安倍とトランプの連携プレーと三重の戦略

 
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7月2日、菅官房長官は閣議後の記者会見で、韓国への半導体材料の輸出規制について「自由貿易体制の逆行、世界貿易機関(WTO)協定違反との指摘はあたらない……」と述べ、元徴用工訴訟への韓国の対応について「20カ国・地域首脳会議までに満足する解決策が示されなかったことで信頼関係が著しく損なわれた……この状況下で韓国との信頼関係の下で輸出管理に取り組むことが困難……安全保障を目的に輸出管理を適切に実施する観点から運用を見直す」と説明しました。

今回の輸出規制措置について、韓国との信頼関係が損なわれた理由の一つに元徴用工訴訟に関する韓国の対応があったと認めた形になりますけれども、それ以上に注目すべきは、輸出規制を行う目的が「安全保障」にあると明言したことにあると思います。

つまり、元徴用工訴訟の韓国の対応は信頼を損なわせた理由に過ぎず、規制はあくまでも「安全保障」のためだということです。

今回の措置について、一部では、北朝鮮の瀬取りに韓国が関与している疑いがあり、その為の対応だという指摘もありましたけれども、その説の信憑性が増々高まったようです。

今回、経済産業省が韓国への輸出規制を強化した品目として、「フォトレジスト(PR)」と「フッ化水素(エッチングガス)」、「フッ素ポリイミド」の3品目が注目されていますけれども、この中のフッ化水素は、ウラン精鉱から六フッ化ウランを製造するいわゆる「転換」工程に使用されます。

六フッ化ウランは、ウラン精鉱から二酸化ウラン、四フッ化ウランを経て製造され、具体的な製造方法は4種類あるようです。問題のフッ化水素は、の上述の四フッ化ウランを製造する際に使用されます。

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北朝鮮が瀬取りでこれを入手すれば、核開発が継続できるという訳です。一部では韓国に輸出されたフッ化水素は3ヶ月分になるところが、韓国半導体メーカーには1~2ヶ月程の在庫しかなく、その差分はどこにいったのだという疑念の声も上がっています。

韓国貿易協会によると、今年1~5月の時点で、フォトレジストとフッ化水素(エッチングガス)の輸入全体のうち、対日輸入依存度は、フォトレジストが91.9%、フッ化水素(エッチングガス)が43.9%、フッ素ポリイミドは93.7%に達しています。殆ど、おんぶに抱っこです。

韓国の製造業界では、日本政府の輸出規制は、単に「輸出許可手続きによる時間遅延」に止まるか、それとも「輸出許可を与えず、物量自体が減少するのか」によって、波及効果が変わると囁かれています。

アン・ギヒョン半導体協会常務は、「半導体生産・開発競争が激しく進行していることを考えると、輸出許可を受けるために90日も時間がかかるのは良くない影響を与える恐れがある……しかし、中長期的な観点から、サプライチェーンを適切に管理し、あらかじめ準備すれば、対応が可能だろう」と遅延だけならなんとかなるとしています。

一方、輸出許可が下りない場合については、かなりの痛手になります。

浦項工科大のユン・ジュンシク博士は、「フォトレジストやフッ化水素は、半導体の生産に不可欠な上、技術力などを勘案すると、短期間で日本製品を代替することも容易ではない……韓国に輸出されている量が減少した場合、半導体の生産量を減らさなければならなど打撃を受けるしかない」と指摘しています。

輸出許可を出さない可能性については、読売新聞が「禁輸」と報じており、その可能性はゼロではありません。その場合は、韓国のサムソン電子はSKハイ二クスといった半導体メーカーが生産量を落とすか、最悪、生産不可能になります。

仮に、今回の措置によって政府が輸出許可を出さない「禁輸」となった場合、その被害は韓国だけでなく、世界の製造メーカにも及びます。なぜなら、サムソンやSKハイ二クス製のDRAMメモリの供給が止まるからです。

取り分け、中国のファーウェイは大きな被害を受けることになります。

5月29日のエントリー「ファーウェイが力尽きる日」で取り上げましたけれども、ファーウェイは、サムスン電子、SKハイニックス、LGディスプレイなど韓国大手企業に出向いて、従来どおり部品供給を続けるように要請しています。

けれども、韓国半導体メーカの生産そのものが止まってしまえば、供給もクソもありません。

6月29日、トランプ大統領はファーウェイに対するアメリカ政府の禁輸措置を見直し、ファーウェイへのアメリカ製品の輸出を認める考えを示しました。

これで、ファーウェイも一息つけるかと思いきや、今度は韓国からのメモリ供給のストップ懸念です。

ファーウェイへの輸出については、グーグルやマイクロン・テクノロジー、インテルなど供給元のアメリカ企業が禁輸措置を歓迎しておらず、トランプ政権も戦略の立て直しを強いられていたこともあり、トランプ政権としてはそれら国内企業に配慮した形です。

けれども、アメリカの元栓が空いたと思ったら、今度は日本の元栓が締まって、韓国という蛇口が開かなくなる懸念が出てきました。

筆者には、トランプ大統領と安倍総理による連携プレーのような気がしてならないですね。

一つにはタイミングが良すぎること。アメリカの禁輸解除とほぼ同時に日本の規制強化発表がされています。おそらくG20での日米首脳会談で最終確認の上そうしたのではないかと思いますね。

もう一つは、今回の措置は官邸主導で行われた節があるからです。

自民党の青山繁晴参院議員によると、韓国のホワイト国除外について、経産省の外務省と経産省が猛反対で「絶対無理です」の一点張りだったのだそうです。

韓国のホワイト国から除外する案が自民党の部会で出たのが今年の1月。そして今回の発表が7月ですから半年近くかかっています。

一部には、今回の措置は5月には決まっていたとの話もあるようですけれども、5月にせよ7月にせよ、数ヶ月の間、ずっと官邸が調整していたのだと思います。

そしてそれをG20まで温存していた。

トランプ大統領がファーウェイへの禁輸解除という手札を切っても、安倍総理が規制強化カードを切ることで、ファーウェイへの部品供給は逼迫したままになりますから、事実上の制裁継続です。

安倍総理は韓国への強烈なメッセージを発すると同時にトランプをサポートしたのではないかと思いますね。

更に細かいことをいえば、規制強化する3品目のうちフォトレジストは現在開発中の最先端プロセスで使用される「極端紫外線(EUV)」を使った最先端のEUVレジストとその原料、関連技術で、サムソンなどが量産している最先端7nmプロセスでは使っていないのだそうです。

つまり、レジストに限っていえば、次世代を睨んで、韓国半導体メーカの技術競争力を削ぎ、国内メーカや台湾メーカをサポートする狙いがあるのかもしれません。

もっとも、EUVレジストを使わなくてもフッ化水素(エッチングガス)は使うので、これがないとやはり製造に支障をきたします。その証拠にサムソンやSKハイ二クスは、日本の供給企業に職員を急派して具体的な規制品目を把握すると共に規制前に可能な限り該当品目の在庫を確保する動きを見せています。

安倍政権が放った今回の一手は、韓国のみならず中国ファーウェイも牽制し、次世代半導体開発競争力の確保をも睨んだ、二重三重の戦略ではないかと思いますね。
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