今日はこの話題です。


1.参院選結果
7月21日、第25回参院選の投開票が行われました。
結果は当初の下馬評通り、与党は、自民57議席、公明14議席の計71議席で普通に勝利。ただし、投票率は選挙区で48.8%と24年ぶりに50%を割り、前回2016年参院選の54.7%を約6ポイント下回り、戦後最低の1995年に次ぐ、2番目の低さとなりました。
安倍総理は今回の参院選の「勝敗ライン」を自公で計53議席と設定し、自公幹事長は改選過半数の63議席と設定していたのですけれども、それら目標は二つとも軽くクリア。
改選数1の32選挙区についても、2016年の前回参院選の21勝を上回り、22勝10敗。安倍総理は2012年以来、大型国政選6連勝です。
ただ自民は公示時改選66議席からは9議席減らし、公明が公示時改選11議席から3議席増やし、与党は差し引き6議席減。自公と日本維新の会をあわせた憲法改正に前向きな改憲勢力は81議席と、憲法改正の発議に必要な参議院全体の3分の2である164議席は維持できませんでした。
ということで、筆者的には政権維持のためのラインはクリアしたとはいえ、大勝といえるかどうかは微妙なところだと思います。

2.若年層の現実的な選択
今回の参院選について、朝日新聞は出口調査の分析から、比例区投票先で、自民が30代以下の若年層の投票を増やしてきたと報じています。
30代以下で自民に投票した人を時系列で見ると、2007年には21%だったのが、2013年に37%、2016年が41%と伸びています。逆に60代以上となると、2007年に34%あったのが、2013年、2016年と下がり30代以下のそれと逆転しています。
一方、民主系は30代以下で2007年に48%あったのが急落。第2次安倍内閣以降は10%台と低迷しています。
時系列でみれば、2007年から2012年までの間に投票行動の大きな変化があったことが読み取れるのですけれども、この期間に何があったのかというと、それはもう言うまでもない、民主党政権です。
この現象について、東洋大学教授の薬師寺克行氏は、若い世代の自民党支持が高いという現象は、2012年の民主党混乱の頃に起こり、これまで継続しているとした上で、若い世代は、民主党政権の無残な失敗から、彼らの無責任な姿しか記憶に残っていないと指摘しています。
そして、大学の学生達に自民支持の理由を聞き、彼らの言葉を纏めると次のようになると述べています。
「民主党政権の失敗の記憶は強く残っている。今回の総選挙には希望の党などいくつもの新党が登場したが、きちんとした政策もなければ経験もない。そんな政党が政権についていいのだろうか。失敗したら民主党と同じように無責任に投げ出してしまうのではないかと思ってしまう」
「自民党には実績と経験、安定感がある。それに対し野党は頻繁に分裂したり、有権者の気を引くために政党名を変えたりしている。目の前には財政再建問題や少子高齢化、社会保障制度の見直しなど重い問題が控えている。こういう課題を新党に任せられるとはとても思えない。だから消極的選択ではあるが、自民党しか選べない」
さもありなん。やはり悪夢の民主党政権の傷跡はそれだけ深いということです。
薬師寺氏は、今の若い世代に保守とか革新などというイデオロギー的な意識は全くなく、問題を解決できる実務能力のある安定した政治という「現実的」選択をしている。従って、有名人を掲げてできた新党などは否定すべき対象でしかないと厳しく批判しています。
ネットが浸透し、国会の様子や政治家本人の声がダイレクトに拡散する時代であることを考えると、何でも反対し、絵空事しか言えない抵抗野党への支持は増々先細っていくのではないかと思いますね。

3.ワンイシューとワンフレーズで勝利したNHKから国民を守る党
筆者は、7月15日のエントリー「参院選動向と注目政党」で、筆者が参院選で注目したいと述べた政治団体に「NHKから国民を守る党」と「幸福実現党」を挙げましたけれども、結果は「NHKから国民を守る党」が滑り込みで1議席を獲得。「幸福実現党」は議席を獲得できませんでした。
件のエントリーでは両党の地方議員がほぼ同数であることから、その結果に注目していたのですけれども、政党得票数では天地の差となりました。
NHKから国民を守る党は、政党得票総数:975,151票で1.97%だったのに対し、幸福実現党は200,701票で0.40%です。ほぼ5倍の差となっています。
なぜこんなに差がついたのか。
NHKから国民を守る党は97万票と社民党の104万票に匹敵する得票を得ています。けれども、NHKから国民を守る党は、社民党程の歴史も組織もなく、またその規模から考えて、組織票で97万票も取れる力ありません。
また、れいわ新選組の山本太郎代表のように、ある一定の知名度と人気を持つ現職議員が居る訳でもありません。したがって、それだけの無党派層を多く取り込んだからという理由以外には考えにくいでしょう。
文筆家の古谷経衡氏はNHKから国民を守る党が議席を獲得した理由として、ノリで投票する「政治的非常識層」がいたからだ、と述べていますけれども、筆者はそうは思いません。
むしろ、「政治的常識」を持った層が冷静な計算のもとにNHKから国民を守る党に投票したのではないかと考えています。
勿論、NHKから国民を守る党の演説や政権放送は奇抜なとこがあったものの、良く練られたもので、視聴者の記憶に残るよう工夫されたものであったと思います。政見放送でも、話している文脈とは関係なく、いきなり「NHKをぶっ壊す」というフレーズを所々に差し込んでくるあたり、演説の内容と関わりなく、必ず「それにつけてもカルタゴ滅ぶべし」の文言で締めくくった、ローマのカトーを彷彿とさせるものがありました。
それ以外にも、ネットを積極的に使った広報など細々としたテクニカルなものも勝利に貢献したであろうとは思いますけれども、最大の要因はそれではない。
NHKから国民を守る党が無党派の票を集めた最大の理由は、NHKから国民を守る党が掲げる政策が「NHKを壊す」という非常に分かりやすい、「ワンイシュー」の政策であったからです。
先に紹介した東洋大学教授の薬師寺克行氏が指摘しているように、今の若者は問題を解決できる実務能力のある安定した政治を選択しています。けれども、「ワンイシュー」に限ってみれば任せてもリスクは少ない。それ故に票を投じるハードルが低かった。それが大きな理由だと思います。
要するに、「新党に国政全部を委ねるのはリスクがあり過ぎるけれども、ワンイシューであれば、万が一彼らに実務能力がなかったとしても、そのイシューが実現しないだけで、全体の被害は少ないはずだ。だから投票しても大きな問題にはならないだろう。そのワンイシューが実現すれば儲けもの。そうなったら、お役御免で次は投票しなければいい」。そういう冷静な計算が働いていたのではないかと思うのですね。だから票が集まった。
4.幸福実現党は信用と実力を積み重ねよ
一方、幸福実現党は、国政を担うだけの質と量を持った政策を出している。けれども、彼らの実務能力については未知数である。またぞろ民主党のような政治をされては堪らない。そうした心理が働いていたのではないかと思います。
これはある意味、地方議員と国会議員との違いにも似ています。町議会議員だとか、市会議員とかのレベルであれば、たとえ失敗しても、国そのものが傾くリスクは少ないけれども、国会議員となると話は変わってくる。民主党政権で痛い目を見ている以上、国政を担える実力があるかという点において、有権者は相当厳しい目を向けている。それが現実ではないかと思うのですね。
筆者は2011年5月のエントリー「自民党と幸福実現党の連携戦略」で、幸福実現党が本気で政権を狙うのであれば、自民党と政策連携しながら、自民内部の勉強会なり何なりにどんどん参加して、官僚と面通ししながら、実地で官僚を使いこなす力を養うべきだ。そうして党としての信用をつけるべきだ、と述べたことがあります。
これも、幸福実現党に国政を担う力がないと世間から思われているのを払拭する手立ての一つとしてエントリーしたものです。
また、2014年5月のエントリー「幸福実現党はなぜ勝てないのか」では、幸福実現党が支持を集める為には、車のセールスマンよろしく、有権者のニーズを拾いつつ、政策を理解して貰う努力を重ねて、信頼を得ることが大事だ、と述べたことがあります。
これも、政党および候補者個人の信用を得るために、まだ足りていないと見えたことについて述べたものです。
今振り返ってみても、大枠ではこの構図はまだ変わっていないように思います。
政策がいくら良くても実力がないと思われているうちは、民主党の二の舞になるからと敬遠される。逆にいえば、国政を任せても悪いようにはしないと思われるだけの信用と実力がある候補者を立てることが出来れば、可能性が出てくるとも言えます。
ただ、希望があるとすれば、昔と違って、地方議員が誕生しています。これはNHKから国民を守る党の「ワンイシュー」ではないですけれども、「ワンプレイス」では支持が集まっているということです。この「ワンプレイス」から「オールジャパン」を任せてよいと思われるだけの信用と実力を備えることが出来るか。やはりそれが鍵になってくるのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
匿名
故に政権を取ったとしても、特定の思想・信条の集団独裁になるだけです。
現に共産党は組織内に外部からの登用もなく、開かれた組織でもありません。
N国党もまだ、立花氏の個人政党のようなもので、組織化されて閉じられたカルトになれば、
若者や無党派層(特定の支持する思想を持たない)は離れて行くでしょう。
N国党で言えば、NHKへの疑問が国民レベルで起こる萌芽であり、放置すれば既存政党が
やましい何かを隠していると、疑われるまで追い込まれかねないと感じます。
組織を作るには、宗教や労働運動、問題意識で纏まるのが必要ですが、ある程度まで成長
したら、外部からの参加を得て、総合力を培わなければ政党として伸び悩むでしょう。
その意味では、既得権益化して身内の人材だけで回している政党は、政策力で脱落します。
世論の動きを読めないからです。今の野党がそれに当ります。
公明党、共産党も地方首長までは、手が届きますが、国政では仲間作りに限界があります。
幸福実現党も母体を棄て、国民政党に脱皮できないと、共産党止まりかなと思います。