今日はこの話題です。


1.チョ・グク法相への家宅捜索
9月23日、ソウル中央地検特捜部は、チョ・グク法相の家宅捜索に入りました。
チョ氏の自宅が捜索を受けるのは一連の疑惑が浮上してから初めてのことです。チョ氏一家は、私募ファンド運用を巡る不正疑惑が取り沙汰されているのですけれども、検察はすでに、チョ氏と妻のチョン・ギョンシム東洋大教授の資産管理を任されている証券会社社員からも自宅で使っていたパソコンのハードディスクの任意提出を受けています。
このことから、このファンドにチョ氏本人の関与しているかなど、立件も視野に検察が捜査を始めたのではないかという見方も出ているようです。
検察は、チョ氏のパソコンのハードディスクや業務関連の記録などを押収したとみられ、証拠隠滅教唆の疑いに加え、チョ氏が証拠隠滅・隠匿を幇助した可能性も排除できないとして、資産管理人を相手に事実関係の確認を進める模様です。
更に、検察は、チョ法相の娘や息子の不正入試の疑惑に関係しているとみられる四つの大学も捜索したということで、「朝鮮日報」などは、チョ法相みずからが娘と息子の入試に関与した疑いがあると伝えています。
もっとも、チョ法相は、メディア報道について「これは本当に我慢しがたい。法的措置を真剣に検討している」とコメントしていますけれども、メディアへの圧力より、検察そのものに圧力を掛けることがないのかの方が遥かに重要です。
ただ、強制捜査が国連総会に出席する文在寅大統領が出国した翌日だったことから、韓国・中央日報は、政権と対立する検察の「政治日程を考慮した勝負手」などと伝えています。
2.私欲や特定の勢力のためには働かない
チョ・グク法相の一連の疑惑で政権との対立の構えを崩さず、捜査を指揮しているのが検事総長のユン・ソギョル氏です。
彼は、2012年の大統領選挙に情報機関が介入した事件で捜査の進め方をめぐって、検察上層部と対立し、地方検察庁に左遷させられました。
けれども、2016年に朴槿恵前大統領らによる職権乱用などの事件では、捜査チームのトップとして、一連の事件を指揮。朴槿恵前大統領を拘束起訴しています。そして、2017年には文政権下でソウル中央地検のトップに就任し、李明博元大統領を逮捕・起訴するなど、それまでの保守政権の不正に対し厳しい姿勢で捜査を続けてきました。
文在寅大統領はその手腕に期待を示し、今年7月に検事総長に抜擢。「不正および腐敗の一掃」と「検察改革の完遂」を任せることになります。
検事総長への任命式では、当時司法機関を統括する民情首席補佐官だったチョ・グク氏も立ち会う中、文大統領から「生きている権力に対しても同じ姿勢でなければならない」と現政権の不正に対しても厳しく臨むよう求められ、ユン検事総長は「国民のためだけに尽くす。私欲や特定の勢力のためには働かない」と応じていました。
ユン氏の次期検事総長指名当時、野党は反発しました。朴槿恵政権時の報道官だったミン・ギョンウク自由韓国党代弁人は「文在寅側の人であるユン候補者が大統領府の命令に従って剣舞を踊るだろう」と主張していたのですけれども、今のところ、ユン検事総長が文政権に手心を加えている様子は見られません。
一説には、ユン検事総長の志向やスタイルは、進歩や改革より頑固な「保守検察主義者」に近く、敵味方の区別なく、罪があれば捜査する人物だという評価もあるそうで、チョグク法相への捜査も「私欲や特定の勢力のためには働かない」という彼の言葉通りに行っていると言えます。
3.低迷する支持率
チョグク氏の疑惑からこの方、文在寅大統領の支持率が低迷しています。
9月14~15日に韓国放送局MBCが行った世論調査では、文在寅大統領の国政運営に対する肯定的評価は44.5%、否定的評価は51.7%と低下傾向を示し、9月9日にチョグク氏を法相に任命したことを「良くないこと」とした回答は57.1%と、「良いこと」との回答の36.3%を20.8%上回っています。
また、9月19日、韓国の調査機関リアルメーターが発表した最新の世論調査でも、文在寅大統領の支持率は43.8%と、就任後の最低記録を更新。不支持率も53.0%と2週連続で拡大しています。
筆者は「文在寅の弱点は何処か」のエントリーで学歴社会の韓国では、チョグク法相疑惑で世論が二分されることはあっても、文在寅大統領の弾劾訴追までは届かないのではないかと述べましたけれども、このままどんどん支持率が下降し続けるのであれば、その可能性も出てくるかもしれません。
低迷する文在寅大統領の支持率について、前駐韓大使の武藤正敏氏は、支持を回復するためになすべきことして次の四つを上げています。
1. 事態が一層悪化する前に、チョググ氏を解任すること武藤氏は、文在寅政権が今行っていることはこれらの真逆であり、このままでは韓国は国内的にも、国際的にも一層窮地に陥るだけと指摘しています。まぁ、傍からみれば誰でも分かる話です。
2. 韓国経済が深刻な状況にあることを率直に認め、これに対応する施策を講じること
3. 外交の基軸を見つめ直し、日米との連携に立ち戻ること
4. 韓国の安全保障環境の現実を見つめ直し、北朝鮮に対する現実的な対応を取ること
上述の4つのうち、一番やり易そうなのは、1のチョググ法相の解任だと思いますけれども、強行任命したばかりのチョ氏を解任となれば、文政権へのダメージは避けられませんし、野党も勢いづくでしょう。
4.韓国を破滅に追いやる主体思想
「韓国での主体思想実現を誓った文在寅」のエントリーで、文在寅大統領が主体思想を韓国で実現させると金正恩に誓ったという疑惑を取り上げましたけれども、主体思想は、金日成・金正日主義、すなわち北朝鮮の金王朝独裁を第一とする考え方です。これを他国が採った場合、その政策はどうしたって北朝鮮への宥和政策になります。
上述の4つの方策のうち、3と4は、北朝鮮を仮想敵国とする政策ですから、主体思想に反することになります。更に、渦中のチョグク氏も主体思想の信奉者と言われていることを考えると、上述の4つの支持率回復策のうち2以外の3つについては、主体思想の考えそのものが大きな阻害要因になっていることになります。
また、2についても、文在寅政権は対策を打つどころか、日本の輸出管理適正化、ホワイト国除外に反発して、不買運動をするなど"セルフ経済制裁"を行って、自ら韓国経済を苦境に追いやっています。これも思想的にみれば、長年の反日教育および侮日観が招いたことだともいえ、結局は主体思想と反日を捨てない限り、これら支持率回復の手立ては取れないことになります。
それ以外に支持率回復の手段があるとすれば、北朝鮮の非核化に貢献することが考えられますけれども、頼みの綱である北朝鮮にさえも邪魔者扱いされている状況で、韓国が北朝鮮非核化に一役買えるとはとても思えません。
筆者には、ほぼ詰んだようにしか見えない文在寅大統領。どう出るのでしょうか。
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