤー"のグループとに分かれているのだそうです。

トランプ政権になってその"ドラゴンスレイヤー"たちが、対中政策に影響力を発揮するようになり、相対的に"パンダハガー"の力が落ちたとも、ワシントンから消えたとも言われています。

けれども、仮に"パンダハガー"がワシントンから排斥されたのだとしても、彼らの存在そのものが消え去った訳ではないでしょう。巻き返しを図って水面下で工作することは十分考えられます。

ブルームバーグの記者に漏らした3人の情報源が"パンダハガー"であるとは言いませんけれども、トランプ大統領の日米安保の片務性に不満を漏らした発言に被せる形で何故か「日米安保破棄」の記事が流れ、共産党と琉球新報がそれに乗っかる形でバンドワゴニング発言をする。

マーク・フィッツパトリック氏ではないですけれども、ちょっとタイミング的に出来過ぎてだし、安保破棄に真っ先に賛意を示したのが共産党と琉球新報という時点で怪しさ満載です。

今回のブルームバーグ記事がフィッツパトリック氏がいうように、日米安保破棄なんてとんでもないとトランプ大統領に警告するために、あんな記事を出したのであればよいですけれども、逆であったら、パンダハガーがその裏で暗躍している可能性も考えておくべきではないかと思いますね。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック