

1.三通目の親書
9月15日、北朝鮮の金正恩委員長が、先月、アメリカのドナルド・トランプ大統領に非公開の親書を送り、3回目の米朝首脳会談と平壌に招待する意思を伝えたと複数の外交消息筋が明らかにしました。
それによると、書簡を送ったのは先月第3週で、「その前週の9日にトランプ大統領が公開した親書とは別のもので、一種の招請状の性格を持つ」というもののようです。
先月9日、トランプ大統領は金正恩委員長から書簡を受け取ったことを明かし、記者団に「親書はとても肯定的で会うことになるだろう」と紹介していたのですけれども、その僅か一週間後に再び金委員長が次の親書を送ったのは異例といっていいでしょう。
元当局者は「6月30日のトランプ-金正恩板門店会合以降、2ヶ月以上にわたり、両側が相手の機密を探るための探索戦を繰り広げたが、アメリカの『ビッグディール』と北朝鮮の『段階的・同時的解決法』が平行線をたどりながら考えの溝を埋められないとみるや、金委員長のほうから先に打って出たものとみられる」と述べていることから、金正恩が痺れを切らしたことも考えられます。
専門家の中には金委員長が親書で再び「トップダウン方式によってまずは首脳会談」を提案したことに注目していて、金正恩自身が期限を決めて公表した「今年末」が迫って時間に追われているところに、進展がないため、直談判をしようとしたという分析もあるようです。
2.いつか後ほど
けれども、そんな金正恩委員長のラブコールをトランプはあっさりと袖にしました。
9月16日、トランプ大統領は、金正恩委員長の平壌訪問招請について、今はその時ではないと否定しています。
これは、この日の午後、ホワイトハウスでバーレーン皇太子と会見中に「金委員長が北朝鮮に招請したのか」という質問を受け「私はそれに言及したくない……関係は非常に良いが、話したくない……私がそれについて話すのは適切だと思わない」と述べました。
バーレーン皇太子と会見中に、北朝鮮の質問するのは場違いです。トランプ大統領が「離したくない。適切だと思わない」と答えるのは当然でしょう。下手をすると、バーレーンと北朝鮮が裏でつながっているのかと疑われかねません。失礼にも程がある。
それでも、トランプ大統領は訪朝する意向があるのかという質問に「おそらくそれはないはず……我々はそのような準備ができたとは思っていない……私はいつか後ほど訪問することになるだろう……それはどんなことが起こるかにかかっている……彼もアメリカ訪問を望んでいると確信する……しかしそのような準備ができていないし、まだ我々が進むべき道が残っている」と答えました。
要するに、非核化をちゃんとやれ、やらなければ会うことはない、と突き放した形です。
9月9日、北朝鮮の崔善姫外務次官は談話を発表し、北朝鮮は9月下旬ごろ、アメリカが同意する日程と場所で対座して包括的な協議を再開する用意があると述べています。これは前日8日にマイク・ポンペオ国務長官が、アメリカ・ABCテレビに出演し、北朝鮮との交渉が数日、あるいは数週間以内に再開できることを期待していると述べていたことに対するものと思われ、アメリカ国務省関係者は「我々は北朝鮮の9月下旬の交渉再開約束を歓迎する……合意する時間と場所に議論をする準備ができている」とコメントしています。
まぁ、前回のハノイ会談では実務者協議が不調のまま、いきなりトップ会談をやって物別れに終わりましたから、トランプ大統領にしてみれば、実務者協議で、話を粗方纏めてから持ってこいということでしょう。
それを、親書の一つや二つで引っ繰り返せると思っていたとしたら、金正恩も自分の立場がまだ十分に分かってないのかもしれません。
それでも、10日にトランプ大統領が、北朝鮮が嫌っていたジョン・ボルトン大統領補佐官を更迭したことは、一種の妥協のメッセージになりますし、北朝鮮は以前からボルトン氏を政権から外して欲しいと要求していたという話もあります。その意味では、トランプ大統領は、この部分では北朝鮮の要求を飲んでみせ、金正恩委員長に対し「ちゃんと非核化をやれよ」と返答したと見る事も出来るでしょう。
3.蚊帳の外の韓国
今回のやり取りでちょっと注目したいのは、これら米朝間のやり取りに、韓国が完全に蚊帳の外になっていることです。
9月16日、韓国の康京和外相は金正恩委員長が8月中旬、トランプ大統領に親書で、首脳会談の開催と平壌招請の意向を伝えていたという報道について問われ、「アメリカ側から説明された」と答弁したものの、その後、「私が申し上げたのは8月上旬の手紙に関してで、これに関連してアメリカ側からブリーフィングを受けたという趣旨だった」と前言を撤回。8月中旬の親書の存在については「確認できることは何もない」と答えています。
3回目の親書について韓国が何も知らされていなかったということは、逆にいえば、韓国に知られたくない、知る必要がない内容だったということになります。従って、今回その存在が報道されたということは、少なくとも報道された内容である「首脳会談の開催と平壌招請の意向」については、バラしても良くなった。無効になったということだと思いますね。
実際、8月24日に北朝鮮が短距離ミサイルをぶっぱなしていることを考えると、金正恩委員長の懇願は足蹴にされたと見てよいのではないかと思いますね。
後は、親書にそれ以外に何が書いてあるかということですけれども、今月下旬に韓国が行おうとしている米韓首脳会談は、やはり、米朝交渉の探りを入れることと、韓国が仲介させれば上手くいくとかなんとか言って、なんとか蚊帳の中に入れて貰おうとしているのかもしれません。
けれども、既に、米朝間のパイプがあり、米朝での実務者協議を進めようとしている今の状況では、韓国など邪魔だというのが本音でしょう。あるいは、文大統領がどんなに懇願しようが、アメリカは北朝鮮制裁をちゃんとやるようにと釘をさされ、なんとなれば、それでも瀬取りなどの"闇援助"を続けるなら韓国も制裁対象になると宣告されてしまうかもしれませんね。
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