

1.参院埼玉選挙区補欠選挙
10月10日、N国党の立花党首が参院埼玉選挙区補欠選挙に立候補しました。
立花党首は公選法の規定により参院議員を自動失職し、同じく参院選N国比例名簿で次点の浜田聡氏が繰り上げ当選となりました。
立花党首の参院選から参院選への違例ともいえる立候補です。その狙いについては、既に色んなところ指摘されていますので、特に取り上げることはしませんけれども、当選すれば議席増。当選しなくても、選挙戦を通じてN国を宣伝できることと、来年あるとも噂されている衆院選に向けてフリーに動けるメリットがあります。
立花党首が目指す、NHKのスクランブル化を考えると目先の議席というか1議席では大してできることはありませんし、N国の1議席が無くなるわけでもありませんから、自身が参院補選に立候補するのも一つの考えでしょう。
いま、27日の投開票に向けて選挙戦が行われていますけれども、8日に行われた立候補についての記者会見では次のように述べています。
今日の昼に辞職を検討していると申し上げた。理由は10日参院埼玉選挙区補選に立候補するためだ。それに伴い現職の参議員議員を自動失職という形にさせてもらう予定だ。参院議員を辞めて参院選に立候補するという異例の辞職の形になる。私が辞職しても、全国比例の浜田聡という者が繰り上がり当選をする。比例の方は議席が減らない。会見の内容は立花党首が自身の動画で述べているものと同じであり、自身を既得権と戦うことを掲げて選挙に臨んでいます。
一方で、埼玉の補選に公党として立候補者を立てないわけにはいかない。擁立する方向で進めていた。その間に自民党、公明党、野党が候補者を立てないことになり、勝てる可能性がある選挙に変わってきた。知名度のある前衆院議員の豊田真由子氏に依頼を続けていたが、前向きな返事をいただいていない。8月の埼玉県知事選に出馬した青島健太氏らにも声をかけたが、自分が出たらいいのではないかと気付いた。
たった70日そこいらで議席をほうり出し、国会の論争にも入らず議員辞職することに対し、国民の批判がある。参院議員になって得たメリットを捨てることに対し、未練というか恐怖というか、既得権は怖いと思った。守りに入るよりも攻めに転じなければいけない。
今回、十分に勝てる選挙だと分析した。1議席減るというより、さらに参院議員の議席を1から2に増やす、全体の国会議員の議席数を2から3に増やすという前向きな思いで挑戦することを決めた。いま9つの公党があるが、このうちN国党以外の8つの公党はすべて立候補を表明している上田清司・前埼玉県知事を応援、ないし対立候補を立てない。9個も公党があって、1人の候補者しか出さないということは考えられない。
大野知事が7月中に辞めればこの補選は行われなかったが、あえて8月になってから参院議員をやめた。上田氏と大野氏が密室で1ヶ月辞めるのを遅らせるから、知事の席と参議院の席をお互い入れ替えようと。これをN国党以外の政党は指をくわえてみている。こんなことは許せないでしょう。
上田氏は3期しか知事をしないといって4期目に入って、知事が終わったら今度は国会議員だ。その前にも国会議員をしている。よくわからない。まさに既得権だ。NHKという組織も既得権の真ん中にいる。NHKのスクランブル放送を実現するには、周りの既得権を壊していかなければいけないという判断に至った。自ら既得権からいったん抜けることで、その意気込みを埼玉県民に示すことで勝機が出てくるのではないか。
2.既得権vs反既得権
立花党首は既得権vs反既得権という対立構図を出して選挙戦を戦っていますけれども、それ以外にも対立構図と思えるものがあります。それは、「ネット選挙vs既存選挙」と「浮動票vs組織票」です。
前者についてはもう説明は不要だと思います。立花党首は自身で(前)国会議員ユーチューバーと名乗っているとおり、毎日、動画をネットに挙げて自身の主張を訴えています。対する上田候補は殆どネットを活用していません。
筆者はもう10年以上の前になる2007年に、ネットの選挙への影響力は0.66~6.6%程度であるという記事をあげたことがありますけれども、果たして、今、どれだけの影響力があるのか。
ネットを使いまくる候補者と使わない候補者との一騎打ちという選挙はそうみられるものではないだけに、筆者は注目しているポイントです。
後者についても、結党から時間も経っておらず確固たる組織もないN国・立花党首と、自主投票も含めれば与野党相乗りの上田候補。
無党派層に訴えかけて浮動票に賭ける立花党首と、与野党の組織票を基に盤石の構えの上田候補とこちらも見事な対比を為しています。今、無党派層には何が響くのか。選挙においてどれくらいの力を発揮するのか。この点でも注目したいところです。
3.海老名市長選
そんな中、立花党首は18日に記者会見を行い、参院補選に敗北した場合、11月3日告示、10日投開票の神奈川県海老名市長選に出馬すると表明しました。その理由は参院選に負ける可能性が高いからで。立花党首は「まず当選しない。勝てないと予想しています……投票率がなかなか上がらないだろうという中、非常に当選が厳しいというのは最初から分かっていた……最終日まで全力で戦う」と述べています。
立花党首は敗北予想について、自身の動画で、投票率が20~30%程度だろうと予想し、その場合は上田候補が持つ、埼玉有権者の10%に当たる組織票60万票がものをいい、勝てないと分析。勝つためには投票率が40%近くないといけないと述べています。

立花党首は浮動票については7:3で自分に投票してくれるだろうという前提で票読みをしているのですけれども、選挙ドットコムが12~13日に埼玉県内の有権者を対象として、インターネット調査と株式会社JX通信社と共同実施した電話調査とのハイブリッド調査で、上田氏が野党各党の支持層から5割強の支持を集め、無党派層からも4割程度の支持を得ていると発表しています。
上田氏が無党派層の4割の支持を得ているならば、立花党首は最大でも6割の支持となります。立花党首の7:3の読みよりも世論調査は6:4ともっと厳しく出ていることになります。
ただ、この調査では、大きな特徴として、電話調査とネット調査の立花党首の支持率を比べたときに、ネット調査は電話調査の倍以上の数値となっていることから、今後のネットの普及によって、立花党首への支持が広がる可能性はあります。
4.弱者にして強者
それにしても、立花党首は、参院補選に出ると表明した当初は、十分勝機はあるとか言っていたように思いますけれども、選挙戦中の敗北宣言と海老名市長選への立候補表明は、見切りが早いというか、拍子抜けにも似た脱力感を覚えます。
N国の参院議席を減らさずにフリーで動けるメリットをみれば、参院補選に出るという選択は理解できなくもありませんけれども、いくら、最終日まで全力で戦うといったところで、参院補選を戦う立花陣営の士気は下がるでしょう。あまり得策とは思えません。
けれども、立花党首は、自身の敗北予想と海老名市長選へ出馬表明について、メディアにいま埼玉補選をやっていると宣伝してもらう為に、あえて選挙戦中に発言した。そして、自分が負けると予想していると公表したのは、それによって、上田陣営の士気を下げるためだと述べています。いわゆる「アンダードック効果」を期待してのことだというのですね。
ただ、それは立花党首を「弱者」とみるかどうかによると思います。立花党首は動画で自身の支持者を「阪神ファン」のようだとし、自身を「弱者」と規定していますけれども、確かに大政党の組織力と比べれば「弱者」かもしれません。
しかし、立花党首のこれまでの言動をみれば明らかなように、論戦を恐れない、訴訟上等、売られた喧嘩は全部買う、時に直接敵陣に斬り込んでみせる行動力等々、個人としてみれば、「強者」の部類だと思いますね。
5.鳴かぬなら殺してしまえホトトギス
立花党首は、悪名は無名に勝るとばかり、N国の党勢拡大のため過激な行動や発言を繰り返していますけれども、先日は「虐殺発言」が物議を醸しました。
これは、Youtubeに投稿された対談動画で、立花党首は、戦争を防ぐには世界の人口を抑制する必要があるとの考えを示したうえで、「『アホみたいに子どもを産む民族はとりあえず虐殺しよう』みたいな……ある程度賢い人だけを生かしといて、後は虐殺して」などと語り、更に、日本から途上国への教育支援について「犬に教えるのは無理。犬に近い。世界中の人間には、それに近い人が圧倒的に多い」とも述べました。
立花党首はこの発言が報じられると、「反論」と題する動画を配信。「どっかの国の人たちを殺してしまおうとか、そんなつもりはさらさらない」と釈明したものの、撤回や謝罪はせず「書いてくれることによって話題は尽きないので、それはそれで全然いい」と述べています。確信犯として「無名」よりも「悪名」をとったということです。
立花党首のこの「虐殺発言」には随分批判が集まったのですけれども、筆者は特に驚きはありませんでした。
筆者は7月の参院選以来、立花党首のことを「再来の織田信長」と捉え、何本もブログ記事を上げていますけれども、件の「虐殺発言」を聞いたとき「『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』のまんまじゃないか」という感想を持ちました。
この信長を評したとされる、ホトトギスの狂歌は、江戸時代の第九代平戸藩主・松浦静山が記した随筆『甲子夜話(かっしやわ)』の巻53ホトトギスの下りにみられる記述で、原文は次のとおり。
夜話のとき或人の云けるは、人の仮托に出る者ならんが、其人の情実に能く恊へりとなん。つまり、静山が、夜、ある人と談話していて、その人がホトトギスの歌を信長、秀吉、家康にそれぞれ贈ったらどう詠むだろうかと話題になったときに出てきた歌なのですね。
郭公を贈り参せし人あり。されども鳴かざりければ、
なかぬなら殺してしまへ時鳥 織田右府
鳴かずともなかして見せふ杜鵑 豊太閤
なかぬなら鳴まで待よ郭公 大權現様
けれども、江戸に詠まれた戦国時代の人に贈った歌が、今の世に伝えられているということは、その歌にそれなりの説得力があったということでしょう。それで、後世に信長はそういう人物だと伝わっている訳です。
そもそも、いくら悪名を選んだのだとしても、「虐殺」以外にも他にいくらでもインパクトのある表現は出来たと思うのですね。にも拘わらず「殺してしまえ」という発言となって出てしまう。立花党首の件のコメントは、動画を見る限り、世の中は性悪説だと達観した上での意見であったように見えます。筆者には、この辺りに、立花党首の中に宿る「信長の影」を見てしまいますね。
参院補選で立花党首が予想どおり敗北するのか、それともまさかの大逆転があるのか分かりませんけれども、少なくとも、その善戦具合は今後の無党派層や、ネット選挙に一石を投じることになるのではないかと思いますね。

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