共産と民主の一国二制度は成立するか

 
昨日のエントリーのコメント欄で、さんさん氏から、香港デモは怪しいとのコメをいただきましたので、お返事を兼ねて、続きのエントリーをします。
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5.香港の4つの政治勢力

昨日のエントリーではデモ隊には3種類の人がいるという話を紹介しましたけれども、これは表向きの行動による分類でした。これとは別の切り口として、彼らの主義・主張でも分類する見方があります。

国際戦略家の石井英俊氏は、2017年の月刊正論10月号で、香港の政治勢力を大きく、親中派、汎民主派、自決派、独立派の4つに分類しています。その区分は中国は民主化すべきか、香港は独自の憲法を持つべきか、香港は独立すべきなのかで分かれ、おおよそ次のようになるようです。
親中派 :中国の民主化を支持しない
汎民主派:中国の民主化は支持するが独自憲法には消極的
自決派 :香港は、中国に帰属するが、独自憲法は制定すべき
独立派 :独自国家建設
香港でいわれる民主派は、名前こそ「民主」であるものの、中国に帰属意識がある人から独立を指向する人まで、非常に大きな括りであって、日本人がイメージする民主とは必ずしも同じではない点は注意する必要があります。

今、「香港民主派の女神」と呼ばれる周庭(アグネス・チョウ)氏や、民主活動家でかつて「雨傘革命」での学生リーダーだった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は共にデモシスト(香港衆志)という政党に属していて、上記の4分類の中では民主自決派になります。

黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は、雨傘革命のとき「私は中国人だ。中国のことを愛している」と述べ、国慶節には式典に抗議に詰めかけたデモ隊に向かって「自分たちも中国人なんだから一緒に祝おう」と言ったともいわれています。

つまり、今回の香港デモについても、香港独立を求めている訳ではなく「一国二制度をきちんと守れ、なし崩しにするな」という主張であると思われます。

また、周庭(アグネス・チョウ)氏は、立憲民主党の枝野代表や、れいわ新選組の山本太郎氏とも近く、元シールズの奥田氏とも仲がよいといわれています。あるいは「大権力に立ち向かう」という部分で波長があったのかもしれませんけれども、周庭(アグネス・チョウ)氏が日本における彼らのポジションを何処まで知っているのかは分かりません。

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6.香港独立派

上述の4つの政治勢力の中ではっきりと香港独立を訴えているのが独立派です。

香港において初めて独立を主張した政党が香港民族党です。設立は2016年3月28日。党代表は陳浩天(アンディ・チャン)氏。香港民族党は「香港共和国」の樹立を将来の目標に掲げていますけれども、メンバーは多くはなく、立法会に議席もありません。

2014年の「雨傘運動」当時、香港理工大学に通う学生だった陳浩天(アンディ・チャン)氏はデモの座り込みにも参加していたのですけれども、一切譲歩しなかった習近平指導部に大きな失望を抱き、独立を目指す政党の立ち上げを指向するようになります。

陳浩天(アンディ・チャン)氏は、香港民族党の旗揚げ間もない2016年4月、日経新聞のインタビューに「独立国家になるか、それとも中国の一都市になるか。選択肢は2つしかない……中国共産党が香港に民主主義を与えないなら、香港が共産党支配から離れるしかない。それが私が雨傘運動から学んだ教訓だ」と述べています。

昨年8月、陳浩天(アンディ・チャン)氏は外国人記者クラブ(FCC)で講演しています。

彼は講演の冒頭、彼と彼の家族が過去数週間で前例のない監視下にあったことに言及し、「中国は実際には世界の自由を持つ人々を脅かす帝国主義国」だ述べ、香港は中国の資金の香港への流入を含む中国によって徐々に同化されつつあると指摘した上え、次のステップはアイデアと文化の同化であるとし、香港が「国家浄化」に直面していると警告しています。

当然、北京政府は香港民族党を危険視しており、このスピーチについても、中国外務省の香港出先機関は「報道の自由の乱用。独立勢力と外国人記者クラブがレッドラインを踏むことは絶対許さない」とする非難声明を発表。香港政府も「独立を吹聴する場を提供したことは不適切」だと遺憾の意を表明しました。

また、記者クラブが入居する建物の周辺では、講演に反対する親中派と、言論の自由を主張する反中派がデモが行われ、親中派ら約100人が「外国人記者クラブは香港から出て行け」などと叫んだようです。

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7.習近平と江沢民派との対立

香港は元々、江沢民派との深い繋がりを持っていました。

香港マカオ工作は長年、江沢民派の超大物で「江派二号人物」の別名を持つ、曽慶紅元国家副主席が担ってきました。

その後、香港マカオの工作は、曽氏から習近平氏に渡り、それから中国共産党序列第3位だった張徳江氏へと渡り、今は、江沢民派の韓正・筆頭副首相(序列7位)が引き継いでいます。

香港について、習近平政権は、江沢民派の富豪が経済犯罪の隠れ蓑に利用していると疑っていて、今、習近平主席が進める不正撲滅運動の中、香港に対する規制強化は、江沢民派への締め付けという見方もあります。

米中貿易戦争の中、アメリカは中国に構造改革を要求していますけれども、例えば、国有企業への補助金禁止に

においても、江沢民派の抵抗によって習近平主席が困難に陥ることが少なくありません。たとえば、国有企業への補助金禁止などは、国有企業のトップの多くが江沢民派のため、江沢民派の反発にあって思うように進まないらしく、それで習近平政権は江沢民派に苛立ちを覚えているとも言われています。

エコノミストの斎藤満氏によると、1992年に江沢民が国家主席になると、彼はアメリカのネオコン派と親密になり、江沢民派はネオコンと組んで動くケースが多くなっているそうで、更に、この両者は北朝鮮の金王朝とも親しく、中国北東部には朝鮮民族が多く入り込んでいるそうです。

もし、香港デモの裏に江沢民派がいて、その背後にアメリカのネオコン派がいるとするならば、アメリカが黒幕だという陰謀論も理由なきことではないと言えるかもしれません。

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8.香港が中国化するか、中国が香港化するか

ただ、香港デモが一枚岩ではなく、その背後に習近平と江沢民派の争いがあるのだとしても、香港の民主化運動の行方は、今後の世界に少なくない影響を与えると思います。

それは、共産国家に隣接する民主国家がその体制を維持できるのかどうかを示すことになると思うからです。

特に香港は、香港島、九龍半島、新界の三つの地域から構成されていますけれども、飲料水と電力は大陸に頼っている状態で、今のままでいきなり独立は現実的ではありません。

それでも独立を求めるといえば、それこそ、中国本土が武力占拠なり、民族浄化なり大陸との一体化を進めることが考えられるからです。

単純な武力だけで考えれば、中国共産党政府は天安門よろしく力づくで制圧すればよいだけです。それが出来ないのは世界から監視されていることと、或いは先に述べた江沢民派の抵抗があるからなのかもしれません。

今は、香港が中国化するのか、或いは中国が香港化するのかの綱引きだと思いますけれども、もしも、中国本土と隣接する香港が完全な民主化を手にして、それが維持されるのであれば、共産主義と民主主義との一国二制度が成立することになります。もしもそんな事があれば、世界は一つのモデルケースとして認知するのではないかと思います。

世界が香港を監視し、彼らの民主化運動が続けば続く程、中国共産党政府はそちらにエネルギーを取られますから、その分、帝国主義の拡張が鈍る可能性があります。

まぁ、筆者は中国が香港化してくれることを望んでいますけれども、裏に暗躍するものがある可能性を頭の片隅におきつつ、注視を続けるのがいいのかもしれませんね。

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この記事へのコメント

  • 匿名

    アメリカ=ネオコン派、江沢民派、朝鮮族の繋がりが、北朝鮮問題におけるソロスの発言に現れているのだろうか。
    トランプの発言も北朝鮮を敵とは見ていない、ボルトンとは毛色の違うネオコンが存在するのだろう。
    香港では、民主化運動の黒幕として動くが、北朝鮮では操り人形として傀儡化するつもりだろうか。
    2019年09月29日 03:55
  • さんさん

    一個人の見解に対して記事として回答された事を感謝致します。
    具体的にアメリカの関与まで言及されましたから書きますが、ヒューマン•ライツ•ウオッチナウやアムネスティー•インターナショナルも香港デモに参加してます。
    両者はジョージ·ソロスが活動費の殆どを提供している団体です。
    レーガン政権後のアメリカの考えに民主主義を輸出する考えが生まれ、その後に更に発展を遂げ、その考えのもとで色革命やアラブの春を生み出したとも聞いてます。民主主義を輸出する団体は本来ならアメリカ政府のCIA所属と成るのですが、何故かNGO団体として民間から資金の提供を受けて活動してる様です。
    確かNEDとか名乗っている筈ですが。その辺りの記憶は朧気ですが気に成れば調べる事をお勧めします、WIKで今や堂々と乗ってます。
    沖縄で反基地活動してる活動家にもジョージ•ソロスが活動資金を提供したりしてますね。
    シールズ、奥田はそんな連中のパペットで香港民主化の女神と同じ、シンボル役です。
    非常に似てる香港の運動と沖縄のサヨクの行動を別だと切り離して考え難いです。
    個人的には沖縄の活動も根が同一だと疑いを抱いてますが。
    ソロスの反習近平の姿勢はハッキリしてます。
    2019年09月29日 10:53
  • 日比野

    匿名さん

    おはようございます。ソロスはこのところ半島の肩を持つ発言が目立ちますね。
    裏では、非核化と制裁解除の後で便宜を図るゴニョゴニョがあるのかもしれませんね。
    2019年09月30日 07:25
  • 日比野

    さんさんさん

    おはようございます。

    >一個人の見解に対して記事として回答された事を感謝致します。

    ご丁寧にありがとうございます。これでも、昔は、コメへのお返事を記事でしたり、コメでリクエストされたテーマで記事を書いたりなど割としていたのです。今回久々に記事でお返事させていただきました。

    香港デモが怪しい説は、行橋市議の小坪慎也氏がご自身のブログに挙げられることもあり、私もちょっと引っかかってはいたのです。なので、今回を機会にちょっと掘ってみました。

    たとえ、香港デモが江沢民派の指桑罵槐であったとしても、習近平にダメージを与える方向ですし、中国の帝国主義にブレーキを掛けるには有効な面もあると思うので、米英のような介入は出来ないにしても、邪魔しない程度に見ておくのはよいと思います。

    ただ、ご指摘のとおり、沖縄独立運動へと結びつけられてるのはよろしくないので、そちらへのカウンターは必要かと思いますし、アメリカが手を入れ始めている台湾との連携も強めることも大事かなと思います。
    2019年09月30日 07:26

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