ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
「妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え」連載中!
1.アンチダンピング協定
9月12日、日本製の空気圧バルブの輸入を巡るWTOの反ダンピング裁定について、朝鮮日報が「WTO反ダンピング紛争判定に韓日いずれも『勝利宣言』」という記事を掲載しました。
内容は題名を見ても明らかなとおり、韓国は「WTOが13点の争点のうち10点について、韓国の立場を支持した」として、韓国の勝利とし、日本は「重要な一つの争点で勝訴し、実質的な勝利だ」としたというものです。
争点となった13件については、WTOの報告書で明らかになっていますけれども、経産省は今回の裁定の判断概要として次の様に公表しています。
2.上級委員会報告書の判断概要アンチダンピング協定とは、その名のとおり、ダンピング防止措置に関するGATT上の協定で、正式名称は「関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定」です。
(1)上級委員会は、下記の日本の主張を受け入れ、韓国によるアンチダンピング課税は以下の点でアンチダンピング協定に違反すると認定し、韓国に対して同国のとる措置をアンチダンピング協定に適合させるよう勧告しました。
①ダンピングによる損害を認定する前提として、日本製品の輸入が韓国産バルブの価格低下圧力をもたらしたのか、適切な説明がなく、アンチダンピング協定第3.1条及び第3.2条(ダンピング輸入による価格効果の立証)に違反する。
(ア)日本製バルブは韓国産より高価・高機能であり、そもそも両者の価格が比較可能かどうか、適切な説明がない。
(イ)韓国産より高価な日本製品の輸入が、元々安い韓国製品の価格にさらに低下圧力をもたらすことの説明が不十分。
②本件措置は、秘密情報の取扱いに不備があり、アンチダンピング協定第6.5条及び第6.5.1条に整合しない。
(2)また、上級委員会は、下記を含むその他の論点に関して、協定整合性の判断を回避したパネルの判断についても、日本の主張を認めて取り消しました。
①韓国が業界全体を調査せず、アンチダンピング調査を申請した二社のみのデータを「国内産業」と認定した点が、アンチダンピング協定第3.1条及び第4.1条に整合しないこと 等
元々GATTは「関税及び貿易に関する一般協定第6条」で他国のダンピングに対して関税を設けるなどのダンピング防止措置を採ってもよいとしていたのですけれども、運用基準が明確でなく,しばしば紛争の種となっていました。それを補完するものとして生まれたのがこのアンチダンピング協定です。
2.勝利したと虚しく強弁する韓国
アンチダンピング協定の条文については、経産省のサイトに公開されていますけれども、WTOが韓国に対し、整合しないとしたアンチダンピング協定の第3.1条及び第3.2条と、第6.5条及び第6.5.1条は次のとおり。
第三条 損害(注)の決定
注: この協定において「損害」とは、別段の定めがない限り、国内産業に対する実質的な損害若しくは実質的な損害のおそれ又は国内産業の確立の実質的な遅延をいい、この条の規定により解釈する。
第3.1条 千九百九十四年のガット第六条の規定の適用上、損害の決定は、実証的な証拠に基づいて行うものとし、(a)ダンピング輸入の量及びダンピング輸入が国内市場における同種の産品の価格に及ぼす影響並びに(b)ダンピング輸入が同種の産品の国内生産者に結果として及ぼす影響の双方についての客観的な検討に基づいて行う。
第3.2条 調査当局は、ダンピング輸入の量については、ダンピング輸入が絶対量において又は輸入加盟国における生産若しくは消費と比較して相対的に著しく増加したかしなかったかを考慮する。調査当局は、ダンピング輸入が価格に及ぼす影響については、ダンピング輸入の価格が輸入加盟国の同種の産品の価格を著しく下回るものであるかないか又は、ダンピング輸入の及ぼす影響により、価格が著しく押し下げられているかいないか若しくはダンピング輸入がなかったとしたならば生じたであろう価格の上昇が著しく妨げられているかいないかを考慮する。これらの要因のうち一又は数個の要因のみでは、必ずしも決定的な判断の基準とはならない。
第六条 証拠上述の規定は、平たく言えば、アンチダンピング措置に際し、自国の損害を実証的な証拠に基づいて決められなければならず、またその秘密も守られなければならないというもので、WTOは韓国がこれを守っていないと判断したのですね。
第6.5条 いかなる情報も、その性質上(例えば、その開示が競争者に対して競争上の著しい利益を与えること又はその開示が情報を提供した者に対して若しくは情報を提供した者の当該情報についての情報源である者に対して著しい悪影響を及ぼすことを理由として)秘密であるもの又は調査の当事者が秘密の情報として提供したものは、正当な理由が示される場合には、当局により秘密として取り扱われる。当該情報は、当該当事者の明示的な同意を得ないで開示してはならない(注)。
注 加盟国は、特定の加盟国の領域において厳格な保護命令に定める条件による開示が必要となることのあることを認める。
第6.5.1条 当局は、秘密の情報を提供した利害関係を有する者に対し当該情報の秘密でない要約を提出するよう要請する。この要約は、秘密の情報として提供されたものの実質を合理的に理解することができるように十分詳細なものとする。例外的な場合には、当該利害関係を有する者は、当該情報を要約することが不可能であることを示すことができる。このような例外的な場合には、要約することが不可能であることの理由を提出しなければならない。
韓国は、自国の損害調査について「業界全体を調査せず、アンチダンピング調査を申請した二社のみのデータを国内産業と認定し、更に「秘密情報の取扱いに不備があった」と指摘されています。
これらはアンチダンピング措置の妥当性を検証するために必要な取り決めであって、これが満たされないと、アンチダンピングそのものの正当性がないというものです。ですから、ここを守っていない以上、韓国がアンチダンピングの是正を行うことは当然のことで、13件のうち10件勝ったから韓国の勝利だと強弁するのは、ただの「精神的勝利」の範疇から一歩も出るものではありません。
アンチダンピングについては、国内産業保護のため乱用する国もあり、新たな基準づくりが検討されていました。
これについても、経産省は「本件は、韓国の恣意的なアンチダンピング措置の是正を勧告したのみならず、新興国等に多く見られる保護主義的な貿易救済措置の濫用がWTO協定上容認されないことを明確にした点で意義があります」としており、十分に意味のある裁定だったといえると思います。
けれども朝鮮日報は、こうしたぐぅの音も出ない裁定が出てもなお、それを認めません。
朝鮮日報は、仁荷大の鄭仁教教授が「WTO紛争は争点別にどちらの主張がより妥当なのかを判断する場であり、『勝敗』を争っても無意味だ……最近貿易紛争で激しく対立している両国が無理に自国の勝利だと主張している」と述べていることを取り上げ、韓国が論理を補強し、WTOを説得すれば、関税を見直さなくてもよくなるから関税を引き下げるかどうかはまだ推移を見守るべきだと主張しているのですね。
WTOを説得すればよいとは無茶苦茶です。
ただ、朝鮮日報は記事の最後に「韓国の日本製バルブ輸入規模は年間500億ウォン(約45億円)程度で、両国の貿易規模に比べれば微々たる水準だ」という文をさりげなく滑り込ませています。まるで「大した額じゃないから、関税を下げる下げないで騒ぐ必要はない」と読者を宥めているかのようにさえ見えます。
もし、そうだとするならば、朝鮮日報は、本裁定は日本の勝利であることを分かっているものの、そのようにストレートに書けないから、こんな"捻ねた"書き方になったのではないかと思ってしまいますね。
3.韓国の杜撰さを攻めよ
今回の最低は韓国が十分に説得力のあるデータをWTOに提示できなかったが故に負けたのですけれども、もしかしたら、こうした部分が、貿易問題等で韓国と争うときに突くべき弱点になるかもしれません。
というのも、韓国の輸入管理に杜撰なところがあることが明らかになっているからです。
7月から日本は、韓国を対象に半導体・ディスプレー素材3種の輸出管理見直しを行っていますけれども、韓国政府は未だに該当素材の輸入量の変動を公開していません。
韓国政府は日本の輸出管理見直しを報復だとしてWTOに提訴すると息巻いていますけれども、日本の措置が報復なのであれば、先のバルブの例と同様に、どのような被害を受けているのかなど、それなりの証拠が必要になります。
関税庁の日本輸出規制品目輸入現況によると、日本からの半導体製造用フッ化水素の輸入量は7月は529.85トンで1年前の2780.35トンより4分の1に減り、8月はゼロになっています。その一方で、半導体製造用レジストの輸入は、7月に141.38トンと前年同月の83.87トン、8月は141.38トンと前年同月の95.06トンから大幅に増加しています。
これは、回路基板用ポリイミドフィルム輸入も同じで、7月は23.51トンと前年同月の16.51トン、8月は22.43トンと前年同月の16.51トンから増えています。
その理由は、韓国政府が政府が貿易取引量を調べる時に使う商品分類コードである「HSコード(Harmonized System code)」が十分に細分化されておらず、十把一絡げで管理している為なのだそうです。
レジストを例にとると、日本は極端紫外線(EUV)用のレジストとフッ化クリプトン(KrF)光源レジストをそれぞれ分けて管理しているのに対して、韓国は「半導体製造用レジスト」とだけ記録します。従って、日本が管理強化した極端紫外線(EUV)用レジストの輸入が減っても、それ以上にフッ化クリプトン(KrF)光源レジストの輸入が増えれば全体として増えて見えることになります。
韓国政府の産業部関係者は「素材輸入量は該当企業の営業機密だから政府でも直接調査できず企業に問い合わせるしかない。外部に公表することも難しい」とコメントしていますけれども、WTOに提訴するにも、ここから改善していかなければならない訳で、提訴そのものは出来ても、肝心の証拠を提示することはこのままでは困難でしょう。
今回の日本製空気圧バルブのWTO裁定にしても、韓国は証拠不十分で却下されたことを考えると、半導体製造用物品も同様のきちんとした証拠を求められるのは、容易に予想できます。
こんな状態では、行方不明となっている40トンのフッ化水素の行方や、過去3年の使用実績と用途を提出することなど殆ど不可能ではないかと思えますね。
日本も韓国を甘やかすのを止めたのなら、情けは無用。冷徹に世界基準で対応すべきだと思いますね。
この記事へのコメント