黄昏のサヨク・コンテンツ

今日は感想エントリーです。
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1.事実に基づかず、隣国を面白おかしく叩くような現象は、なぜ生まれているのだろうか

10月19日、朝日新聞が「(耕論)嫌韓論の正体 鈴木大介さん、安倍宏行さん、木村幹さん」なる社説を掲載しました。 

冒頭には「日韓関係が泥沼化するなか、ネットやテレビ、雑誌などでは嫌韓論が広がっている。事実に基づかず、隣国を面白おかしく叩(たた)くような現象は、なぜ生まれているのだろうか」とありますから、一見して、さぞかし立派な検証記事のように見えます。

この「耕論」は朝日の説明によると「3人の論者が、世の中を深く、複眼で読み、個別のテーマを多層的に考える――朝日新聞のオピニオン面で2007年~展開している企画」だそうで、厳密には社説とはいえないのかもしれませんけれども、どの論者を選ぶかという意味では、社の意見を反映しているといえると思います。

今回の朝日の記事で取り上げられた論者である、鈴木大介氏、安倍宏行氏、木村幹氏の略歴を拾うと次のとおりです。
鈴木大介(すずき・だいすけ)
子どもや女性、若者の貧困問題をテーマにした取材活動をし『最貧困女子』(幻冬舎)などを代表作とするルポライターだったが、2015年に脳梗塞を発症して高次脳機能障害当事者に。その後は当事者としての自身を取材した闘病記『脳が壊れた』『脳は回復する』(いずれも新潮新書)や、夫婦での障害受容を描いた『されど愛しきお妻様』(講談社)などを出版する。著作『老人喰い』(ちくま新書)を原案とするテレビドラマ「スカム」がMBS毎日放送、TBS系列で放送中。

安倍 宏行(あべ ひろゆき、1955年(昭和30年)12月2日 - )
昭和30年、東京都生まれ。慶応大卒。ジャーナリスト、ウェブメディア「Japan In-depth」編集長。 他にも危機管理コンサルタントや複数の大学の非常勤講師なども務める。 平成4年にフジテレビ入社、総理官邸や経済・政治担当キャップ、ニューヨーク支局長、解説委員などを歴任。 その後、報道番組「ニュースジャパン」キャスター、元BSフジプライムニュース解説キャスターを務める。 平成25年にフジテレビを退社し、同年ウェブメディア「Japan In-depth」を立ち上げる。 著者にPHP新書より書籍出版「絶望のテレビ報道」など。

木村幹(きむら・かん)
1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長、神戸新聞客員論説委員を兼任。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。著書に『日本の常識は通用しない 慰安婦合意反故「法より正義の国 韓国」』、『朝鮮半島をどう見るか』、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『徹底検証 韓国論の通説・俗説』(共著)など。



2.感想をいくら積んでも検証にはならない

肝心の朝日の「耕論」記事の中味についてなのですけれども、生憎、有料記事になっていて読むことが出来ません。ただ、この中の鈴木大介氏の記事については、見出しと冒頭十数文字だけ閲覧できます。彼の記事は次のように始まっています。
「古き良き日本」の喪失感 鈴木大介さん(文筆業)
今春、がんのため77歳で亡くなった父は晩年、ネット右翼的な言動が著しく……
これだけではどういった内容なのか分からないのですけれども、筆者は、ちょっと見た事があるような気がしたので、少し調べたところ、デイリー新潮の7月25日掲載記事「亡き父は晩年なぜ「ネット右翼」になってしまったのか」が見つかりました。

こちらの記事の著者も同じ鈴木大介氏で、冒頭は次のようになっています。
元号が変わって間もなく、父がこの世を去った。77歳。ステージ4の肺腺がんと告知されてから3年頑張ったが、どうしても口から飲み食いできなくなると、急速に痩せ衰えて逝ってしまった。

けれど、あまりにもすんなりと日常生活に戻れてしまう、映画や小説の中の「息子」のように父の死を哀しめない自分がいる。そんな自分に対して人として何か欠けたものをモヤモヤ感じつつ2度目の月命日を迎えたころ、わだかまりの輪郭がくっきりと浮き彫りになってきた。

晩節の父は、どうしてネット右翼的な思想に染まってしまったのだろうか?
どちらも、著者が同じで、父親が77歳でがんで亡くなったこと、晩年はネット右翼的だったという記述から、ほぼ同一内容ではないかと思われます。

デイリー新潮の記事の方は有料ではなく普通に読めますので、こちらの記事を基にして話を進めたいと思います。詳しい内容はデイリー新潮の記事を読んでいただければと思いますけれども、ざっと論旨を整理すると次のようになるかと思います。
・父の遺品PCに多数の右傾コンテンツが残されていた。
・晩年の父は偏向発言をつぶやき続けた。
・晩節の父は、がんと同時にヘイト思想の猛毒に侵されていた。なぜなら父の中で、「古き良きニッポン」を失ったという大きな喪失感があったのだ。
・偏向言説者に変節したのちの父の中では、その美しかったニッポンに対する喪失感が、「それは何者かによって奪われた」「何かによって変えられてしまった」という被害者感情に置き換えられていた。
・父は、その胸に抱えていた喪失感を、「右傾コンテンツ」というビジネスに利用されたのだ。
・こんな形で彼を失ったことを、息子の私はいま、初めて哀しく悔しく感じている。
筆者の第一感は「なんだこりゃ」でした。御尊父を失った悲しみは理解できますし、お悔やみ申し上げますけれども、御尊父が「右に変節したのは、喪失感を右傾コンテンツというビジネスに利用されたのだ」とは、単なる推測でしかありません。きっと、息子だけが分かる何かがあるのでしょう。けれども、それだけでいきなり一般化されても、第三者は理解できません。少し強引に過ぎます。

少なくとも、この鈴木氏の記事には、「耕論」記事冒頭で謳われている「事実に基づかず、隣国を面白おかしく叩くような現象」を検証した部分は見当たりません。言葉は悪いですけれども、ただの感想+αといったところです。

勿論、デイリー新潮の記事を基にしての話ですから、実際の朝日「耕論」の方にはバチっと検証した記事なのかもしれません。ただ、件のデイリー新潮の記事は相当文字数があることと、朝日「耕論」は3人の論者の記事を載せていることを考えると、鈴木大介氏の記事に、デイリー新潮の記事と同じだけの紙幅が与えられているとも思えません。

デイリー新潮の記事をかなりサマライズするか、論点を1つに絞るくらいしか出来ないでしょう。けれども、デイリー新潮の記事のサマライズ版はもとより、論点を1つ、2つに絞って検証したとしても、せいぜい一部でそういうケースがあるといえるくらいであって、それだけで「事実に基づかず、隣国を面白おかしく叩くような現象」と大上段に振り被られても困ります。


3.どんなコンテンツでも時間と共に淘汰される

では、他の2論者の記事にならそれがあるのか。

残念ながら安倍宏行氏、木村幹氏の記事が読めないのでなんともいえないのですけれども、こちらの「耕論」一覧のページには小見出しだけ掲載されています。それは次の通り。
安倍宏行さん(ジャーナリスト)「ネタの面白さ優先 表層的」
木村幹さん(大学教授)「『叩けば折れる』を越えて」

流石に小見出しだけでは分からないですね。ただ安倍宏行氏の「ネタの面白さ優先 表層的」というのは、別に嫌韓に限ったことではなく、電車の吊革広告でいくらでも見かける類のものです。

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もしも、これをもって、「事実に基づかず、隣国を面白おかしく叩くような現象」というのであれば、モリカケでやったように事実に基づかず、安倍総理をとにかく叩きまくった現象」と比較検証していただかなくては説得力は皆無です。

最後の「『叩けば折れる』を越えて」となると、もう推測すらできません。けれど「叩けば折れる」を越えるからには「叩いて粉々にしろ」ということでしょうか。それとも、叩くと折れるから、飛び越えて相手にしないということでしょうか。どちらにせよ、この「耕論」冒頭の主旨とはズレているように思われますから、多分違うのでしょう。

先に取り上げた鈴木大介氏の論によると、今の世論は「右傾コンテンツ」ビジネスが蔓延って中高年が食い物にされているということになりますけれども、そのいい方をすれば同じく「左傾コンテンツ」ビジネス、または「反日コンテンツ」ビジネス、或いは「親韓コンテンツ」ビジネスだって有り得ることになります。

現に、朝日、毎日などが「左傾・反日」記事を書いて、購読者から金を取っている訳ですから立派にビジネスしてますし、芸能テレビでも見られる「韓国押し」だって立派な「親韓コンテンツ」ビジネスでしょう。長らく日本人は彼らの食い物にされてきたと反論することだって可能ですね。

ですから、これは右だろうが左だろうが、どこまで事実に基づいた説得力のある論を張っているか、そしてそれらが結果としてビジネスになっているかどうかだけの問題であって、「左傾コンテンツ」ビジネス、「反日コンテンツ」ビジネス、「親韓コンテンツ」ビジネスが左前になっているとするならば、最早それだけの魅力がなくなっているだけのことなのだと思います。

いっとき、嘘をついて、あぶく銭を稼ぐことはあるかもしれませんけれども、自由主義市場において、永久にそれを続けることは出来ません。多くの人を長期間騙すことは出来ないからです。

特に、今のようにネットによって瞬く間に情報が拡散していく時代であれば猶更です。

「右傾コンテンツ」ビジネスにしても、それが酷く偏っていたり、ヘイトであったり、間違っているものであったなら、やがて時間と共に淘汰されていくでしょう。それだけのことです。

朝日が「事実に基づかず、隣国を面白おかしく叩く」と言い切るのであれば、特集記事でも組んで何日掛かってでも、きちんと検証記事を書いて、世間を納得させるだけのものを書けばよいだけのことです。もはや単なる「印象操作」レベルの記事では世の中の支持は得られないということを知るべきではないかと思いますね。

この記事へのコメント

  • 詠み人知らず

    筆者のおっしゃっている通りだと思います。本当にあの日曜朝の番組に出ている人達も、政府批判や嫌韓に対する批判をここぞとばかり声高に喋っておりますが、ほとんど個人の感想だけで間違いを具体的に指摘していません。他のまっとうな番組なら司会者か誰かがそこを突っ込むのに、みんな同じお仲間だからそのままスルーしている。ネットに興味が無い年齢層を対象にしているのだろうが、その人達に嫌韓、反韓が増えているとニュースがありました。もうあの人達は何を目指し、何を勝ち取ろうとしているのかちょっと恐ろしくなります。
    2019年10月24日 15:13

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