今日もこの話題です。


1.トランプの愚痴
7月19日、トランプ大統領は韓国の文在寅大統領から、険悪化する日韓の紛争で仲裁に入ってほしいと頼まれたことを明らかにしました。
トランプ大統領は記者団に対し「『なんと沢山の事に私は関わらなくてはならないのか、と私は言った……北朝鮮問題に関わっているし、いろいろたくさんの問題に関わっている。韓国とは素晴らしい貿易協定をまとめたばかりだ。だが文氏は、貿易面で多くの摩擦が起きていると私に言ってくる」と述べました。
そして、「日韓の問題に関わるのはフルタイムの仕事をするようなものだ……ただ両首脳とも私のお気に入りだ。文大統領のことは好ましく思っている。安倍首相に対して私がどう感じているかはお分かりの通りだ。彼もとても特別な男だ……彼らが私を必要とするのであれば、力を貸そう……彼らがうまく解決できると期待している。だが緊張があるのは確かだ。疑いの余地はない。貿易を巡る緊張だ」とも述べています。
もうこのコメントだけで、トランプ大統領のウンザリ感が見て取れます。日韓の問題に関わるのは「フルタイム」だなんて、持ち時間の全てを使っている、これ以上煩わせるなと言わんばかりです。
また、「彼らが私を必要とするのであれば、力を貸そう」というコメントも日韓両国が求めてきたら、動かないではないということであり、韓国だけが泣きついても相手にしないということです。
文大統領は今回の日本による優遇措置除外への対策として、アメリカ、WTOなど外交圧力と、脱日本依存を上げていましたけれども、その片方の柱であるアメリカの仲裁は殆ど門前払いといっていいでしょう。
WTOへの提訴については7月9日、WTOの物品貿易理事会で日韓の応酬がありました。韓国の白芝娥・駐ジュネーブ国際機関代表部大使が「対象は韓国だけで、WTOの規定に反している……世界全体の産業に悪影響を与える」などと批判すると、日本の伊原純一駐ジュネーブ国際機関政府代表部大使は「日本の措置は禁輸ではなく、安全保障上の輸出管理を適切に実施するものだ」とし、簡素化していた措置を通常に戻しただけだと反論しています。
WTOの紛争解決の小委員会設置には、その前に二国間の協議が必要であるため、韓国が執拗に協議を迫っているのを日本が拒否している状況です。それに、たとえ小委員会が設置されたとしても結論が出るのは数年後の話で即効性は期待できません。
それ以前にWTOに対し単独拒否権を持つ米国が委員の認定を拒否しているために12月には、WTOの機能も囁かれています。韓国がWTO提訴で勝つには相当険しい道のりです。
2.断末魔のサムスン
では、もう一方の脱日本依存はどうかというとそれも芳しくありません。サムスンやSKハイニックスは日本産フッ化水素の代替品として、国内企業製品を含め中国と台湾で生産したフッ化水素をテスト中だとしていますけれども、半導体ウェハの拡散は一ヶ月から一ヶ月半程度かかりますから、結果が出るのは早くて8月末ですし、日本製程の純度は期待できません。
現状、韓国産フッ化水素はおおむね97%の純度しかなく、99.99%以上の高純度フッ化水素を生産出来る企業が一部あるものの極少量しか生産できない上に、日本企業の支援を受けて生産しているレベルだと言われています。
半導体製造に求められるフッ化水素の純度は99.999%(通称:5N=ファイブナイン)以上であり、日本製のそれは99.9999999999%(通称:12N=トゥエルブナイン)あるとされています。
7月18日、SKハイニックスを系列会社に置くチェテウォン会長は「国内の中小企業もフッ化水素を作っているが、半導体製造工程に必要なフッ化水素の大きさや分子構造などはすべて違う」とコメントしていますけれども、それくらい「モノが違う」ということです。
そこに、97%だか99.999%のフッ化水素を使っても、歩留りが相当悪化すると容易に予想できますし、折角日本製で最適化した生産ラインも新たな不純物汚染対策が必要となります。
従って、仮に国産のフッ化水素で製造出来たとしても、採算が取れるかとなると相当厳しいのではないかと思いますね。
国産化が難しいとなると、入手先の多角化となりますけれども、これも難しい。
サムスン電子とSKハイニックスは第三国を経由した迂回輸入での日本製材料調達も模索していましたけれども、経産省が流通段階で最終終着地「エンドユーザー」を確認して対韓国輸出を管理することが明らかになり、「第三国経由の迂回輸入」も難しいという結論を出しています。
先日、サムスンがメモリを減産するかもしれないと報道され、サムスンが根も葉もないと否定していましたけれども、韓国の「コリアヘラルド」の業界情報筋によると、アップルやアマゾン、マイクロソフトやGoogleといったアメリカの大手IT各社は、それぞれ役員および従業員を韓国に派遣。サムスンの次世代DRAMチップの生産スケジュールをチェックしたとしています。
要するに業界は、日本の輸出管理の優遇撤廃措置により、サムスンの生産能力が落ちるのではないか懸念しているということです。
今は、まだ輸出管理の優遇撤廃されているのが3品目だけですけれども、ホワイト国指定から除外されると、対象も大幅拡大し、その数は40品目とも1000品目以上とも言われています。
実際、サムスンはそういう事態を予測してか、協力企業に公文書を発送し、日本製品の90日分の在庫を持つように要請しています。
その文書には「日本政府が追加で『ホワイトリスト』から韓国を除外することを検討している。費用がかかっても在庫確保が最優先という状況で、7月末まで(いくら遅くとも8月15日前)には90日以上の安全在庫を確保するようを望む」と記され、在庫確保に必要な費用まで会社がすべて負担する条件まで掲げています。
更に、文書では「韓国がホワイトリストから除外されれば日本企業の韓国向け輸出品目別の個別許可対象が拡大される可能性が相当ある」としています。まぁ、かなりの確度でそうなると見ている訳です。
一部には、次の優遇除外対象品目として、積層セラミックコンデンサ(MLCC)があるのではないかとも言われていますけれども、コンデンサとなると、様々な分野で当たり前のように使われている材料です。スマホから何から、数百、数千の単位で使用される部品です。
筆者は「産業のコメ」どころか「産業の水」くらい重要な産品ではないかと思っています。
サムスンは90日の在庫を確保するように動いていますけれども、90日は個別輸出許可の最大審査機関であって、出荷許可を保証するものではありません。
仮に、コンデンサが個別許可対象となり、フッ化水素と同じく一部が行方不明になっていたなんてことがあれば、行方が明らかになるまで、出荷停止となる可能性は否定できません。
そうなったときは、フッ化水素以上のダメージをサムソンは受けることになるでしょうね。
3.瀬戸際外交のリスカブス
7月18日、韓国大統領府の鄭義溶・国家安保室長が文大統領が開いた韓国国会の与野党5党の代表者会議の場で「今はGSOMIAを維持する立場だが、状況によっては再検討もありえる」と語っていたと報じられています。
GSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)とは、同盟など親しい関係にある2国あるいは複数国間で秘密軍事情報を提供し合う際、第三国への漏洩を防ぐために結ぶ協定で、軍事技術だけではなく戦術データ、暗号情報、高度のシステム統合技術など有事の際の共同作戦に必要な情報および秘密情報活動で得られた情報も対象です。
日本と韓国は、2016年11月23日にGSOMIAを結んでいます。日韓の間でGSOMIAを介した情報交流は2016年に1件、2017年が19件、2018年が2件あり、特に北朝鮮の弾道ミサイル情報の共有に活用されたようです。
GSOMIAは1年ごとに更新することになっているのですけれども、どちらかの国が延長を望まなければ期限満了の90日前に知らせなければならないことになっています。今年の通知期限は8月24日となっています。
峨山政策研究院のシン・ボムチョル安保統一センター長によると、アメリカはGSOMIAを日米韓安保協力の基盤と認識していて、GSOMIA延長を拒否するという国を3ヶ国安保協力の枠組みを破る国と見なすだろう、とコメントしています。
実際、先日アメリカを訪問した外交部代表団に、アメリカ政府関係者が「GSOMIAが揺らぐようなことがないようにしてほしい……経済分野の葛藤によって、いかなる場合にも安保分野がクロスコンタミネーションになってはいけない」と話しています。
それがあって尚、韓国はGSOMIAの破棄をチラつかせた。何故か。
大統領府報道官は今回の鄭・国家安保室長の発言について、「協定維持を原則とする基本的な立場からの発言だった」と説明していますけれども、実際は日本政府の対韓輸出管理見直しで追加措置が取られるのを牽制し、外交カードに利用しようという思惑があったとも観測されています。
まぁ、そうでしょうね。
なぜなら、日本の対韓輸出管理見直しの撤回を求めて、アメリカに仲介要請するも、トランプ大統領に袖にされ、サムスンがアップアップしているように、国産化の道も険しいことが分かった文大統領にとって、最早残るカードがそれくらいしかないからです。
GSOMIAを破棄するぞといって、アメリカに仲裁させようという腹でしょう。要するに瀬戸際外交だということです。
けれども、これは策としては下の下です。
国際政治学者の藤井厳喜氏は「韓国の防衛は、日米の協力があってこそ機能する。韓国政府が『GSOMIAがいらない』とチラつかせただけでも、突出した『親中・親北』発言といえる。アメリカの韓国への不信感はさらに増す。『米韓同盟の消滅』に一歩も二歩も近付いた。アメリカと北朝鮮が接近するなか、トランプ政権はさらに韓国を突き放すだろう」と語っているとおり、アメリカを激怒させるだけで、期待した効果は出ないだろうと思われます。
先月、作家の岩井志麻子氏が関西テレビのバラエティー番組「胸いっぱいサミット!」で、韓国人の気質について、「この間も言いましたけど、とにかく『手首切るブス』みたいなもんなんですよ。手首を切るブスという風に考えておけば、だいたい片付くんですよ……『来てくれなきゃ死んじゃうから、死んだらあんたのせいだから』って言って、中国とか北朝鮮は『死ねば』と言っちゃうけど、日本は『そんなこと言うなよ、お前のこと好きなんや』……」と発言して話題になっていましたけれども、
韓国が、日本の輸出管理見直しを撤回させようとGSOMIAの破棄をチラつかせるところなど、まさに「撤回させてくれないと死んじゃうから、死んじゃったら、アメリカのせいだから」と手首を切ろうとしているように見えて仕方ありません。
けれども、ここでアメリカが中朝みたいに「死ねば」といってくるかもしれない可能性を考えているのか分かりませんし、日本とて最早「お前のこと好きなんや」といえる状況ではありません。
まぁ、散々、手首を切る振りをしてから「やっぱり辞める」となるかもしれませんし、本当にGSOMIAを破棄するかもしれませんけれども、どちらにせよ、今回に関しては"リスカブス作戦"は通用しないと思いますね。
この記事へのコメント
ばる
WTOの機能不全? 機能停止?