韓国の片道ワントラック外交とアメリカの仲介提案

 
今日はこの話題です。

アメリカが日韓一時休戦の提案をしたというロイター記事が話題になっているようですけれども、これについては3章と4章で触れたいと思います。

画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
画像「妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え」連載中!


1.GSOMIAに揺れる文政権

7月30日、韓国外交部の康京和長官は国会外交統一委員会の全体会議で、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長について「政府は現在さまざまな状況について見守っており、現時点では協定を維持する立場だ……状況の展開によって検討する可能性もある」と述べ破棄の可能性について示唆しました。

これに対し、野党「民主平和党」が政府がすぐにでもGSOMIA破棄の意志を明確に公表すべきだと畳みかけると「政府の意志は固く、確実だ……ただ、韓国政府の立場を状況によっていつどのように伝え、発表するかは戦略的思考が必要だ」と明言は避けました。

また、民主党の崔宰誠・日本経済侵略特別委員長は会見で「GSOMIAの前提は両国間の信頼だ。信頼が崩れたのに、どうやって安全保障に関連する協定を維持できるのか……ホワイト国から排除する状況でGSOMIA延長に同意できないということを明確にすべきだ」とています。やはり、韓国野党は、ホワイト国排除を撤回させるカードとして使うべきだと文政権にプレッシャーを掛けているようです。

では、文政権はGSOMIA破棄で動いているかというと、一応ブレーキを掛ける動きもあります。

同じく30日、与党・共に民主党の李・ヘチャン代表は、国会での定例記者懇談会で「韓日は感情があっても隣国だ。別れることができない隣国であり、感情があってもうまく付き合って共存できる関係を結ばなければいけない」と主張しました。

李代表は党内で東京オリンピックボイコットの動きがあることについて「せっかくアジアで五輪が開催されるのに、それに党レベル反対してはいけない。経済対策は経済対策として対応しなければならず、外交は外交、文化・スポーツは文化・スポーツとして併行しなければいけない」とし、GSOMIAの見直しについても「GSOMIAは北東アジア平和のために必要だと考える……最近、日本の輸出規制行為などのため経済交流もまともに行われない中、軍事情報交流などとんでもないという主張もある。総合的に考慮して慎重に判断しなければいけない問題」と指摘しています。

GSOMIAは2016年11月に結ばれて以来、1年ごとに更新され。いずれかが破棄を事前申告しない限り、自動延長される取り決めになっています。今年の申請期限は8月24日ですから、いくら韓国の康京和外相がコメントした”戦略的思考”を発揮しようがしまいがあと一ヶ月程で答えを出さなくてはならないわけです。

GSOMIAについて、日本は維持の立場を取っています。

7月29日、菅官房長官は記者会見で「日韓関係は厳しい状況にあるものの、連携すべき課題はしっかり連携することが重要だ。適切に対応する」と述べていますし、岩屋毅防衛相も「我が方から破棄する考えは全くない。安全保障ではしっかり連携していく」と強調しています。

防衛省幹部も「通常は破棄は考えられない」と述べていますけれども、防衛省内では「経済と安保はこれまで別問題として扱ってきた」との声がある一方「今回は国防当局の関係断絶にまで至る恐れがある」との懸念する向きもあるようです。

実際、2018年12月の火器管制レーダー照射問題以来、日韓の防衛交流は中止が相次いでいますし、6月に行われた岩屋防衛相と韓国の鄭景斗国防相とのシンガポールで非公式の会談でも互いの主張が平行線を辿り、事態打開には至りませんでした。


2.片道ワントラック外交

日韓関係悪化の影響は民間にも及んでいます。

日本製品の不買運動は依然続き、夏休みを利用した旅行や、学生の修学旅行や民間交流の中止なども相次いでいます。7月28日、韓国の釜山市は「日韓関係が改善するまでの間、日本との行政交流を中断する」と発表しました。

日本は不買も民間交流中止などしておらず、韓国が一方的に日本から離れていっている形です。

7月23日、河野太郎外相は記者会見で「政府間難しい問題に直面している……こういう時期だからこそ、国民の交流がしっかり続けられることが、非常に重要だ」と述べていますけれども、韓国側に交流中止は止めようという動きは見られません。

これについて韓国事情に詳しい文筆人の但馬オサム氏は、「日本側の毅然とした態度に韓国は縮み上がっているのでは。上か下か、善か悪か、被害者か加害者かの二元論しかない韓国人との交渉で、あいまいな態度や忖度は相手をつけ上がらせるだけ。本来は河野大臣のような原則重視の断固とした態度で臨むべき。日韓国交正常化から50余年、ようやく日本外交は学んだということでしょう……韓国はすべての原因が自分たちにあることを知りながら、いや、知っているからこそ、論理をすりかえ、日本を非難している。戦犯という言葉はあっても“戦犯国”という言葉も概念も国際法理の世界には存在しません。韓国は"経済戦犯国"という新しい造語まで持ち出して、お得意の"被害者マウント"を取りに来ているわけです」と指摘しています。

こうした中、韓国側は文在寅大統領が29日から予定していた夏休みを取りやめると発表し、李洛淵首相も休暇返上を表明したのですけれども、首相関係者は「日本関連の問題を取り仕切ってきたため、責任を持って日本との接触を続けるようだ」とコメントしています。

けれども、それで何をやるのかといえば、WTOやRCEPで"声闘"したり、アメリカに仲裁を懇願したり、日本にGSOMIAを破棄するとか、不買とか民間交流の中止とかいって脅すか協議しようと持ち掛けて一方的な妥協を求めるだけ。

外交的解決といえば聞こえはよいかもしれませんけれども、その中身は圧力を掛けて相手に自分の言うことを聞かそうとしているだけに過ぎません。

文在寅政権は、「未来志向」だとか、「ツートラック外交」だとかいって日本との協議を求めますけれども、その本当の姿は「過去志向」であり「片道ワントラック外交」です。

日韓請求権協定、慰安婦合意を反故にして、何度も謝罪と賠償を求め、「ホワイト国」除外という経済問題についても、GSOMIAなどの安保問題、民間交流にまで波及させて日本に譲歩を迫る。

文在寅政権の外交はツートラックでも何でもなく、レールが一本しかないワントラック。しかも相手に求めるだけで自分は何もしない片道のトラックです。

GSOMIAの維持を表明し、民間の交流を続けるべきだとする日本の方がよほど「ツートラック外交」をしています。

まぁ、先に述べた与党・共に民主党の李・ヘチャン代表のように、経済問題を安保や民間・スポーツに波及させるべきではないと「ツートラック外交」を説く議員もいますけれども、彼の意見が取り入れられるような文政権であれば、とっくにそうなっている筈です。

つまり、韓国の「未来志向」とか、「ツートラック外交」というのは、何のことはない、自分に都合のよい口だけのものにしか過ぎないということです。

韓国は対韓輸出規制撤回を求めて、また議員団を派遣するようですけれども、日本側は碌に相手しないようです。

日韓関係の改善は、やはり韓国が"被害者ポジション"を取ることを止めない限り、最早有り得ないと思いますね。


3.アメリカの仲介報道

そんな中、ロイター通信の報道を共同通信が翻訳掲載する形で、日本による対韓輸出規制強化など一連の日韓対立を巡り、アメリカのポンぺオ国務長官が現状を維持し新たな措置は取らない状態で交渉する協定への署名を求める仲介案を提示したと報じています。

これについて、菅官房長官が7月31日の定例記者会見で「指摘のような事実はない」と否定していますけれども、仮にそれに類するものがある、又は、あったと仮定して、その内容と狙いについて、考えてみたいと思います。

まず件のロイターの報道なのですけれども、翻訳された報道では、元徴用工裁判問題と日本による輸出規制措置に関する一時休戦協定についてしか記されていません。けれども、原文には、翻訳されていない2つのパラグラフがあります。

その一つは、8月24日に日韓包括軍事情報保護協定(GSOMIA)の更改期限が到来することと、もう一つは8月15日に予定されている韓国の文在寅大統領の第二次世界大戦に関する演説に注目しているということです。

前段で述べている一時停戦協定と、翻訳されていないGSOMIAと8月15日の演説との間には、一見、繋がりはないように見えます。なぜ態々こんな文章をくっつけているのか。

アメリカが提案したという一時停戦協定については、ロイターとは別にブルームバーグも報じています。

こちらの方はロイターよりもう少し詳しいのですけれども、アジア諸国が、ワシントンに高官を派遣して、アメリカの議員や政府高官と面談しようと、アメリカのメディアおよび企業幹部に働きかけているとか、日韓の貿易戦争が世界のサプライチェーンをさらに妨げるだけだ、とか韓国よりの主張が目立ち、日本については自分の立場を主張したとあるだけで、戦略物資の輸出管理の問題だという肝心の部分についての記載は見られません。

ただ、大枠の内容については、ロイターもブルームバーグも同じです。


4.日本は揺るがない

では、仮に、ロイターが報じたアメリカの一時停戦協定の提案が内々にあるとして、その狙いは何か。

ここからは筆者の単なる想像(妄想)に過ぎませんことを先にお断りしておきますけれども、やはりGSOMIA絡みではないかと思います。

先日ボルトン補佐官が韓国を訪れ、韓国の次期防衛費分担金総額として従来の5倍にあたる50億ドル(約5400億円)を要求。しかもビタ一文負けられないと通告しました。これは見方によっては最後通牒にも等しく、協定を決裂させることで、在韓米軍を撤退させる口実にするのではないかとみる向きもあります。

けれども、仮にそうだとしても、今日、明日に撤退できる訳ではありませんから、半年なり1年なり、ある程度の時間が必要です。その為には、今回に限ってはGSOMIAを延長させておく必要がある。

そのため、今回のGSOMIAを延長させる目的で、日本に対して、8月2日に予定されている韓国の「ホワイト国」除外の閣議決定を暫く延期できないかと要請するかもしれないということです。

勿論、単なる延期では日本が丸損になります。なにより4万件のパブコメと9割を超えるホワイト国除外の賛成があります。日本とて「はいそうですか」と聞く訳にはいきません。

そこで、アメリカは日韓に次の提案をした、或いはするのではないかと妄想しています。
a)韓国は日本が要求している元徴用工判決を巡る請求権協定の協議に応じること
b)韓国は日韓請求権協定の正当性を認め、それを内外に宣言すること
c)日本は韓国がb)を行う前提において、a)についての協議が行われている間、または解決するまで、ホワイト国除外措置を延期すること
これであれば、ロイターが原文報道で8月24日がGSOMIAの更改期限であることと、8月15日の文在寅大統領の演説に注目しているという謎のパラグラフが追加されている説明がつくように思います。

だとすると、7月29日、外務省が突然、日韓請求権・経済協力協定の締結を巡る交渉過程を記録した外交文書を公開したことも別の意味を帯びてきます。

それは、「悪いのは、一方的に協定破りをしている韓国であって、日本に非はない。妥協するしないの話ではないのだ。日本の措置は当たり前の事であって、十分な正当性があるのだ」ということを事前にアメリカに釘を指す狙いがあったのではないかということです。

無論、これらの動きはその内容からして外務省主導ではないかと思われます。あるいは、主導権を経産省に奪われたのを何とか巻き返したいと思っているのかもしれません。

仮にアメリカの仲介案を飲むとしても、外務省、経産省との調整が必要であり、最終判断は官邸に委ねられる案件です。

一方、文在寅政権にしてみれば、上述のa)とb)ですら、韓国世論を考えると、ハードルの高い条件でしょうし、仮に協議を行ったとしても、またぞろ日韓の企業から基金を出して云々などという案を出そうものなら、即決裂は目に見えています。

一番、韓国がやりそうなのは協議に応じるフリをして延々と時間稼ぎをしてくることでしょうね。

8月1日にタイで日韓外相会談、翌2日には米韓両国との3ヶ国外相会談が行われると報じられていますけれども、もしもその場で、アメリカからの仲介案なるものが提示され、日本が受け入れるのであれば、期限を切ることを絶対条件にすべきかと思います。

例えば、GSOMIAの自動更新の期限である8月24日までは停戦するが、そこまでに決着しない場合は、即、ホワイト国除外措置を行うくらいにしておかないと、今度は安倍政権と自民党自身が危うくなる危険があると思います。

一応、日本政府関係者によると、いまのところ、アメリカから仲介案が示されても受け入れず、8月2日の閣議決定を目指す方向で調整していると報じられています。

どうやら妄想で済みそうですね。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック