補助金が停止された「あいちトリエンナーレ」(あいちトリエンナーレ騒動が教えたもの ~前編~)

今回の話題は今日、明日と2回に分けてエントリーします。
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1.補助金が停止された「あいちトリエンナーレ2019」

9月26日、文化庁は愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」に対し、補助金7820万円を不交付とする決定を下しました。

不交付の理由については文化庁のホームページで公開されていますけれども、次に引用します。
補助金適正化法第6条等に基づき,全額不交付とする。

【理由】

補助金申請者である愛知県は,展覧会の開催に当たり,来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず,それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上,補助金交付申請書を提出し,その後の審査段階においても,文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告しませんでした。

これにより,審査の視点において重要な点である,[1]実現可能な内容になっているか,[2]事業の継続が見込まれるか,の2点において,文化庁として適正な審査を行うことができませんでした。

かかる行為は,補助事業の申請手続において,不適当な行為であったと評価しました。

また,「文化資源活用推進事業」では,申請された事業は事業全体として審査するものであり,さらに,当該事業については,申請金額も同事業全体として不可分一体な申請がなされています。

これらを総合的に判断し,補助金適正化法第6条等により補助金は全額不交付とします。
このように文化庁は、展覧会の安全と運営において懸念があることを認識していたにも関わらず事前申告しなかったというのを理由としているのですね。

26日、萩生田光一文科相は記者会見で「正しく運営ができるかの一点であり、文化庁は展示の中身には関与していない。検閲にも当たらない」と述べています。

文化庁は安全確保と滞りのない運営ができるかどうかだけはチェックするが、展示物の中身には関与しないスタンスだと明言した訳です。


2.争点は危険予知

これに対し、「あいちトリエンナーレ2019」実行委員会会長である愛知県の大村秀章知事は「事実誤認で一方的な決定で、承服できない」と反発し、法的措置に訴える考えを示しています。

また、9月26日、国際芸術祭の参加アーティストらでつくる「ReFreedom_Aichi」が不交付の撤回を求め、署名サイト「change.org」で賛同を募っています。

「ReFreedom_Aichi」は賛同の呼びかけ文の中で、「いったん採択された補助金を、違法性などが検証されない状態で国が取り下げるということは、異例中の異例。多くの国民がこれを国家による検閲だと解釈している……いったん適正な審査を経て採択された事業に対し、事業実施中に交付を取り消すことは、国が該当事業のみを恣意的に調査したことを意味する」と訴え、また、今回の決定によって、公立の美術館や劇場、公的資金が入って運営される芸術祭などのすべての文化活動に「多大な悪影響を及ぼす」として、「国際的には日本は文化的先進国から失墜し、国際社会から非難される立場にもなりかねません」と懸念を示しています。

この一度交付を採択した補助金を後になって取り消したことについては、山田太郎参院議員も懸念を示していて、開催前に補助金交付決定がなされるべきとした上で、「展示が始まっているにもかかわらず、危険予知を報告しなかったということを理由に補助金交付の決定をしなかったということは、今後の補助金事業についての悪影響も懸念され慎重さを欠いた判断であり、問題がある」としています。

他にも今回の不交付決定について、一部メディアは「表現の自由の侵害だ」とか「検閲だ」などと大騒ぎしていますけれども、文化庁は「正しく運営ができるかのみ問題視し、展示の中身には関与しない」というスタンスである以上、批判する筋が違います。

その意味では、芸術祭参加アーティストらの「ReFreedom_Aichi」が「一旦認めたくせに後で取り消すとは何事だ」という主張の方がまだマシだといえます。

もっとも、一度補助金を認めたことについても、文化庁は「正しい申告がなされなかった段階での決定であり、無効である」という言い訳も出来る訳で、とどのつまりは、安全確保を含めた危険予知とその申告が出来得えたのかどうかが争点であり、大村知事が国を相手に訴えたとしても、この点がポイントになるものと思われます。

ただ、「正しい申告か否か」を争点とした場合、山田太郎参院議員が指摘しているように、文化庁がなぜ「あいちトリエンナーレ2019」開催前に補助金交付決定をしなかったかという点についてもその責が問われるだろうと思われます。


3.検閲しないを盾にして自治体に丸投げする

けれども、文化庁が「安全確保と問題ない運営とそれに伴う申告が為されたか」だけ問い、中身には関与しない、だから検閲はしていないというスタンスを取るということは、裏を返せば、展示物の中身についての責任は芸術祭などを行う地方自治体に丸投げすることを意味しています。

つまり、催し物についての開催許可については「危険予知が出来るか否かが判断基準となる」ともいえ、危険予知が十分でない、または、不確定要素があるものは、その中身に関わらず、一律に”忖度”されて開催取り止めになることも考えられます。

たとえば、「国旗の歴史展」とかなんとかいう展示企画を地方自治体が進め、文化庁に補助金申請をしようとする場合を考えると、かなりの確率で旭日旗を目の敵にする隣の国やその息のかかった団体が抗議、脅迫、或いは殴り込みをしてくることが考えられます。

そのような"安全に懸念がある"企画であっても、懸念があると堂々と文化庁に申告できる自治体があるのか。また、そのような申告があったとして、「表現の自由」を守るための措置を文化庁がやってくれるのか。

先に例を挙げた「国旗の歴史展」の企画で、特定団体による圧力あるいは暴力行為がある可能性があると申告されたとして、文化庁や国がは警察、機動隊、あるいは自衛隊に安全確保のために出動要請さえ厭わずやってくれるのか。

特に今回は、一旦交付を認めたにも拘わらず、後で撤回となった訳ですから、少しでもリスクのあるものは全部見送りにするのが安易かつ可能性が高い。検閲はしないものの、"忖度"させる方向に持っていく流れになると思います。

それを避けるには、正しく申告さえすれば、たとえ"自衛隊"を出してでも、その「表現の自由」は守るという姿勢を国が見せるしかないのではないかと思いますけれども、おそらく今の政府にはそこまでの覚悟はないと思いますね。

その意味では、今回の不交付決定によって、今後、右左関係なく、公共の催し物を無くさせていく方向に流れていくのではないかと思いますね。


明日に続きます

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