北朝鮮の目前に広がる二つの道

今日はこの話題です。
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1.金剛山は北と南の共有物ではない

11月15日、北朝鮮官営の朝鮮中央通信は「金剛山は北と南の共有物ではない」という論評記事を出しました。

記事は、「我々の金剛山は民族の前に、後代の前に、我々が主人になって我々が責任を負い、我々の方式で世界的な文化観光地として立派に開発する……金剛山観光開発に南朝鮮が割り込む余地はない……時刻表が決まった状況で、我々はいつまでも通知文ばかりやり取りしながら意味なく歳月を送ることはできない」と述べました。

北朝鮮はその中で「11日に南朝鮮当局がつまらない主張に固執すれば施設撤去を放棄したものと見なして一方的に撤去を断行する断固たる措置を取るという最後通牒を送った」と、最後通牒を送っていた事実を明らかにしています。

「朝鮮中央通信」が記事で指摘した「南朝鮮当局のつまらぬ主張」とは、北朝鮮金剛山国際観光局が10月25日、統一部と現代グループに「金剛山地区に国際観光文化地区を新たに建設する」とし、「合意される日に金剛山地区に入って当局と民間企業が設置した施設の撤去」を求めてから、韓国政府が示してきた立場を意味するものとみられています。

事の発端は、先月23日、金正恩委員長が金剛山を現地指導し、「みすぼらしい南朝鮮施設を一掃しろ」と指示したことでした。

これを受けた北朝鮮は文書交換方式で日にちを決めて撤去するよう韓国側に伝えたところ、韓国政府統一部は、10月25日に「金剛山観光の創意的な解決法を用意する」とし、10月28日に「当局間実務会談開催」提案。そして11月5日に「共同点検団を構成して訪朝」するという立場を北朝鮮側に伝えたのですね。

けれども、北朝鮮はこれを一蹴したようです。

件の記事では、「南朝鮮当局が『創意的な解決策』だの『実務会談の提案』だのと狐を馬に載せたようなことを言っているが、言葉の意味が理解できていないようなので、10月29日と11月6日、我々の確固たる意思を重ねて明白に通知した……南朝鮮当局は『深度ある議論』や『共同点検団の訪問の必要性』などと言いながら白を切った」とバッサリ。「しろと言う時にもできない金剛山観光をすべて終わった今になって議論するというのだから話にもならない……扉を開けて待つ時は何もせず、後に実際に扉を閉めると『金剛山をさらに誇らしく整えていくという立場』と聞いていられないようなことを言い、入れるようにしてほしいとうるさくねだるのは見ていられない……問題なく開かれている耳をふさいで的外れなことを言ってとぼける相手にこれ以上話しても口が痛いだけ」と非難しています。

北朝鮮が談話でなく「記事」という形式でこのことを報じたことから、北朝鮮の「通牒」を韓国政府が4日間沈黙したため自ら公開したものと分析されていますけれども、北朝鮮の拒絶通知を隠してやり過ごそうとした韓国政府の面目が丸つぶれになった訳です。

韓国統一部は、「この事案を厳重に受け止めている」とし、「金剛山観光問題は南北が互いに合意して処理しなければならない。金剛山観光事業の当事者である事業者と緊密に協議し、落ち着いて対応していく」と焦りを隠せずにいます。

実際、キム・ヨンチョル統一部長官は14日に金剛山観光の南側の事業者であるヒョン・ジョンウン現代グループ会長と、翌15日には現代峨山や韓国観光公社など金剛山地区に投資した約30社の事業者たちと懇談会を開いているところから見てもその狼狽振りが窺えます。


2.条件闘争に走る北朝鮮

更に北朝鮮はアメリカにも牽制球を投げました。

11月14日、北朝鮮のキム・ミョンギル首席代表は、国営の朝鮮中央通信を通じて談話を発表しました。

談話では、アメリカ国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表が第三国を通じて12月中の再協議を提案してきたと明らかにしたうえで、「協議を通じて問題を解決することが可能ならば、任意の場所と時間にアメリカと向き合う用意がある」として協議に応じる姿勢を示しました。

けれども、その一方で、「協議相手の私に直接連係することは考えず、第3者を通じていわゆる朝米関係に関する構想というものを宙に浮かせているが、理解できない。これはかえって米国に対する懐疑心ばかりを増幅させている……アメリカ側が解決策を講じたなら、我々に直接説明すればいい……私の直感では、アメリカはまだ我々に満足のいく回答をする準備ができておらず、米国の対話提起は朝米間の再会でも演出して時間稼ぎをしようという策略としか判断できない」と述べました。

キム首席代表は「解決策」について、「敵対視政策を撤回するための根本的な解決策は提示せず、情勢の変化によっては瞬時に紙切れと化す終戦宣言や連絡事務所の開設といった副次的な問題を持ちだし、我々を協議に誘導できると計算しているのなら、問題解決はいつまでたっても見込めない」とコメントしています。

終戦宣言や連絡事務所の開設などは、情勢によっては簡単に反故にされる程度のものであり、もっと簡単に変更できないものを求めていると主張している訳ですね。

ただ、アメリカのエスパー国防長官が、協議を下支えするために近く予定されている韓国との合同軍事訓練の計画を変更する可能性もあるという認識を示したことについては「今回の発言がトランプ大統領の考えを反映したものだと信じたい。対話を維持しようというアメリカ側の肯定的な努力の一環だと評価する」として歓迎しているところを見ると、韓国との合同軍事演習を止めるとか、経済制裁の解除といったレベルのものを交換条件と考えているようです。


3.北朝鮮が時計の針を戻したらアメリカの時計の針も戻る

この北朝鮮の談話について、11月14日、アメリカ国務省の広報担当者はNHKの取材に「米朝首脳会談で合意した両国関係の改善と恒久的な平和の構築、それに完全な非核化について、進展を目指すトランプ大統領の方針に変わりはない」と今後も協議を続けていく姿勢を強調しています。特に焦っている様子も見られません。余裕の態度のようにすら見えます。

筆者は、10月8日のエントリー「米朝実務者協議決裂」で、北朝鮮はアメリカと"駆け引き"をして少しでも自分に有利な条件を引き出そうと条件闘争をしていると述べたことがあります。北朝鮮は自分で年末まで待つと啖呵を切ったのまでは良かったですけれども、肝心のアメリカが望むように動かないかもしれないことを考えると、期限を切ってしまったのが逆に仇になってしまう可能性があります。

17日、タイのバンコクを訪れているアメリカのエスパー国防長官は、韓国の鄭景斗国防相と共同で記者会見し、「北朝鮮もわれわれと同様の善意を示し、前提条件なしに交渉の席に戻ることを促す」と近く実施する予定だった米韓合同軍事演習について、北朝鮮との外交交渉を後押しするため延期することを明らかにしました。

果たして、これが、北朝鮮の望む条件を満足するものなのかどうか。

米韓合同軍事演習延期を切っ掛けに、12月に米朝実務者協議か何かが行われたとしても、そこで、何も進展がな刈った時、北朝鮮はどう動くのか。或は、北朝鮮は忍耐も尽きたとかなんとかいって協議を打ち切り、いつものように引き籠るかもしれません。

けれども、だからといって経済制裁が解除されるなど、状況が大幅に変わるということも考えにくい。畢竟、現状のまま膠着状態に陥ることが予想されます。ただ、北朝鮮は金剛山観光開発から韓国を排除しようとしていることから、経済制裁下での韓国からの経済援助すらもとよりあてにしていないかもしれません。

北朝鮮は、望む結果を得られなかったからと時計の針を戻すかもしれません。それは北朝鮮の勝手かもしれませんけれども、望む結果が得られないという意味ではアメリカも同じです。何より時計の針が戻るのであれば、それこそトランプ政権が日本海に空母打撃群をバンバン派遣して、空爆目前にまでいった2017年以前に戻ることだって在り得る訳です。


4.北朝鮮の目前に広がる二つの道

11月2日のエントリー「韓国から遠ざかる日米」で筆者は、アメリカのB52爆撃機が10月28日に対馬海峡から日本海に抜ける飛行経路をとったことについて、「韓国がレッドチーム入りする動きを止めないのなら、アメリカは、韓国を見捨てる、防衛ラインを旧アチソンラインに引き直す」というメッセージも含まれているのではないかと述べたことがありますけれども、韓国がGSOMIAを破棄し、在韓米軍が撤退する事態となれば、それは日米にとっての防衛ラインが、アチソンラインいまで後退することを意味します。

これは、そのまま東アジアの平和維持の枠組みの変更を意味することにもなります。無論、アメリカの安全保証の枠から韓国が外れることになりますから、韓国への投資はおろか、進出していた外資等々の企業は一斉に撤退することになるでしょう。これは韓国にとって十分に「パーフェクト・ストーム」になると思います。

ただ、アメリカは、たとえ在韓米軍を撤退させたとしても、今の状況では、米韓同盟そのものを破棄するとは言わないと見ています。なぜなら、米韓同盟があるということ自身が、半島有事に際してアメリカが介入出来る口実になっているからです。それは、事実上、米韓同盟が有名無実化していたとしてもです。

仮に、在韓米軍が半島から撤退した後、北朝鮮が電撃作戦か何かでソウルを陥落させたとしても、アメリカは米韓同盟を口実に北朝鮮を空爆することだって出来る訳です。

その意味では、北朝鮮がアメリカとの交渉期限を今年一杯だとしたのと、アメリカが韓国に対し、在韓米軍の費用負担交渉が年末までに妥結する必要があるとしているのとで妙に符合しているように思えてなりません。

つまり、北朝鮮が非核化されることによって、米朝間で平和条約が結ばれるか何かして緊張緩和されるか、逆に、非核化交渉決裂によって、北朝鮮が空爆されるかの2つの道があるのではないかということです。

アメリカの対中姿勢を考えると、中国の影響力が半島全体に及ぶよりは、北朝鮮に楔を打ち込めるのであればそちらの方が得策ですからね。北朝鮮を西側に取り込みたい、取り込めなければ潰しておくという選択肢を否定することは出来ないと思いますね。

無論、韓国には米軍関係者の家族や、米国市民権保持者、永住権保持者を含め、20万人以上のアメリカ人が居住していますから彼らを残したまま、いきなりの北朝鮮と事を構える可能性は低いと思います。

けれども、韓国のGSOMIA破棄を口実に、在韓米軍撤退と歩調を合わせて一斉に資本や在韓アメリカ人を引き揚げることはあり得ると思います。

また、北朝鮮空爆ともなれば、在日米軍、自衛隊等々で慌しく動きがあるでしょうけれども、GSOMIAが破棄された後ならば、それら軍事情報を韓国と共有する必要もなくなります。なんとなれば、空爆1分前に韓国に通達して、問答無用で爆撃することだって出来る訳です。

そこまで考えるとやはりGSOMIA破棄から在韓米軍撤退までの流れは、日本の防衛ラインの後退のみならず、北朝鮮への空爆の可能性にまで繋がる大きな転換になるのではないかと思いますね。

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